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78 新体制へ

 帝国兵の撤退を見届けた後、俺とロゼは学園に戻った。

 ゼーハイドと戦った生徒騎士の中には重傷者もいたが、エレイン先生たち回復術師の活躍で、さいわいにも死者は出なかったらしい。

 途中、ネルズィエンから何度かメッセージが届き、端末の通信範囲も大雑把には確認できた。

 キロフが本当に滅んだのかどうかは、現時点ではまだわかってない。


 ストレスを感じないとはいえ、戦い続けた疲労はある。

 俺は寮のベッドに倒れ込むように横になると、そのまま泥のように眠りを貪った。


 その翌日、俺とロゼは円卓の会議室にいた。


 会議室には、円卓の五人が揃っていた。

 中央にエクセリア、その左右にバズパとメイベル、メイベルの右側に円卓の男女二人が座っている。


 みな疲れた顔をしてる中で、エクセリア会長だけが、疲れを感じさせない顔でこちらを見た。

 数時間程度の仮眠くらいしか取れてないだろうに、人前で疲れた様子を見せないのはさすがである。


「お疲れ様です、会長。言われた通り、ロゼと二人で参上しました」


「うむ。君たちも疲れているだろう、適当に椅子に座ってくれ」


 エクセリアの言葉に甘えて、俺とロゼは会長たちから円卓を挟んだ向かい側の椅子に並んで座る。

 エクセリアは、目を落としていた書類を脇に押しのけ、俺のことを真っ直ぐに見つめてきた。

 強い意志を感じさせる碧眼に見つめられ、若干居心地の悪さを感じたが、とりあえず正面から受け止めておく。

 エクセリアともそれなりに馴染んではきたが、改めて向き合ってみると、奇妙な既視感に襲われる。


(そうか、ネルズィエンと通じるものがあるな)


 サンとジトヒュルという違いはあるものの、ともに芯の強い美女で、人を率いる立場にある。

 敵と似てると言われれても微妙だろうから、その感想は胸のうちにしまっておく。


 エクセリアが小さくうなずいて口を開く。


「エリアック。君の懸念していたことは理解できたと思う。

 異世界からの転生。ウルヴルスラ様の証言がなければにわかには信じられなかっただろう。

 帝国の丞相キロフもまた、転生者だったという。

 この世界の人間であるわたしには、キロフの発想は理解できないのではないか――

 君はそう懸念していたのだろう?」


「ええ、まあ……」


 もっとも、最近はそうでもないかもしれないと思い始めていた。


 円卓は、この世界基準で優秀な存在だとは思っていた。

 言ってはなんだが、前世で二十年と少し、生まれ変わって十五年を生きた俺から見れば、学園の生徒騎士はまだ未成年の子どもである。

 にもかかわらず、エクセリア率いる円卓は、前世で俺が属した会社組織のリーダーたちと比べても、高い能力とカリスマを持っている。

 正直、舌を巻いていた。


 だが、それでもまだ、俺はこの円卓を見くびっていたと言っていい。

 エクセリアは、俺に言われるまでもなく、入団資格の平民への拡大まで検討していたという。

 メイベルはウルヴルスラとの交信から、アーカイブを調べて昔の生徒騎士の魔術を復元していたばかりか、さらに発展させ、体系化することまでやっていた。

 副会長であるバズパも、トワの家柄の知識を生かして、学園内の防諜をこなしていた。

 戦闘能力を取っても、円卓の男女ペアまで含め、学生離れしたレベルにあると思う。


 エクセリアが言う。


「君は一年生ながらチームを作り、われわれを倒して円卓となることを目指していた。

 たしかに、帝国との戦いが迫る中で、他に方法はなかったろう。

 君は急いていた。キロフとの邂逅を経た後ではなおさらな。

 君が急いたのはもっともなことで、正しい危機感だったとわたしも思う。

 円卓も、帝国については危機感を持って行動していたが、君の目からすれば、それでも足りないと感じたのだろう。

 その点では、君の見方が正しかったことは認めよう」


 エクセリアはうなずき、話を続ける。


「だが、事態の進展は、君の悲観的な予想すら超えつつある。

 キロフがいまだ健在である可能性があると君は言った。

 そうでなければいいと思うが、対策は悲観論で行うべきだ」


「そうですね」


 これでキロフがあの時やっぱり死んでいた、というならそれでいい。

 肩透かしではあるが、警戒を怠る方が危険である。

 後になってから準備不足を悔いるより、取り越し苦労になった方がよっぽどマシだ。


「今となっては、君がチームを結成し、わたしの円卓を倒して学園騎士団の長となる……などという手段は、目的に対して、遠回りにすぎるのではないだろうか?」


 エクセリアが、それこそ遠回りな言い方で本題に入る。

 予想してた通りの流れだが、俺はひとまず、何もほのめかさない形で答えを返す。


「たしかに。

 俺がもう一人メンバーを見つけてチームを作り、ラシヴァやこれから入れる誰かを鍛え上げ、エクセリア会長の円卓を倒して生徒会長になる……そんな時間的余裕があるかは疑問です。

 いや、確実にないでしょうね。帝国だって、この学園の仕組みについては情報を持ってます。精霊教会をスパイにしてたんですから」


 円卓に挑むどころか、俺はまだ、自分のチームの最後の一人すら見つけられていないのだ。

 キロフとの決戦が想定してた以上に早かったとも言えるし、俺の見通しが甘かったとも言える。


 まあ、入学間もない遠足の段階で、霊威兵装研究所なんてものを発見し、その帰り道でキロフと対面するなど、入学時点で想定しろと言う方が無理だとは思うけどな。


 あの偶発的な邂逅の結果、俺とキロフの戦いは大きく前倒しされたと言っていい。

 俺はもちろん、キロフにとっても予想外の展開だったはずだ。

 そのおかげでかえって、キロフにもまだ、付け入る隙が残ってたのかもしれない。

 逆に、もし六年前のブランタージュ戦役の時点で俺の存在が割れていたら、俺はキロフにあっさり殺されていた可能性もある。


 結果的に、エクセリアたち円卓と協力体制を敷いた上でキロフとの短期決戦に臨めたのは、望外の幸運だったと言えそうだ。


「キロフが生きているという仮定に立つなら、俺はキロフに手の内を知られたということになります。キロフはすぐにでも対策を打ち、万全の備えをした上で、俺を排除しようとするでしょうね」


 キロフには戦乱を長引かせる動機があるが、自分の脅威となりうるものを放置するとは思えない。

 キロフが愉悦を得、同時にゼーハイドを養殖させるための牧場に、飼い主を殺しかねない害獣なんて必要ない。


「うむ。キロフから見て、最大の脅威はエリアック、君だろう。奴が生きているのなら、君がウルヴルスラの支配権を得る前に、勝負を決めようと考えるはずだ」


「キロフは戦線を膠着させ、犠牲者を増やすこと自体を目的としているフシはありますが、危険要因は予め取り除こうと考えてもなんら不思議ではないですね。

 キロフが生きているとしたら、前回の戦いはこちらの実力をはかるための威力偵察だったことになる。

 だとしたら、こちらの戦力を見極めた上で、すぐに次の手を打ってこないとも限らない。

 そのあいだに今の円卓に勝てるチームを作り上げるのは厳しいでしょうね」


 誰でもいいから一人入れて人数の条件を満たし、俺とロゼで円卓を薙ぎ倒せばいいのでは? と、思うかもしれない。

 もちろん、やってできないことではない。

 だが、そんな方法で会長の座を手に入れたとして、上級生ばかりの生徒騎士たちを、心から従えられるかは疑問である。


「問題は、生徒会長になることだけではない。

 もし君たちが首尾よく円卓になれたとして、生徒会長としての職務を引き継ぐまでには時間がかかる。

 職務だけではない。学園内のさまざまな上級生たちと良好な関係を築き、対帝国の戦いに巻き込まれたとしても、彼らが君に間違いなく従うような体制を築かねばならない。

 これは、戦闘や魔法の実力さえあればできるという話ではない。

 君が、旧円卓となるわたしたちを部下にしたとしても、新体制が機能するまでには時間が必要だ。おそらく、今君が想像しているよりも時間がかかる。組織作りとはそうしたものなのだ」


「そうですね」


 生徒会長の言うことだけに、その言葉には説得力があった。

 もちろん、俺だって懸念してはいたんだけどな。


「ローゼリアは、聡明な王族だ。

 学園では家柄は問わないとはいえ、生まれた家で身につけてきたものを生かすのは当然のこと。

 その補佐があれば、体制作りは可能だろう。

 ただ、時間はかかる。

 一年生に権力を握られた上級生は当然面白くないと感じるだろう。

 君に実力があればこそ、君のことを認めざるを得ず、その不満は嫉妬となって君の足を引っ張るはずだ。

 そうした情念を鎮めながら、学園内に味方を作っていく必要がある。

 できるだろう――時間さえあれば、な」


「でも、その時間がない」


「そうだ。時間がない。

 ここまで言えば、わたしの言いたいことはわかるはずだ」


「俺たちに、円卓に入れって言うんですね?」


「ああ。帝国に対抗する上で、君は鍵となる存在だ。仮に円卓に入らなかったとしても、いずれにせよ協力してもらうことになる。

 だがそれなら、わたしの円卓に入ってもらったほうがやりやすい。

 ちょうど、現在の円卓は5人。枠は4人分空いている。まあ、各術科の人数制限の問題はあるのだが……」


「各術科から3人ずつ、属性の被りは禁止ってやつですね」


「うむ。当面は実力順で円卓とその控えに分けることになる。個人的には術科の人数縛りはもっと柔軟に変更していいと思って改正の準備をしていたのだが、このタイミングで校則を変えるのは問題だろう」


「自分たちのメンバーを増やすために縛りを変えるってのは、ちょっと外聞が悪いですね」


 状況が状況だけに理解はされるだろうが、どこにでもやっかむ人間はいるものだ。


「そういうことだ。

 それでも、君、ロゼ、ユナの三人は円卓に入れる。

 だが、ロゼとユナは魔術科だ。円卓から魔術科の生徒騎士を一人控えに移す必要があるな」


「いいんですか? そんな横車を押すようなこと……」


 俺は、メイベルの隣にいる円卓の女子に目を向けた。

 入団試験の時の試験官だった女子だ。

 キロフとの決戦にも参加し、メイベル、ラシヴァとともに「キロフ」とも戦っている。

 女子がうなずく。


「正直、忸怩たるものはあるがな。

 しかも、よりによってローゼリアとユナシパーシュが競争相手では、メンバーの座を奪い返すことも難しい。

 だが、円卓は実力で決めるのが規則なのだ。わたしに実力で敗れ、円卓になれなかった生徒騎士だってたくさんいる」


「円卓戦に限って言えば、対戦相手との相性で、ローゼリア、ユナシパーシュ、シュノーから二人を選べばよい。シュノーが控えと限ったわけではないさ」


「ラシヴァは?」


「武術科の枠は足りるが、現状実力不足だな。

 気持ちが強く、才能もある。ゆくゆくは可能性があるだろう。

 君やローゼリア、ユナシパーシュと比べれば力不足は否めないが、比較対象がその三人では、さすがに彼が気の毒だ」


 肩をすくめるエクセリアに、バズパが言う。


「単体での戦闘能力は、まだまだ伸びる余地があるでしょう。将器が現れるかどうかは、今後の研鑽次第でしょうね。最初はチームの切り込み役として、ゆくゆくは小隊規模の指揮官として活躍できるのでは、と思います」


「彼にとって仇敵であるキロフとの決戦でも、自分を抑えることができていました。あの場面で撃発するようなら、わたしは彼の加入に反対していたことでしょう。控えから始めるということなら、チャンスを与えてもいいのではないかと思います」


 メイベルも、ギリギリ合格の判定を下したようだ。


 そうすると円卓は、


 魔術科:エクセリア、ロゼ、ユナ

 武術科:バズパ、リキアス(武術科の男子)、(空き)

 学術科:メイベル、俺

 控え:シュノー(魔術科女子)、ラシヴァ


 という体制になる。

 控えには、他にも十人ほどの生徒会所属の生徒騎士がいるらしい。

 控えというか、二軍的な位置付けだな。

 二軍は模擬戦リーグに別チームで参加することもあるらしい。

 円卓に準じる実力の持ち主たちを塩漬けにするのはもったいないからな。


「いいんですか、そんな待遇で迎えてしまって」


「一時的な措置だ。君たちはわたしの円卓で経験を積みながら、将来に備えて円卓に挑むチームを別に作ってくれてもいい。

 もしそれでわたしたちを降して円卓となるようならそれでいい。この円卓での実戦経験、実務経験があれば、円卓交代時の混乱も最小限で済むだろう。

 だが、ここだけの話、わたしは円卓という制度自体を変革する必要があると思っている」


「円卓を?」


「うむ。来年から入学者の人数を増やしたとしよう。そうなれば、騎士団としてのウルヴルスラは、統率の仕組みを高度化する必要に迫られる」


 エクセリアが右隣のメイベルをちらりと見る。


「現在の学園騎士団は、総数六百十九名です。

 この規模ならば、円卓戦のチーム――5名から9名を一分隊とし、それを束ねていく形で統率が可能です。術科ごと、教室ごとにも動かせますので、目的に応じて柔軟な対応ができるのです。

 ですが、それができるのは、六百人強というのが、円卓が目配りできる、ギリギリの人数だからに他なりません。

 将来的にウルヴルスラが千、場合によっては数千、万といった数に膨らむ場合、統率のありようは一変します。

 具体的には、学園騎士団をいくつかの中隊に分け、円卓は中隊長たちを統括するという形になるでしょう。

 この場合、中隊長は数百の生徒騎士を率いることになるわけですが、現状、ウルヴルスラでその規模の集団を統率する訓練を積んでいるのは、生徒会長しかいないということになってしまいます。

 つまり、中隊長クラスの士官養成を真剣に考える必要が出てきます。

 さらに、円卓にも、現在よりも大きな規模に膨れ上がった学園騎士団を統率する能力が求められます」


「なるほど、今のウルヴルスラ全体と同じ規模の隊がいくつもできることになるんですね」


「ええ。その場合、現在の分隊規模の円卓戦によって優劣を競うことに、そこまで合理性があるのかという話になってきます」


 メイベルの言葉に、エクセリアがうなずいた。


「かといって、中隊規模の軍事訓練をするのは、ウルヴルスラの都市機能をもってしても難しいのだがな。図上演習や模擬訓練で代替するしかないだろう」


「ウルヴルスラ様はシミュレーターを活用するべきとおっしゃっていました」


「だが、シミュレーターは指揮官の訓練にはなるが、指揮される側の訓練が別に必要だ。

 もともとそうした規模の軍事訓練は、ミルデニア王国に出仕して、地位を得てから経験を積むものだった。

 円卓にはそうした訓練を行うノウハウがない。手探りでやっていくことになるだろう」


「そもそも、王国側に、ウルヴルスラの定員増、それも、平民や留学生の積極的受け入れを認めさせられるかどうか、という問題もありますね」


「それこそ、最も頭の痛い問題だな……」


 エクセリアが上を向いてため息をついた。

 そのエクセリアに、ロゼが聞く。


「ひょっとして、エリア――エリアック君だけでなく、王女としてのわたしを円卓に加えることにも意味がある、ということなのでしょうか?」


「正直に言えばそれもある。

 バズパはトワの家柄だから、『王国の影』に話を通すことはできる。

 だが、会長であるわたしは伯爵の家で、しかも次女なのだ。貴族界への影響力はほとんどない。

 学園では家柄を問わない規則ではあるが、学園を一歩でも出れば、そんなことは言っていられないからな」


「仮に王国側が必要を認めて入学者を増やせたとしても、その後、学園騎士団が力をつければ、王国とのあいだに軋轢が生じるおそれもあります。その時に、こちらに王女がいれば有難いというのはありますね。ローゼリアさんには失礼な話ではありますが」


「必要であれば、わたしは王女としての身分を生かすことは厭いません。捨てようにも捨てられない以上、使える時には使うべきなのです」


 と、ロゼがしたたかなところを見せてそう答える。

 ロゼが微笑んで言う。


「王女としての身分を離れた一個人として見てほしい、と思うことはありますけど……わたしにはエリアがいれば十分ですし」


 そう言って俺の腕を取ってくる。


「そ、そうか……」


「まあ、それでいいならなんでもいいです」


 エクセリアが目を泳がせ、メイベルがそっとため息をつく。

 バズパは黙って苦笑している。

 円卓の男女コンビは、ちらっと目を見合わせて笑っていた。


 俺は、気まずい思いを振り切り話を戻す。


「でも、円卓を決める必要はあるわけですよね。

 従来の円卓戦がふさわしくないというなら、どうしていくつもりなんです?」


「指揮官の選抜には、レギオン戦を使おうと思う」


「ウルヴルスラの機能解放でできるようになった、複数チームでの軍団戦ですね」


「ああ。これまでの円卓戦と比べると、個人の戦闘技術より、軍団を統率する能力や、そのための人望といった要素が重要になるだろう」


「うーん……俺には苦手な分野ですね」


「べつに、会長のようなカリスマだけが人望ではありません。エリアック君にはエリアック君なりの人望があるように思います」


 と、メイベルがフォローしてくれる。


「俺なりの人望……ですか?」


「そうですね。女性をたらし込む能力とかではないですか?」


「いや、俺にそんな能力があるとは初耳ですよ」


「ふっ。安心しろ。エリアックはまだ一年なのだ。キロフ対策は急ぐ必要があるが、それは現体制の課題だろう。わたしたちが卒業するまでには、騎士団を引っ張っていけるように仕込んでやる」


「それって俺なんですか? ロゼのほうがいいんじゃ」


「ダメだよ。学園では家柄は問わない建前なんだから、わたしが生徒会長になるのは避けた方がいいと思う」


「ローゼリアの言う通りだな。

 実際は実力で勝ち取った地位なのだとしても、ローゼリアが会長になれば、外形的には王女だから会長になれたのだと思われかねん。あるいは、学園の自治に王家が介入したと受け取られるおそれもある。

 まあ、ローゼリアならば、実力でねじ伏せて認めさせることもできるだろうがな」


「この学園は、ウルヴルスラ様の意向もあって、男子女子のあいだの差別がありません。

 ですが、対外的にはそうも言っていられません。女性の多い今の円卓は、かなり例外的なのです。

 これでも、かなり苦労しているのですよ?」


「そうなんですか」


 俺も、男を立てておいた方が無難、みたいな考え方には、賛同したくないんだけどな。


 顔に不満が出ていたか、バズパがにやりと笑って言ってくる。


「それにだな、今のようにローゼリアがエリアックにべったりな状況では、ローゼリアが会長だと言っても説得力に欠けるだろう」


「た、たしかに!」


 ロゼが会長に、俺が副会長になったとして、ロゼが俺にべったりくっついてたら、実権は俺が握ってると勘ぐられる。

 というか、実際にロゼは、なにもかも俺に相談して決めようとするにちがいない。

 実質的に、俺が会長でも副会長でも、意思決定の面では大差ないことになりそうだ。


「まさか……そこまで計算して?」


 俺は、腕に手を回したままのロゼを見下ろして聞く。


「や、やだなぁ。そんなことまで考えてないよ!」


 屈託のない笑みで言ってくるロゼに、俺は末恐ろしいものを感じずにはいられなかった――。







 ともあれ、こうして学園都市ウルヴルスラの最初の危機は去ったのだった。


 その数週間後に、俺はネルズィエンからのメッセージで、丞相キロフが健在であることを知った。

 ネルズィエンが急ぎラ=ミゴレに戻った時には、まだキロフは復活していなかったという。

 ネルズィエンは帝国を取り戻すための工作に奔走したが、一週間が経ったところで、キロフがいずこからともなく現れたらしい。

 キロフは狼狽するネルズィエンを冷笑し、権力をあっという間に取り戻した。


 それから半月後には、ネオデシバル帝国は、かねてより侵攻していたヒュルベーン王国を攻め滅ぼし、その領土を自らの版図に加えてしまう。


 ヒュルベーンが滅んだことで、周辺国も、いよいよ対帝国戦争に本腰を入れはじめるはずだ。

 ジオラルド、シャルディス、そしてミルデニア。

 かつて五大国と呼ばれた大陸は、帝国以外には三つの王国を残すのみとなってしまった。


 混迷を深める国際情勢の中、俺は力を蓄え、同時に、ともに戦う仲間を育てるべく、円卓に入ることを決意したのだった。

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