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NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~  作者: 天宮暁
第五章 15歳

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47 前世

「たしか、闇野(やみの)光佑(こうすけ)、と言ったはずです。報道で何度も耳にしたので覚えています。私にとっては当事者ですしね」


「なん……だって……」


 俺は、痛む頭を片手で押さえる。


 闇野。

 闇野光佑。


 その名前には、たしかに聞き覚えがある。


(いや、聞き覚えがあるどころじゃない)


 それは、俺の名前だ。


 頭を押さえる俺を、キロフが這うような目で観察しながら、言葉を続ける。


「かつての上司の顔を忘れましたか?

 まあ、お互い転生していますものね。わからないのも無理はない。

 やれやれ。あなたがばら撒いてくれた遺書のおかげで、こっちは散々な目に遭いましたよ。

 あの会社でのお楽しみも、そろそろ潮時かとは思っていました。

 しかし、私が安全圏に逃げ切る前にネットで騒がれてしまった。あれには正直参りました」


「おま、えは……」


 俺の脳裏を、無数のフラッシュバックが駆け抜ける。


 俺の記憶の、厳重に蓋をされた部分に、焼き付いて離れない顔があった。


 キロフとは別の顔だ。

 だが、同じくらい美形で、不気味で、人間味を感じない顔だった。


 髪を整髪料で後ろに撫で上げ、眉を細く整えている。

 他人に関心のなさそうな冷たい目は、その実、常に他人へと無遠慮に向けられていた。

 他人が無意識に発するあらゆる情報を、その男は決して見逃さない。


 整形でもしてるんじゃないかというほどに整った鼻や、鋭い顎のラインまでもが思い出せる。


 吐き気を催すような邪悪。


 その名は――


紅瀬川(くぜがわ)(りょう)……」


「ほう、やはりそうでしたか」


 キロフが満足げに唇を歪める。


(ちっ……今のはしらばっくれるべきだったのに)


 あまりの衝撃と、急激なフラッシュバックのせいで、自制心が働かなかった。


 紅瀬川了。

 俺の務めていた中堅企業に中途採用で入ってきた男だ。

 年齢はたしか三十過ぎだったはず。

 アメリカの名門大学でMBAを取った秀才で、外資系コンサルで大手企業のコンサルティングを手がけていたらしい。

 その後、経営の傾きかけてたうちの会社に入ってきて、会社のあらゆる業務に口を出すようになった。


「……思い出した。

 おまえが入ってから、あの会社はおかしくなった。

 以前は、業績はパッとしないが人間味のあった職場が、日に日に殺伐としていった。

 宗教まがいの自己啓発セミナーが頻繁に開かれて、強制的に参加させられた。

 社員は狂ったように残業し、次々に潰れていった。

 誰かが潰れればその分他にしわ寄せが行って、会社はさらにブラックになっていった」


「その一部始終をまとめたあなたの遺書は、なかなかよい記録でしたよ、闇野君。

 病気に追い込まれたり、過労死したりした社員やその遺族たちは、こぞってあなたの遺書を引用し、会社から賠償金を勝ちろうとしていました」


「ずっと疑問に思ってたんだよな。

 人間性は別として、あんたは超がつくほど頭がキレる。MBAホルダーで経営に明るく、コンサルとしてのキャリアもあった。

 そんな人間が入って、どうして会社がブラック化するのか、と」


 間違いない。

 こいつは、確信犯でやっていたのだ。

 あの会社に目をつけたこいつは、人のいい社長に忍び寄ってまんまと会社に入り込んだ。

 そして、会社を悪くなる方へと追い込んでいった。

 もちろん、そのよく回る頭で、大義名分をこしらえあげた上で、だ。


 キロフが――いや紅瀬川が薄く笑った。


「すべて、嘘なんですけどね。

 留学経験はありましたが、MBAなど持っていません。

 外資でコンサルタントをした経験もありませんよ」


「なっ……そこからして嘘だったのかよ」


「あなたの会社の経営者は、間抜けそのものでした。

 私の経歴を疑うこともなく鵜呑みにし、会社の規模に見合わないような高額報酬まで用意して私を迎え入れてくれたのですから」


「どうせ、そういう相手を狙ったんだろう?」


「嘘というのは便利なもなのです。

 私より頭の回らない人間が相手なら、絶対にバレることがありません。

 おまけに、世の中には、他人の善意などという確かめようのないものを、無邪気に信じ切っている人間が腐るほどいます。

 あのお人好しの末路は知っていますか?」


「いや……」


 過労自殺した後のことを、俺が知っているはずがない。


「死にましたよ。家族を自らの手で殺して、自分も首を吊りました。無理心中というやつですね。

 くふふっ……その絶望のほどを思うと、いまだに笑いがこみ上げてきますよ。あまりにも愚かすぎる。

 遺書にはこうあったそうです。『未来ある若者たちをうつや自殺に追い込んだ責任を取る』と」


「なっ……」


 さすがに、動揺した。


(俺が自殺したことで……社長が?)


 平社員にすぎなかった俺が社長と話した機会なんてほとんどない。

 入社式で挨拶をする社長を見て「平凡なおっさんだな」と思ったくらいだ。

 ただ、会社がブラック化する前は、優秀な経営者ではないが、部下からは慕われる親分肌の人物だった……はずだ。


「責任ねえ。経営者が後追いで自殺したところで、死んだ社員が帰ってくるはずもないというのに。家族まで巻き込んで……。

 彼は、どれだけ視野が狭くなっていたんでしょうね? どれほど思い詰めれば、そんな馬鹿げた結論に至るのか。私にはまるで理解できません。

 まったく……『愚かさ』ほどに理解しがたいものは、世の中には他にありませんよ。私にとっては絶好のパズルだ。

 これだから、私は愚かな人間が大好きなのです」


「て、めえ……! 人の命をなんだと思ってやがる!」


「だから、パズル(・・・)ですよ。

 たとえるなら、ルービックキューブでしょうか。

 手順を踏んで色を揃えていく。すべての面が揃ったら、その人間の精神は崩壊する。そんなパズルが、世の中には人の数だけ溢れている。

 生きている実感のない私にとっては、格好の暇つぶしの材料だ」


 自分の言葉が人に嫌悪を与えるのを、この男は明らかに愉しんでいる。

 話がわからないなりに、俺以外の生徒騎士や帝国兵も、嫌悪に顔をしかめていた。


 俺は息を吐いた。


(こいつの性癖なんざどうでもいい。もっと実のあることを聞き出すんだ)


 そう考えた途端、ストレスを感じない俺は、すぐに感情を切り替えることができた。


「で、紅瀬川さんよ。あんたはなんでこの世界にいる? 俺と違って死んではいないんだろ?」


「ほう? 切り替えが早いですね。以前の君は、ちょっとでも気になることがあると、いつまでも気に病むタイプでしたが」


「答えろ」


「ふっ、いいでしょう。

 私も、死んだのですよ。あなたが自殺してから三ヶ月ほど経った頃でした。

 いえ、正確に九十日後のはずですね。六の倍数でないと計算が合わない。

 この世界の一日と地球の自転周期がほぼ等しいことは、転生直後に確かめていますので」


 六の倍数、というのは、俺がこいつと同じサンヌルだからだ。

 俺の生まれ日とこいつの生まれ日は、いずれも光曜日と闇曜日の境目である必要がある。


「おまえが死んだ?」


「ええ。私は駅のホームから線路に突き落とされ、電車に轢殺(れきさつ)されました。

 私を突き落としたのは、あなたのご同僚の女性です。

 あなたといい、その女性といい、あんな環境にいたのに元気なことですね。他の人間はちゃんと壊れて(・・・)いたというのに。

 やはり、人の心はパズルだ。私を当惑させるパズルですよ」


「誰がおまえを転生させた?」


「さあ? そこまではお答えできませんね。私こそ、あなたにそれを聞いてみたい。せーので明かし合いますか?」


「職業的な嘘つき相手に、そんな馬鹿なことをするかよ」


「くくっ。賢明だ。仕事で追い詰められたくらいで自殺を選ぶような愚かな人間でも、生まれ変わると多少は成長するものと見える」


 俺がこいつと長話してるのは、情報を引き出すためだけじゃない。


 俺がキロフと話してるあいだに、ロゼやネルズィエン、他の生徒騎士や帝国兵たちが、じわじわとキロフを押し包むように広がっている。


(下手に手出しされても犠牲者が出るが……)


 こいつとサシでやりあった場合に、俺が勝てる確証がない。

 さっきの感触じゃ、7:3くらいで俺が不利なんじゃないか。


「さて、久闊を叙したところで、本題に入りましょう」


 キロフが、自分を取り囲もうとする生徒騎士や帝国兵を、あざ笑うように眺めながらそう言った。

 いずれの生徒騎士・帝国兵も、ロゼやネルズィエンまで含めて、怯えの色が強かった。

 こいつがうっすらと放射してる闇魔法のせいだけじゃない。

 こいつという人間の放つ、根源的な得体の知れなさが、相対する者に冷たい恐怖を感じさせる。


 キロフが、ちらりとネルズィエンを見て言った。


「皇女殿下を返していただきたいのですよ。他の帝国兵は……煮るなり焼くなり、好きにしていただいて構いません。ご所望なら、ついでに引き取ってもいいですが」


「素直に渡すと思うか?」


「あなたの意思は問題ではないんですよ、闇野君。

 ネルズィエン皇女殿下。あなたは、帝国に戻りますよね? それとも、尻の青い学園の生徒騎士に引っ立てられて、大陸中の笑いものになりたいですか?」


「くっ……」


 キロフの嘲りに、ネルズィエンが小さくうめく。


「最初は、皇帝陛下の娘として、ミルデニアも捕虜として遇してくれるでしょう。

 しかし、あなたが帝国に対する人質にならないとわかった途端、ミルデニアは手のひらを返すことでしょうね」


 ネルズィエンが黙ってキロフを睨み返す。


 一方、キロフを包囲しようと連携していた生徒騎士と帝国兵の間に、はっきりと亀裂が入っていた。

 帝国兵はネルズィエンの返答次第で、キロフ側に駆け出せるように半身になる。

 生徒騎士は、キロフを警戒しつつも、いざという時に帝国兵を取り押さえられるように……あるいは、不意打ちを受けないように身構える。

 数に勝る帝国兵だが、武器防具は取り上げ、研究所の中に置いてきた。


 ネルズィエンが、長く迷う。


「く……」


 ネルズィエンは歯を食いしばり、キロフへと足を踏み出した。


「てめえ、ネルズィエン!」


 ラシヴァが怒りの声を上げる。


 俺も、ネルズィエンに向かって言う。


「ネルズィエン! こっちに来い! そいつの言いなりになったら、命が尽きるまですり潰されるだけだ!」


 ネルズィエンは、俺を見て首を振った。


「……それでもわたしは皇女なのだ。兵や民を見捨てて、自分だけ安全な場所に逃がれるわけにはいかぬ」


 ネルズィエンがキロフへと近づいていく。

 俺はキロフを睨んで言った。


「紅瀬川、おまえはなぜネルズィエンを取り戻しにきた? ネルズィエンにどんな利用価値がある? おまえは既に帝国の中枢を支配してるんだろう?」


「なに、個人的な問題ですよ。

 彼女にはこれから起こる帝国の悲惨をその目で見て、苦しんでいただかなければならないのです。

 私は、現実感を希薄にしか感じられないタチでしてね。

 彼女のような正気の人間の反応を確かめないことには、自分がきちんと残虐なことをできている自信が持てないのですよ」


 ……ほとんど理解不能な理屈だった。


「ちっ……おまえが掛け値なしの狂人だってことはわかったよ。

 もうこれ以上反吐が出るような話を聞いててもしょうがない。

 ――おまえはここで俺が倒す」


「闇野君……君はあいかわらず自分の身のほどがわからないようですね。

 だが、惜しいな……。君をここで殺すより、生かしておいたほうが、帝国もきちんと窮地に立てるでしょう。

 皇女殿下、もっとこっちに来てください」


 キロフはネルズィエンを自分の背後まで移動させると、こっちに向かって右手の指先を突き出した。

 親指と中指で音を鳴らす。


 ――ぎぢぎぢぎぢっ!


 異音とともに、キロフの前の空間に、ガラスが割れたようなヒビが走る。


 そのヒビを割って、巨大な獣の頭が飛び出した。

 獣の頭はヒビを通れず、もどかしげに首を震わせる。

 獣が身を震わせるたびに空間のヒビが広がっていく。

 獣が前に向かって力をかける。

 ヒビが砕け、獣が森の中に現れた。


 虚空から現れた獣に、キロフ以外の全員が息を呑んだ。


 獣は、青い半透明の身体をした巨大な狼だった。

 体高2メートル――いや、3メートルに近い。

 たてがみを逆立て、巨大な牙を剥き出しにし、俺たちに低い唸り声を浴びせてくる。

 ふぞろいの大きさの三つの目が、顔のバラバラの位置からこっちを睨む。


 異形の怪物に驚いたのは、キロフ以外の全員が同じだった。

 だが、とくに生徒騎士たちの動揺が大きい。

 それもそのはず、生徒騎士たちは、その怪物に見覚えがあったからだ。


「入試の時の仮想ターゲット……!?」


 生徒騎士の誰かがそう叫ぶ。


 そう。

 亀裂から現れたのは、俺たちが入団試験の時に攻撃した仮想ターゲットそっくりの「獣」だった。


 亀裂は正面だけじゃない。

 キロフを囲むべく動いていた生徒騎士の行く手を遮るように、他にも数カ所に亀裂が生じ、中から仮想ターゲットが現れる。


 合計で六体。


(もし試験のあれと同じなら、俺やロゼなら一撃で倒せるが……)


 他の生徒騎士にとっては、かなり危険な相手だろう。

 彼らは、試験を1回目で通ってない。

 弱体化された2回目以降のターゲットですら、撃破はできず、一定のダメージを与えることで合格したはずだ。

 試験と違って、目の前のこいつらが、レーンをゆっくり走ってくれるはずもない。


 キロフが、現れた獣を無感動に眺めながら言った。


「ゼーハイド、というらしいですよ。

 黄昏人がこの星に降り立った時に出くわした原住生物だそうです。

 昼と夜、光と闇、現実と夢幻の狭間から現れる、半形而上的な黄昏の獣……。

 まぁ、ざっくりモンスターと言って構わないでしょう」


「どうやってこんなものを……」


「さて、そこまで教えて差し上げるわけにはいきませんね。

 その獣たちと遊んでいてください。

 さあ、皇女殿下、行きますよ?」


 キロフがコートをばさりと翻す。

 コートから陰が伸び、巨大な手と化して、ネルズィエンの胴を鷲掴みにする。


「うああああっ!?」


「ネルズィエン!」


 キロフのコートがさらに膨らむ。

 コートの下から這い出た陰が、左右に広がり、翼のように宙に伸びる。

 空気をたわませ、キロフの足が宙に浮く。

 キロフはネルズィエンを陰の手で鷲掴みにしたまま、宙を滑るように後退する。


「では、闇野君。せいぜい悪あがきをしてください。あなたがあがけばあがくほどに戦火が広がり、私はパズルを愉しむことができるのです」


「待て!」


 俺は、キロフを追って駆け出した。

 振り返らずに後ろに叫ぶ。


「ロゼ! この場を頼む!」


「エリア!? ダメだよ!」


 ロゼの制止を振り切り、俺は森の陰から陰へと飛んでいく。

 キロフも、ネルズィエンを抱えた状態では、あまり高くは飛べないようだ。


「逃すかっ!」


 俺は「闇の弾丸」を放とうとする。

 その射線上に、キロフがネルズィエンを割り込ませた。

 俺は慌てて術を中断する。


「くそっ!」


「はははっ! この女は敵将でしょう? なぜ殺さないのです? 情でも湧きましたか?」


 キロフが背中を前に向けて飛びながら、嘲りの言葉を投げてくる。


「そんなに彼女が大事なら、こういうのはどうです?」


 キロフは、ネルズィエンを握っていた陰の手を跳ね上げ、指を開く。


「う、うああああっ!?」


 空中を激しく回転して落下するネルズィエンを、陰の手が乱暴に受け止めた。


「ぐうっ!?」


「ネルズィエン!」


「彼女を傷つけたくないのなら、大人しく諦めることですね。

 私は、あなたをからかうためだけに、彼女の四肢の一本二本を平気で奪う男ですよ?」


「くっ……」


 しかたなく、俺は追跡の足を止めた。


「あなたは優秀な新人でしたが、所詮、いいように利用される側にすぎません。

 利用する側だった私に、敵うわけがないでしょう。

 それでは御機嫌よう……くくくっ……はははははっ!」


 キロフは影の翼をはためかせ、一気に高度を上げていく。


 もう、ネルズィエンを取り戻すのは不可能だった。

 そもそも、奴の言う通り、ネルズィエンは敵将だ。

 深追いしてまで取り戻すべき相手じゃない。


「くそっ!」


 俺は踵を返し、森を急いで駆け戻る。


 頭に血が上って、優先順位を間違えた。


 だが、手遅れにならないうちに間に合ったようだ。


「『闇の弾丸よ』!」


 俺は入試の時より威力を上げ、ゼーハイドとやらの一体に魔法を放つ。

 弾丸はゼーハイドを貫通したが、試験と違い、砕け散ったりはしなかった。


「なにっ!」


 そのゼーハイドが怒りにうめいてこっちを向くあいだに、周囲の状況を確かめる。


 ゼーハイドは残り五体になっていた。

 ロゼの近くの地面が、ガラス化して固まってる。

 ロゼは問題なく「太陽風」でゼーハイドを仕留めたらしい。

 ロゼは別のゼーハイドに向かおうとしてる。


 別の場所では、ラシヴァとミリー、シズレーン、ハントが固まって、ゼーハイドの一体を相手にしてる。

 ラシヴァが牽制に放つ「炎弾」を、ゼーハイドが鬱陶しそうに振り払う。

 シズレーンがハルバードを振るい、生じた隙を、ミリーとハントが光魔法でカバーする。


 魔術科男子二人は、先輩の生徒騎士たちとともに、別のゼーハイドにありったけの魔法を連発していた。

 恐怖にかられての行動だが、それなりの人数で魔法を使ってるので、ゼーハイドの動きは止められてる。


 少し離れたところで戦ってるのは、老将ジノフを中心に陣を組んだ帝国兵たちだ。

 ゼーハイドは敵味方の区別をしないらしい。

 あるいは、キロフが面白がって、無差別に襲うように仕向けたのか。

 帝国兵たちは、生徒騎士とは年季が違う。

 武器はないが、固まって魔法を浴びせることで、未知の怪物相手になんとか均衡を作り出している。

 ジトばかりの偏った編成も、魔法を合わせる面ではプラスに働いてるようだった。


 いちばん危ないのは、ゼーハイドを数人だけで相手にしている先輩騎士だ。

 既に一人が森の木に身をもたせかけ、切り裂かれた胸を押さえてる。

 それをカバーしようと、他の生徒騎士がゼーハイドを引きつける。


「『闇の弾丸よ』!」


 そのゼーハイドを、俺の魔法が直撃した。

 今度は、ゼーハイドが砕け散る。


 その隙に、さっき仕留めそこなったゼーハイドが、俺に向かって飛びかかってきた。

 「闇の弾丸」が貫通したはずの場所は、青白い光に満たされ、既に半ば埋まってる。


 ゼーハイドの振り下ろしてきた前腕をかわし、側面に回る。


「当たりどころの問題か!? 『闇の刃よ』!」


 すれ違いざまに、極大に設定した「闇の刃」を、自分の足元から射出した。

 幅2メートルのギロチンみたいな漆黒の刃が、ゼーハイドの胸から腹にかけてを両断する。

 ゼーハイドは今度こそ砕け散った。


「エリア! ゼーハイドには『核』があるみたいだよ! そこを潰さないと回復されちゃう!」


 ロゼが、別のゼーハイドを攻撃しながら教えてくれる。


「『核』!? 見ただけじゃわからないが……」


 ロゼがわかったってことは、魔力の問題か。


 俺は、ラシヴァたちの組と戦うゼーハイドの魔力を探ってみる。


「あった! そこかっ!」


 俺の放った「闇の弾丸」が、ラシヴァに襲いかかろうとしていたゼーハイドの胸を貫通した。

 胸の奥にあった魔力の塊が砕け散る。

 同時に、そのゼーハイドも砕け散った。


「すまない、助かった、リーダー!」


 シズレーンの言葉に片手を上げつつ、俺は帝国兵の組へと向かう。

 魔術科生徒の組には、ロゼがもう向かってたからな。


 魔力を探知すると、


「今度は頭かよ!」


 ゼーハイドの頭部を撃ち砕く。

 帝国兵に躍り掛かるところだったゼーハイドが、氷像のように砕け散った。

 破片を浴びた帝国兵が、目を白黒させている。


 そのあいだに、ロゼは「太陽風」で最後の一体を仕留めていた。

 ロゼは俺と違って、個体ごとに場所の異なる核をいちいち探さず、ゼーハイドをまるまる蒸発させるという乱暴な手で戦っていた。


(そりゃ、効率的だけど……)


 俺の彼女が脳筋すぎる。

 いや、核があることを教えてくれたのはロゼなんだが。


「無事か?」


 俺はジノフに聞いた。

 ジノフは、狼狽する帝国兵たちをまとめあげ、当座の抵抗を諦めさせたようだ。


(かたじけの)うござる。して、皇女殿下は?」


「すまない。キロフに連れ去られた」


「さようか……」


 ジノフが黙り込む。


(この場合、どっちがマシなんだろうな)


 キロフに本国に連れ帰られるのと、俺たちの捕虜になるのと。


 他の組を見ると、荒い息をついて地面にへたりこんでる生徒が大半だ。


 さっきゼーハイドに胸を裂かれてた生徒騎士に、ロゼが近づいて「光の癒し」をかけている。

 ゼーハイドを一撃で確殺した「太陽風」に加え、回復魔法まで使えるのかと、先輩騎士が目を丸くしていた。


 そこで、遠くから声が聞こえてきた。


「おーい! 無事かぁっ!」


 円卓の腕章をつけた男子生徒が、生徒騎士たちを引き連れてやってくる。


「……ふぅ。終わったか」


 あまりに長すぎた遠足は、ようやく終わりを迎えたようだった。

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