プロローグ
−−−−あ、まただ。
そこで私、こと渡瀬陽菜は足を止めた。
陽菜が足を止めた場所−−それは、古いけれどしっかりと建てられた、木造建築の家の前だった。もちろん、自分の家なんかじゃない見知らぬ他人の家だ。さらに言うと、この家の住人が誰なのか、住人の顔すらまともに見たことがなかった。しかしそれでも、陽菜は家の外からその家の様子を伺うことを決めたのだ。
陽菜はじっと耳をすませた。ポカポカの陽気をあてられて、思わず目をつむってしまう。
じっと動かずに待っていると、耳の中にある音楽が流れ込んできた。
−−今日もあの歌か…。
陽菜はそこで息をゆっくりとはいた。
『気付けば後ろの席
用も無いのに振り返ってばかりだった
いつもチラ見で
あなたのことはっきりと見ることもできなかった
好きになったら負け
誰がそんなの決めたんだろ
あまりに本当すぎて
涙が止まらないんだけど…
※好きです 会いたいです
そんなたった少しの言葉が後少しだけ言えないんです
手を繋ぎたいです
笑いあいたいです
そんな夢が
いつか本当にならないかな…
お別れなんて言いたくないそれでも
別れはあと少し先のこと
いつも交わす挨拶
少しの会話 それがもうすぐで思い出に変わる
さよならで終わり
なんて簡単な恋なら
もうとっくに捨てきれたはずなのに…
※リピート
いつの日か
あんなことがあったね、
なんて思えるようになるまで
私はあと何回涙を流せばいいんだろう?
※リピート
あなたを本当に忘れることができるまで…
それまであなたを
好きでいいですか?』
陽菜はこの曲を最後までしっかりと聞いた。そして最後までこの曲を聞き終えると、まるで自分の役目を果たしたかのような、すっきりとした顔をして学校へと歩き始めた。
恋
恋
恋
私には
恋なんてできないって思ってたの
恋なんて自分には関係ない、
って
興味なさそうな顔してたの
ほんとはね
いつかどこかで出会えるのかもしれないって、
多分…心のどこかで期待してたの
物語のような
甘い甘い砂糖のような
苦くてまずいコーヒーのような
そんなそんな
『恋』に
そうしてやっと巡り逢えた…
物語のような甘い展開だった?
苦しくて辛い思いをした?
そうして出会えた
『あなた』に。
渡瀬陽菜、18歳。
私は初めて『恋』をします。