第7話【洋一と私と】
「お前、それはないだろ…!!」
陽菜に対して怒る少年。
それを軽く流す陽菜。
まぁまぁとなだめる、由美。
少年の名前は木村洋一。短い髪を茶色に染めていて、ワックスで固めている。顔立ちがよくて、背もそこそこ高い。ぱっと見たら、モデルととらえることもできる。
陽菜とは小学校からの付き合いで、いわゆる幼なじみという間柄である。そして由美、洋一、陽菜の三人は、この三年間、偶然にも、ずっと同じクラスメイトである。
「シカトすんなよ、陽菜!」
「うっさいなぁ…」
迷惑そうな口調で、陽菜は洋一を軽く睨む。そんな洋一も、負けてたまるか、と睨み返す。
つい最近のことであるが、洋一が家を引越したことによって、陽菜と洋一は家が近所になった。それ以来、陽菜と洋一は前より顔を合わせることが多くなり、陽菜は、洋一と付き合ってるのではないかと、誤解を受けたほどである。陽菜にとってはいい迷惑だ。陽菜だって、先程から言っているが彼氏が欲しくないわけではない。それのに、洋一と家が近所で幼なじみということだけで、勝手に自分は洋一とくっつけられているのだ!
おまけに洋一のファンからは妬まれるわ、家まで追い掛けられたことすらあるわで、洋一と一緒にいて、いいことなど何一つない。むしろ害ばかりだ。
「あんたには関係ないでしょ」
「…少しくらい教えてくれたって!…水瀬さんは教えてもらえてたじゃん…!!」
「あんたに言ったら馬鹿にされるから、いーや!」
べぇっと舌を出す陽菜。
一見おちょくってるかのように見えるが、陽菜は内心焦っていた。できるだけ早く、洋一と距離を置きたいのだ。
−−ほらほら…睨んでるよ!!
洋一ファンの視線がひしひと突き刺さる。陽菜は見えていない振りをしているが、今にも洋一ファンから、舌打ちされないか冷や冷やしていた。
しかし、それに対してなんにも気付くことなく、洋一は歯向かってきたのだった。
「馬鹿にするか!少しくらい…教えてくれたっていいだろ!!」
「うっさいな!誰が教えるか!!」
二人は火花を散らしあって睨み続けていた。そして陽菜は、やはり焦り続けている。
−−早く引っ込んでよ!!
しかし、陽菜と洋一が口喧嘩(痴話喧嘩?)しているのに対して、陽菜が思った以上に周りは特に気にしていなかった(洋一ファン以外だが…)。
…またやってるよ…。
と呆れた目で眺めているだけであった。止める人はいない。ただ、少し陽菜を睨みつけている子が数名いるだけだ(これが洋一のファンなのだが洋一は全く気付く様子はない…)。
洋一がけしかけ、陽菜が挑発にのる。または陽菜がけしかけるのに対して、洋一が挑発にのる。
と、これが日常茶飯事だからである。
由美は微笑みながら二人を見て、
「本当に仲がいいね」
とくすっと笑った。他のクラスメイトは心の中で(まったくだよ…)と、同意する。
「「どこが!!??」」
二人は同時に由美を睨む。そんな二人に、由美は慌てながら、
「だって…本当にそう思えるんだもん…!!」
と答えた。二人はお互いを指差しあいながら、
「「こいつの方が性格悪いから!!!」」
とほぼ同時に答える。今度は、二人ともお互いを睨み合い、
「真似すんな!!!」と言い合う。そんな二人に、由美は苦笑ざるをえなかった。
陽菜はいつしか洋一をかやの外に追い出すことを止め、洋一と口喧嘩することに熱くなっていた。それを笑いながら見る由美。
いつもと同じ。
いつもと同じ仲間。
同じ風景。
こんな関係がずっと続くんだ…って思ってた。
でも、
当たり前だけど−−
気付いていない間に
人は成長していくんだね。