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3 相克との闘い

 「神」から授かった【無荷無覚】の力があれば、二重属性光闇(サンヌル)のキツい相克を克服できるのではないか?


 そう思いついた俺は、興奮に震える両手を前に伸ばす。


 魔法は、基本的には手のひらから出る。

 他から出すことも一応できるが、神経の集まってる手から出すのがいちばんやりやすいと教わった。


 前世で、脳のどこが身体のどの部分と関係してるかを示した、ちょっとグロテスクな図を見たことがある。

 手と顔だけが大きくて、他の部分は小さい、脳の中に住む異形の小人。

 たしか、なんとかのホムンクルスってやつだ。


「二重属性の場合、それぞれの属性が左右の手に振り分けられるらしい」


 利き手みたいなものだと、父・エリオスは言っていた。


「俺の場合、右手が光、左手が闇だってことはわかってる」


 例外はあるが、利き手に前の曜日の属性が、利き手じゃない手に後の曜日の属性が振り分けられる。


 魔力の集め方は両親に習った。

 二人とも二重属性の使い手だから、教え方はとてもわかりやすい。


「……いきなりぶっ倒れたりしないだろうな……」


 過去にやった時にはぶっ倒れてる。

 四歳の時だったから、記憶はかなり曖昧だ。


 【無荷無覚】があったはずなのに、ストレスを感じたのだろうか?


 それとも相克は、ストレスや「ストレスに起因する身体の反応」とは関係のないものなのか?


「すっと息を吸って右手から」


 右手に、光の魔力が集まってくる。


「軽く息を吐きながら左手へ」


 左手に闇の魔力が集まった。


 魔力は、血液と同じように、体内をぐるぐると循環する。

 前世で経絡だとかチャクラだとか、そんなふうに呼ばれてたものなのかもしれないし、ちがうのかもしれない。


 左右の魔力は、手のひらから腕へ、腕から肩へ。


 魔力が身体の中心軸に達したところで、痺れるような感覚があった。


 相克が始まったのだ。


「これは……キツいな」


 左右の肺がそれぞれ別の属性に支配され、心臓を光と闇が奪い合う。

 呼吸と拍動が激しく乱れた。

 病気で肺や心臓が乱れるのとはちがって、いま起こってるのは、人体にはそもそも起こりえないような異様な乱れだ。


「くはっ……い、息が……」


 左右の肺がべつべつに動き、心臓はヤバい感じでリズムが狂う。


 光と闇の魔力は、脊髄上で反発し合いながら上下に分かれた。


 上に向かった魔力が、火花を散らしながら脳へと至る。


 とたん、激しい閃光を浴びながら、同時に真っ暗闇に閉ざされる……という、矛盾した感覚に襲われた。


「目は……見えてるな。まぶしくて同時に真っ暗な気がするが、これは魔力の見せる錯覚か」


 その錯覚のせいで、遠近感や平衡感覚が狂い、3D酔いを何十倍にもしたような強いめまいに襲われる。


「四歳の俺が倒れたのも……くっ。うなずける、な」


 やったことはないが、LSDのような薬物を飲むと、こんなようなことになるんじゃないか。


「でも……ストレスは、ない。怖さや不安は感じるけど、手が震えたりはしてない」


 たんに、通常ではありえない感覚に、脳が混乱してるだけのようだ。


「とりあえず……やってみるか。右手は光魔法、『灯りよ』」


 右の手のひらの先に、光が生まれた。

 ふよふよと浮かぶ、無色の光の塊だ。

 何がどう光を発してるのかは不明だが、とにかくそこに光がある。


「成功したっ!」


 魔法を発動できたのは、これが生まれて初めてだ。


 にわかに俺のテンションが上がる。


「よしっ、いいぞ!

 次は左手だ。闇魔法……『闇の霧よ』」


 左の手のひらの前に、黒いモヤのようなものが現れた。


 ポピュラーな闇魔法で、視界を閉ざす黒い霧を生み出すものだ。

 最低でも身を隠せるくらいの大きさがないとあまり意味をなさない魔法だが、最初は小さいものから始めると聞いている。


 とにかく、光を通さない霧のようなものが、俺の左手の先に現れている。


「『闇の霧』って具体的にどういうもんなんだよ……っていうつっこみは措いとくとして。こっちも成功したな」


 一度魔法の形で魔力を放出すると、体内での相克は治まってくるようだ。

 

「外へ向かう魔力の経路ができるから、かな?」


 灯りにせよ闇の霧にせよ、維持するには魔力を注ぎ続ける必要がある。

 そのあいだ、光と闇の魔力は、体内でぶつかることなく、左右の手のひらから流れ出す。


 ほどなくして、呼吸と心拍も落ち着いた。


「つまり、最初だけか。最初の相克さえ乗り越えれば、サンヌルでも魔法が使えるんだ……!」


 俺は思わずガッツポーズをした。


 その途端に魔法が消え、


「ぎおおおおっ!」


 再び相克に襲われ、俺は悲鳴を上げたのだった。

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