表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NO STRESS 24時間耐えられる男の転生譚 ~ストレスから解放された俺は常人には扱えない反属性魔法を極めて無双する~  作者: 天宮暁
第四章 12歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/80

19 不穏な社交界デビュー

 俺はベッドに座り、後ろからロゼを抱きかかえるような姿勢で、ロゼの両手を握ってる。


「こう、かな?」


「それだと強すぎるよ」


「これでは?」


「ちょっと弱いかな。あ、相克が来るよ」


「えっ!? あひゃうっ! 痛ぁっ!」


「俺が止めてもよかったんだけど……」


「大丈夫。慣れてるから……。それに、痛くないと覚えないし」


「自分でそれを言ってくのか……」


 なんとも克己心の強い王女様だ。


「でも、見えてきたんじゃない?」


「そうだね。なんとなく、二つの魔力の流れがわかるようになってきた」


「あとは、この感覚を忘れずにトレーニングを続けていれば、相克は制御できるようになると思う」


「うん、自信が出てきたよ」


 深夜の秘密トレーニングは四日目だ。

 感覚的な技術だけに、教えるのは大変だった。

 もっとも、【無荷無覚】でストレスを感じない俺は、同じことを何度も繰り返し教えるのが苦にならない。


「はぁ……緊張するなぁ」


 ロゼが言った。


「どうしたの? あ、園遊会のことか」


「うん。わたしの社交界デビューだから。でも、母上が裏で動いてるらしくて」


「母上って言うのは……」


「継母っていうのかな。わたしのお母さんはわたしを産んだ時に死んじゃったから」


 最初に相克の発作に襲われた時にも、そんなことを言ってたな。


「仲がよくないの?」


「継母の実家は精霊庁の枢機卿なの。もともと政略結婚だから、お父さんともあまりうまく行ってないみたい。子どももまだいないし」


「なるほどな……。国王陛下の寵愛を得るためには、前妻の忘れ形見であるロゼが邪魔、か」


「園遊会でも、きっと裏から圧力をかけて、嫌がらせをしてくると思う。どんなものかはわからないけど」


「そうか……」


 一瞬、俺が現王妃のところに忍び込んで因果を含めておく、という手を思いつく。


(いや、やりすぎか)


 ロゼには気の毒だが、継母のやってることは、人間関係から生じる通常の軋轢の範疇だ。それを魔法でどうにかしてしまうのはやりすぎだろう。

 ロゼを暗殺しようとしてる、なんてことなら、動くにやぶさかではないんだけどな。


(そういえば、最初にうちの別邸に来た時に、王様は妃を連れてこなかった)


 旧友に会うのに連れて行きたくない夫人、か。


(園遊会では、嫌でも会うことになるだろうけどな)


 園遊会は明後日だ。

 午後から城の庭園でパーティが始まるが、本番は夜の舞踏会だという。

 ロゼは宮廷の舞踏師に厳しく指導されてるし、俺も家で両親から習ってる。


(ま、いくら英雄の息子とはいえ、サンヌルが女性を誘えるわけがないんだけど)


「園遊会が近いですからね。今日は早めに終わりましょうか」


 その日のトレーニングは切り上げて、俺はロゼの私室の窓から外に出た。


 その瞬間、ピリつくような感覚に襲われる。


 まるで、何かに監視されてるかのような――


「どうしたの、エリア」


「……ああ、いや。なんでも」


 俺は曖昧にごまかして城を出た。






 そうこうするうちに、園遊会の当日がやってきた。


 うちの両親は昼の部は欠席。

 舞踏会から参加する。

 当然、俺も同じタイムスケジュールになっている。


「はぁ〜。すっごい人だな」


 シャンデリアのぶら下がった大きな広間には、これでもかと飾り立てた貴族の男女がひしめいていた。


「ブランタージュ伯ではないか! 何年ぶりであろうな! 英雄殿がいらっしゃらないと、社交界も盛り上がりに欠くというものだ」


「ああ、ネバ伯爵。これはどうもおひさしぶりです」


 俺の隣で、さっそく父さんが他の貴族に捕まっていた。


「社交はエリオに任せて、わたしたちは隅っこにいようか」


 母さんの提案は渡りに船だった。

 適当に食事と飲み物を確保して、母さんと一緒に広間の隅に引き下がる。


 母さんを見て声をかけようとする男性貴族もいたが、(コブ)がいるのを見てとると、曖昧に会釈して去っていく。


「母さん、友だちはいないの?」


 なにげなく聞いてから、自分の言葉がブーメランになって突き刺さる。

 母さんはそんなことにはもちろん気づかず、


「昔はいたんだけど、エリオはみんなからモテてたから……」


「ああ、そういう……」


 どうやら男が口を挟まないほうがよさそうな話らしい。


 宴もたけなわというところで、広間の奥にある壇上に、王様とロゼが現れた。

 すみれ色の、すっきりしたシルエットのドレスに身を包んだロゼは、会場のあちこちからため息が漏れるほど美しかった。


 ロゼの後ろから、美人だがキツい顔つきの女性が、真っ赤なドレスで現れた。

 ブロンドの巻き毛と赤いドレスがよく似合ってる。

 だが、娘に負けまいという対抗心が見え見えだ。

 おもわず目をそらしたくなるような痛々しさが、こんな距離からでもはっきりわかる。


「皆の者! 今宵は娘のお披露目に集まってくれたことに感謝する!」


 王様は、自分の背後で起きてる事態に気づかず――あるいは、気づかないふりをして、大声を上げた。


「長々しい挨拶は余も嫌いだ! 諸君らもさだめし嫌いだろう! だから余からは何も言わぬ! 舞踏会をそれぞれに楽しむがよい!」


 本当に短かった挨拶に、貴族たちが拍手をする。


 と同時に、広間の奥に控えていた楽団が、賑やかなワルツを奏で始めた。


 男たちは、目当ての女のもとに向かい、手を差し出して女をダンスに誘う。


 差し伸べられた手に、たおやかな手が重ねられることもあれば、丁重にお断りをされることもある。

 お断りを受けた男が、その女が直後に声をかけられたべつの男と踊り始めたのを見て、苦虫を噛み潰したような顔をしてた。


 逆に、壁際に立って、男性から声がかかるのを待ちわびてる女性たちもいた。

 貴族の席次や見た目の美醜などで、貴族女性の中には独自の序列があるらしい。

 たしかに、壁際に押しやられてる女性たちは、ドレスも本人の容姿も一段落ちる。

 だが、彼女らの中に目当ての相手がいる男も少なくはない。

 散発的にやってきてダンスに誘う男性と、その手を取ってはにかむ女性。

 そのたびに、周囲の女性からは羨望の眼差しが向けられる。


 貴族の席次に女の虚栄と男のプライドが重なって、ダンスフロアは嫉妬と欲望の渦巻く魔窟のようになっていた。


「……こりゃ大変だな」


 見てるだけでもげんなりしてきた。


「でしょ?」


 母さんが俺にうなずいた。


「あれって、踊ったらお付き合いに発展するとか、そういう感じなの?」


「そうでもないわ。踊ってみて合わないと思えばそれまでだし。舞踏会のあと、どれだけマメに連絡して、会う機会を作れるか、みたいなことも大事ね。多い人だと、舞踏会のあいだに五、六人と踊るから、全員が候補ってわけでもないんでしょ」


「舞踏会が終わってからも駆け引きがあるのか……」


 やっぱ俺、転生してもパーリーピーポーの気持ちはわからんわ。


「エリアも踊ってきたらどう? いい経験になるわ」


「といっても俺はサンヌルだし」


「救国の英雄ブランタージュ伯の息子だって名乗れば、いまなら入れ食いなんじゃないかしら」


「父さんの英名で女の子を口説くのは違うだろ」


「実際はエリアの英名みたいなものなんだし、それくらいの役得があってもバチは当たらないわ」


「やめとくよ。目立つのは好きじゃない」


「あいかわらずねえ。エリアがちゃんと結婚相手を見つけられるのか、お母さん心配になってきたわ」


 ふふっ、と母さんが笑う。

 この人ももう三十をいくつか過ぎてるけど、まだまだ現役でいけそうだ。

 本人にその気はないみたいだけどな。


「それより……ロゼ……じゃなかった、王女様だけど」


「そうね。誰も踊りに誘わないのはおかしいわ」


 ロゼは、誰からも声をかけられず、硬い表情のまま、壇上の椅子で雛人形みたいになっている。

 王様もこればかりはフォローできないようで、おろおろとうろたえるばかりだった。

 その背後で、扇子で口元を隠しながら、継母王妃がにやついてる。


「王女殿下には恐れ多くて声をかけられない……とか、あったりするの? 一定の家格がないと声をかけちゃダメ、とか」


「舞踏会は、建前上は無礼講よ。もちろん、下手なことをしたら後が怖いから、力のない貴族はあまり目立たないようにするんだけど」


「無視されてるのは、王女様がサンヌルだから?」


「それもなくはないでしょうけど、仮にも王女殿下なのよ。王女殿下が魅力的な女の子だってことを除いても、ここで踊っておくメリットははかり知れないわ。誰からも申し込みがないなんて異常よね」


「あの王妃様の仕込みってわけか」


 壇上で硬い顔をして、手すりをぎゅっと握りしめてるロゼ。

 いまにも泣き出しそうな顔だった。

 俺は、腹を決めることにした。


「……行ってくるよ」


「あらあら。エリアも、いつのまにか隅に置けない男になってたものねえ」


 母さんのからかいを無視し、俺はひしめく貴族たちの間をすり抜け、壇上に向かう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ