第四話「約束の時! もえが告げるヒカリへの返事は!?」
「葉月さん……こういう場合はヒカリさん一人で行かせてあげるものですよ」
体育館裏で待っていたもえは、ヒカリに同伴してやってきた葉月の存在を確認するや否や嘆息して呆れを口にした。
とはいえ、葉月にそんなつもりはなく、あくまでヒカリの付き添いである。
空気の読めない奴扱いされて黙っているわけにはいかない葉月が「いやいや、ちょっと待ってよー」と口にするも、そこへ重ねてヒカリが口を開く。
「私がお願いしたんですよ。もえちゃんだけと話す機会でしたから、せっかくと思って……」
「あ、不安だから一緒に来て欲しいって意味合いじゃなかったんだ、この付き添いー?」
「まぁ、それもあります……というか、理由のほとんどはそれなんですけど」
頬を赤らめ、目線を泳がせながら手遊びをするヒカリ。
もえも理由は理解したようで葉月に早とちりしたことは謝罪した。
「……というわけで、葉月も卒業ですし何かお互いに言っておきたいことでもありましたら」
「え、葉月さんも卒業するんですか?」
「何だよー!? 私だけ留年すると思ったのー!?」
「大学受験で失敗したと聞かなかったので、もう一年いるのかなって」
「卒業するし、四月からは大学生だよー!」
「あ、そうなんですね。じゃあ、不思議な感じしますけど……卒業おめでとうございます」
「どうして素直に祝福できないかなー!?」
腕組みをし、首を傾げながらもえの減らず口に対して文句を叫ぶ葉月。
とはいえお互いの表情は楽しそうなもので、こういったやりとりもカード同好会としては見慣れたものである。
「そういえば随分とここに来るまで時間がかかった気がしますけど……何かあったんですか?」
「途中、しずくと幽子に会ってねー。偶然にも全員と鉢合わせしたよー」
「それぞれに色々とトラブルを抱えてましてね……結果遅れてしまいました。すみません」
「いや、そういう理由でしたら別にいいですよ。それより、葉月さんの要件をさっさと済ませましょうか」
「酷いなぁー!? これから後輩へ色々といいことを言おうとしてたのにー!」
もえの滅茶苦茶な物言いにペースを崩されつつ、葉月は咳払いをして仕切り直す。
「まぁまぁ、私のようなお邪魔虫はさっさと退散するから手身近に……とりあえず、もえ。カード同好会に入ってくれてありがとね」
「そういえば入部した時にも言われましたね。なんか意外と丁寧な人だなぁって思った記憶があります」
「意外って……。でも、カード同好会の五人目がもえで本当によかったと思うよ。もう一度言うけど、ありがとう」
葉月は穏やかな笑みを湛え、もえに握手を求める。
瞬間、もえは驚きに目を見開き――しかし、素直に応じる。
「私も入った部活がカード同好会でよかったです」
「そっか。なら、カード部をよろしくねー。部長としてちゃんとやるんだよー?」
「分かってますよ。葉月さんの名が霞むくらいに頑張りますっ!」
「普通、先代部長の名前は伝えていくものじゃないないのかなぁ……?」
イマイチ締まらない感じとなってしまった新旧部長の会話ではあるが、葉月は「らしいのかな」と苦笑。
これから行われるであろうことを思い、葉月は「それじゃあ私はそろそろ」と口にしてこの場をさっさと去ることに。
校舎の方へと歩き出し、二人に背を向けて手を振る――が、もえは「葉月さん!」と呼び止める。
(……去り際によく引き止められる日だなぁ。卒業式だし、そんなもんー?)
そのように思いつつ振り向き、もえと僅かな距離をもって向き合う。
「私を部長に任命してくれたこと……それだけは感謝してます!」
「それだけー!?」
「冗談ですよ。でも、頑張りますから……葉月さんにもらった一歩、無駄にしませんからっ!」
そう言ってもえは勇ましい表情と共にサムズアップし、葉月はそんな新部長の姿にこみ上げる感情を堪えて笑みを作る。
「私も頑張るからさー、お互い何かに行き着くといいよねー!」
そして、同じように葉月も親指を突き立てた。
○
新旧部長の美しいやり取りがそこにはあった――のだが、ここでもえの意地悪な心が働いてしまう。
葉月が校舎へと戻っていくまでに三回も追加で呼び止め、サムズアップを交わしていい感じになった空気はぶち壊しに。
三回目には葉月を呼び止める理由が特になかったのか、もえは「好きな食べ物ってなんでしたっけ?」と問いかけた。
葉月の好物はハンバーグらしい。
さて、そんなどうでもいい情報はさておき――もしかすると緊張のせいで葉月をいじって気持ちをごまかしていたのかも知れないもえも、ヒカリと向き合う時間がきた。
もちろん呼び出したのは――告白の返事をするためだ。
「ヒカリさん、まずは卒業おめでとうございます」
「ありがとうございます、もえちゃん」
「それじゃあ部室行きましょうか」
「えぇ!?」
「冗談ですよ」
「それはそれで残念ですね」
葉月との対応から明らかに尾を引いているもえの悪ふざけ。そして、それに乗っかり、何事もなく部室に戻るというお預けを楽しもうとするヒカリ。
「こうして呼び出したのは分かってると思いますが……あの時の返事をするためです」
「ようやく聞かせてもらえるんですね」
「私としては墓場まで持っていくこともやぶさかではないんですけどね」
「それだと私、死ぬまで片思いですよ……」
「永遠に答えを出さなかったらヒカリさん、そうなるんですか」
冗談めいた会話ではあるが、もえはヒカリの言葉に「やっぱり一途な人なんだなぁ」と彼女の人間性を感じ取っていた。
「ヒカリさんとの思い出といえば、まず出会った日。火災報知器を鳴らそうとしていた時ですよね。私がなんとか静止して」
「あれを押したら三回目でした」
「……よく卒業できましたね。素行最悪じゃないですか」
「雰囲気で得しているというか……誰も私を疑わないんです」
「品行方正なイメージって自覚的だと最強の武器ですね」
「犯人が見つからないストレスが凄かったでしょうね、先生方は」
アルバム片手に思い出話的な穏やかトーンで語ったヒカリだが、もえは教師陣の苦労を思って表情が引き攣ってしまう。
(ヤバいなぁ……常識を再教育しないままこの人が大学に進み、そしていつかは社会へ出ることをこの国は許すんだもんなぁ。私、将来『いつか絶対やると思ってました』って言う立場になったりしないといいけど……)
ヒカリの将来を心配しているのか、馬鹿にしているのか分からないもえの思考はさておき。
「まぁ、そんなわけで火災報知器を出会いとして今日があるわけじゃないですか」
「私との思い出話、それだけで今に至るんですか!?」
「まぁ、他にも色々あったとは思いますけど……ラーメン屋行ったり。あとは……えーっと、ラーメン屋に行ったり?」
「映画も行きましたよ!」
「そうでしたっけ?」
「あ! もえちゃん、あの時寝てたからっ!」
両手で頬に添え、心底ショックと言わんばかりの表情を浮かべるヒカリ。
その間にもえは腕組みをし、首を左右に傾げて「あと何があったけなぁ」とヒカリとの思い出を記憶の海からサルベージしていく。
そして、古典的にポンと手を叩いてもえは口にする。
「あとヒカリさんから告白されましたね!」
「えぇー!? 私の中で一番攻撃力の高いイベントだと思ってましたけど……そんな爪痕残ってない感じですか?」
「冗談ですって。ずっと私の中で考えてきたことなんですから、忘れるわけないじゃないですか」
「毎日考えてくれてたんですよね?」
「うーん……隔日ペース?」
「真剣に悩んで下さい! 眠れないくらいにっ! 食事も喉を通らないくらいにっ!」
両手でポカポカともえの肩を叩き、頬を膨らませて怒るヒカリを見つめながら愉快そうに笑うもえ。
こんな会話ももえの中で出した告白への回答、それを深めていくのである。
ヒカリと一緒にいることは楽しい。
こういう弾んだ会話が心から笑えて、そんな日々を引き止めたくなるくらいに愛しい……そんな気持ちを何と言うのか?
それに名前がついたからこそ、もえは返事をしなければならない。
自分の気持ちを口にした瞬間のヒカリを想像しながら……覚悟を決め、もえはゆっくりと息を吸って、吐き――真剣な眼差しで告白してくれた先輩を見つめる。
「真剣に考えたのは事実です。私はちゃんと悩んで……そして、答えを出しました」
「覚悟は出来てますから。もし振られたら……キッパリ諦めるって。未練たらたらでもえちゃんを困らせるつもりはありませんからっ!」
「そうですか。……それじゃあ、返事をします」
そう言ってもえは目を閉じ、ヒカリとの日々を振り返ってみる。
出会って一年――ヒカリはカード同好会の先輩であり、大企業の社長令嬢。そして、打てば響くいじめ甲斐のあるドがつくMで。気がつけば口から出ているもえの辛辣な言葉に身悶えする変態……それが白鷺ヒカリだった。
(あれ、もっと格好いいイメージが出てくると思ったんだけどな……。他になかったけ?)
ホワイトボード大好き芸人で、典型的な腹ペコキャラ。
そして、コントロールデッキ一筋な職人気質。
――何かに一途で、揺らがない。
それはヒカリの魅力で――と、そこまでを思ってもえは目を開き、眼前の憧れを見つめて返事をする。




