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NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~  作者: 天宮暁
第五章 15歳

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60 声

「え、エリア、どうしたの?」


 ロゼが振り返って聞いてきた。


「あー、いや、どうも通じたみたいだな」



 ――もう少し様子を見たかったのに



 どこからともなく、少女の声が聞こえてくる。

 ダウナーな感じのその口調は、ユナにちょっと似てる気がした。


「なんでだよ?」



 ――おもしろいから

 半日くらい放っておくと、みんな地金が出るようになる



「性格悪いな、おい!」



 ――どうしても適合者になりたい人は、半狂乱になっておもしろい

 こっちが反応してないのに反応があったと騙り始める生徒もたまにいる

 他の適合者にあれは嘘だよと教えて、もめるのを見るのがとても楽しい



「タチ悪すぎだろ!」


 思わずそうつっこむ俺に、メイベルが言ってくる。


「ち、ちょっと待ってください、エリアック君。あなたにはウルヴルスラの『声』が聞こえているのですか?」


「え、そうですけど……メイベル先輩は違うんですか?」


「声が聞こえる適合者なんて、数十年に一人くらいしかいないはずです。通常のウルヴルスラとの交信は、もっと感覚的なものなのです」


「さすがエリアだね!」


 すかさずヨイショしてくるロゼのことは置いておいて。



 ――うぬぼれないでほしい

 言葉によるコミュニケーションでは伝えきれないこともある

 とくに現在のこの大陸のような低文明状態の人間には、言葉で見せるより直接「示した」ほうが早かった



「普通は言葉では伝えきれないから直接『示す』んだそうですよ。

 っていうか不便だな。それならみんなに聞こえるように話すこともできるんだろ?」



 ――それもそう

 これで聞こえる?

 我はウルヴルスラ……偉大なる魔術師見習いエリアック=サンヌル=ブランタージュの懇願に応え、しかたなく声をかけてあげた存在なり



「聞こえた!」

「……聞こえる」

「き、聞こえました!」


 ロゼ、ユナ、メイベルが口々に言う。


「待て、わたしには何も聞こえないぞ?」


 俺たちを後ろから見守っていたバズパが、戸惑った顔で言ってくる。



 ――適合者以外には届かない わたしを規定する定義がそれを許さないから

 形而上の存在になるということは、形而下への干渉力を奪われるということ

 例外はない……奴らを除いては



「あ、あなたがウルヴルスラなのですか!?」


 メイベルが叫ぶ。

 珍しく、うろたえた様子だった。



 ――メイベル、あなたはいつもいい仕事をしてくれる

 彼らをここへと導いたことは、その中でも最上の仕事のひとつといえる



「彼ら、ですか……。

 さっきの口ぶりからすると、エリアック君はもちろん、ローゼリアさんやユナさんも適合者だったということですか?

 そんな、一度に三人も……」



 ――稀有なことではある

 でも、因果というものは、平穏な時にはどこまでも平穏な反面、乱れる時にはとことんまで乱れるもの

 まるで、並べたドミノを倒すように……いや、この比喩はエリアックにしかわからない

 まったく、大陸の水準に合わせて言語化するのは難しい……

 とにかく、些細なものごとが、それより少しだけ大きなものごとを動かすことがある そうして動いたものごとが、さらに大きなものごとを動かしていく

 大陸の西端で蝶が羽ばたいたことが、大陸の東端で嵐が起きる原因になる……これは極端なたとえ話ではあるけれど、人間の運命には、時としてそうした極端な現象が起こりうる

 通常ならそうした連鎖は、どこかで途絶えるはずのもの

 それが、運命としかいいようのない確率的な過程を経て、世界そのものをひっくり返すような変化を巻き起こす

 古代に滅んだ帝国が蘇り、異世界からの転生者が二人も同時に現れ、そのうちの片方は黄昏人の末裔である姫と契りを結ぶに至った

 これだから、人はおもしろい

 とくにこの学園都市という空間では、大陸の低レベルな文明から遮断されていることで、運命の萌芽が芽吹きやすい

 わたしが()り育てたいのはそうした萌芽――人間の可能性そのもの



「ちょっと待て。『ドミノ』って言ったか?」


 いきなり前世にしかなかったはずのものを持ち出され、俺は思わずつっこんだ。

 蝶の羽ばたきの話も、この世界用にアレンジしてはいるが、前世のカオス理論の有名な喩えそのものだ。


 ウルヴルスラは、俺の質問には応えずに言った。



 ――運命の(さい)も捨てたものではなかった

 十五年でこの結果は上出来の部類



「十五年……ってことはまさか……」



 ――よくここまでたどり着いた、運命の子

 あなたがこの世界に転生した理由を教えてあげる



 ウルヴルスラは、ずばりと本丸に切り込んできた。


「やっぱりか……!」


 今のところ、両親の他には同じく転生者であるキロフしか知らないことだ。

 ロゼにはこれから話そうと思っていた矢先だった。


 それ以外で知ってるのは、俺を転生させた張本人である女神(?)だが、ウルヴルスラとは受ける印象がかなり違う。


「俺が本命だったのかよ。しかも、精霊がらみじゃなくてそっちの話か」


 ここで転生の話が出てくるとは思ってなかった。

 前世で現代人として生きていた俺が、「原始精霊」なんていう存在と相性がいいとは思わなかったのだ。


 霊威兵装の中で長い間亡霊となって過ごしたユナのほうが、「原始精霊」だというウルヴルスラとは相性がいいとばかり思ってた。


 あるいは、三重属性で桁違いの魔力を持つロゼだろう。

 ロゼは三年前に黒装猟兵に誘拐されかけたこともある。

 古代宮殿ラ=ミゴレを根拠地とする帝国がロゼを狙った以上、ロゼに古代がらみの秘密があるかもしれないとは思ってたからな。


 俺が考え込むあいだに、再びウルヴルスラの声がした。



 ――黄昏人の末裔 貴女もまた、運命に導かれた一人



 その声は、なんとなくだが、ロゼに向けられてるようだった。


「えっ、わたし?」


 ロゼが戸惑った顔をする。



 ――エリアックと貴女が出会ったことは、まさに運命としかいいようがない

 わたしの計算すら凌駕した驚くべき「偶然」……すなわち、運命

 論理と定義に拘束されるわたしには理解できず、また魂と輪廻を司る彼女にも部分的にしかわからない、肉に縛られた人間だからこそ持ちうる、有限にして無限の可能性……



 ウルヴルスラのセリフは、はっきり言ってちんぷんかんぷんもいいとこだ。


「……結局、わたしは関係ないということ?」


 置き去りにされたユナが、ちょっと不服そうにつぶやいた。



 ――わたしへの適合ということなら、貴女はもちろん合格している

 ユナシパーシュ、悲劇の子よ



「……悲劇の子はひどい。わたしはこれでも前向きに生きている。そう生きようと誓った」



 ――そう それはすばらしいこと



「でも、どうせ話しかけるつもりだったなら、最初から声を聞かせてくれればよかった。

 完全に忘れてて、後からあわててわたしにも声をかけてきた感じ。

 わたしには、安い慰めも肯定も必要ない。あなたがなんと言おうとわたしはわたし。

 神様を気取りたいなら、二百四十年前になんとかしてくれるべきだった」



 ――うっ……できるものならそうしていた



「ち、ちょっと、ユナさん。ウルヴルスラになんて口の利き方をしてるんですか」


 メイベルがユナにそう言った。


「運命とか悲劇とか、そんな気取った言葉がわたしは嫌い。

 わたしの経験したことを、そんなセンチメンタルな言葉でわかったつもりにならないでほしい。

 この程度の抗議で怒られるくらいなら、交信なんてこっちから願い下げ」


 ユナが、無表情のままで言い放つ。

 無表情だからわかりにくいが、ウルヴルスラの言ったことがよほど気に障ったらしい。



 ――気に障ったなら謝る 貴女と同じで、わたしも人の心の機微には疎い



「なんで謝りながらわたしまで落としてくるの?

 わたしも人の心の機微には疎いかもしれないけど、あなたほどの礼儀知らずじゃない」


 そ、そうか?

 会長に対してもタメ口で通してる奴が言うことじゃない気がするが。


(なんか……似てるよな)


 ぽつぽつと短い言葉で話す感じとか。

 言葉に感情がこもってないところとか。

 そのくせ、ムキになると饒舌だ。


「そうか、同族嫌悪か」


 俺がポンと手を打ってそう言うと、



 ――誰がこんなやつと!

「誰がこんなやつと!」



 ウルヴルスラとユナの声が重なった。






 流れた気まずい空気を破ったのはメイベルだった。


「あの、ウルヴルスラ? エリアック君たちに何か用があったのでは?」



 ――そうだった

 性根のねじけた女が余計なことを言うから、肝心なことを忘れるところだった



「性根のねじけた女って誰のこと?」


 とユナ。



 ――具体的に誰とは言ってない

 胸に手を当てて考えればわかるはず



「……もう帰っていい?」


「お、落ち着けユナ。聞きたいことが山ほどあるじゃないか」


「それはエリアックとロゼだけでもいいみたいだし。性悪な精霊と交信なんてしたら、わたしの性格まで歪みそう」



 ――普段は悟ったような顔をしてるくせに、一時の感情に流されて判断を誤る

 なまじ魔力に恵まれてたせいで、ものごとをゴリ押しばかりで片付けようとするのがあなたの欠点

 取り澄ました顔をしてるけど、一皮剥けばただのゴリラ



「ぐぅっ!? あなたこそ、急に饒舌になった。痛いところを突かれて動揺してるのは確定的に明らか。精霊様精霊様とみんなから持ち上げられるうちに勘違いしてるだけのお子様にすぎない」



 ――……わたしのほうがあなたより五倍は歳上

 お子様はあなたのほう



「長く生きてればいいってものじゃない。人生経験を伴わずに長く生きたってただ老害になるだけ」


「ち、ちょっと、どちらもいい加減にしてください!」


 メイベルがたまらず割って入り、ユナとウルヴルスラが口をつぐむ。


「ウルヴルスラ。エリアック君への用件の話をしませんか?」



 ――わかった 埒があかない



「……どう考えてもあなたのせい」


 ユナがぼそりと言うが、ウルヴルスラも今回はスルーした。



 ――このままでは話しにくい

 そこから下に降りてきて

 わたしはそこにいるから



 ウルヴルスラの言葉とともに、樹のそばに青い光のサークルが浮かび上がった。


「エレベーター?」



 ――違う これはテレポーテーションユニット 転移法陣

 ただし、適合者以外には使えない



 そこで、黙って成り行きを見守ってたバズパが言う。


「なあ、話がさっぱりわからないのだが……」


「バズパには声が聞こえてなかったですからね」


 メイベルが答える。

 バズパが額を押さえながら聞いた。


「つまり、エリアック、ローゼリア、ユナの三人が、いずれも適合者だったということか?」


「はい、三人が適合者であることは認められました。

 ただ、エリアックとローゼリアは別件のような口ぶりでもありました。

 これからあの……転移法陣? で、奥へと進むようです。バズパには使えないそうですが」


「まるで、適合者であるのは大前提で、エリアックとローゼリアにはそれ以上の何かがあるかのように聞こえるな。

 まあいい。後で詳しく教えてくれ。

 どうせわたしには関わることのできない話のようだ」


「すみません、バズパ。ここで待っていてください」


「わかったよ」


 バズパが肩をすくめて了承した。



 ――バズパ=ヌル=トワ

 彼女も惜しい

 適合者になりうる素質はある



「バズパ、ウルヴルスラが言ってます。あなたにも素質はあるらしいです。惜しい、そうですが」


「そうなのか? だが、素質と言われてもな。どう磨きようがある?」



 ――精霊との適合性を高めること

 つまり、魔法の修練の問題

 なぜわたしが、入試を魔法の実技だけで行なっているのかということ



「魔法の修練の問題だそうです」


「なんだ、そんなことでいいのか。

 しかし、それで『惜しい』と言われるのは悔しいな。

 メイベルはクリアしているというのに」



 ――メイベルは性格面での適合性も高かった

 とくに、アーカイブを直感的に扱えるだけの特別な素質がある

 これは魔法とは別の、かなり珍しい部類に属する素質

 生粋のライブラリアン、膨大なデータを処理する能力は、現在の大陸では過小評価されている



「たしかに、メイベル先輩は博覧強記ですよね。それも、ただ覚えてるだけじゃなくて、情報が整理されてるし、分析も深い」


「そ、そうですか……」


 俺の言葉に、メイベルが少し照れたような顔をする。

 同時に俺のすねに食い込んだロゼの蹴りを、俺は歯を食いしばって耐え忍ぶ。



 ――もちろん、それだけでは適合者にはなれない

 メイベルには適合者としての才能と、膨大なデータを処理する才能、性質の異なる二つの才能が同居していたということ



「その、適合者としての才能っていうのはなんなんだ?」


 俺が聞くと、



 ――魔法を研究し、修練し、その本質に一定以上迫っていること

 といっても、強力な魔法が使えることと、魔法の本質に迫っていることは別問題

 魔法の威力の面で他者に劣っても、魔法の本質にはより迫っているということもありうる

 ただし、本質に迫っているのなら、威力のある魔法を使えないということはありえない

 具体的には、入団試験の仮想ターゲットを破壊できないようでは、魔法の本質に迫っているとは言いがたい



「なるほどな。そのための試験だったのか」



 ――魔法は、人間に扱いやすいよう、センスによって制御できる仕様になっている

 でも、その本質はロジックにある

 ただし、そのロジックは形而上的なもので、即物的なものではない

 即物的なロジックの探求は科学(サイエンス)に帰結し、形而上的なロジックの探求は魔法へと帰結する

 この二種類のロジックの探求は、べつのベクトルのものであるため、一つの文明の中で共存できることは稀

 そのことは、エリアックにはわかるはず



「魔法と科学は両立しにくいってことか」


 前世では魔法なんて完全にオカルトだったからな。

 前世には精霊なんてものはいなかったはずなので、こっちの世界で使えてるような形では、魔法を使うことができなかったのかもしれない。



 ――魔法を扱う技術は、テクニックではなくアートに近いもの

 技術というより技芸に近い

 そのことを今の生徒騎士の中で最も理解しているのがメイベル

 次点は、エリアックかエクセリア



 俺とメイベルは、思わず顔を見合わせた。


 メイベルが言う。


「は、はあ……ありがとうございます、ウルヴルスラ。

 では、この学園都市の入試は、適合者を選ぶための一次試験のようなものだったのでしょうか?」


 メイベルの指摘にハッとする。

 たしかに、ウルヴルスラの言い方では、適合者になるための条件と、入団試験で求められてるものは同じだということになる。



 ――これ以上は話すと長い

 まずはこっちに来て



 青い光のサークルが、急かすようにちかちかと瞬いた。


 俺、ロゼ、ユナ、メイベルがサークルに入る。

 バズパはここに居残りだ。


「気をつけて行ってこい」


 バズパが片手を挙げて見送ってくれる。


 その瞬間、俺たちをまばゆい光が包み込んだ。


 高いところから落ちるような感覚に、思わず受け身を取りそうになった。

 だが、実際にどこかに落ちたわけじゃない。そんな感じがしただけだ。


 光が消えた。

 目の前には、あの樹もバズパも見当たらない。


 そこにあったのは――いや、いたのは。



「ようこそ。ここに人を招いたのは千年ぶり」



 さっきまで脳内に響いていた声が、その少女から発せられた。

年も明けたので新作を始めました。

『真価を認められず勇者パーティから一方的に追放された俺は、魔物固有のぶっ壊れスキルを駆使して勇者たちに復讐し、その首を手土産に魔王軍で成り上がり、最後には魔王にも復讐する。そう決めた。』

https://ncode.syosetu.com/n4192fg/

果てしなく長いタイトルですが、その通りの内容になってます。

ご興味のある方はぜひ。

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