夜の散歩
夜になった。
手をまさぐって枕元に置いてあるはずの時計を探すと、時計の針は8時を指していた。
夕食を食べて少し眠気を感じベッドに身を投げ出したら、いつのまにかこんな時間になってしまったようだ。
まだ夢の中にいるかのような気分にもひたりながら、頭をどうにかはっきりさせる。
私は夜の静かな空気を壊さないようにそっと足を床につける。
どこか昼とは異なる空気に満たされているような気がした。
寝る前にそばに置いていたからであろうか、絡まってしまったヘッドホンをむしゃくしゃしながらほどいて首にかけておく。
一呼吸おくと、 私は家族にばれないようにそっと自分の部屋から抜け出す。
弟の部屋から漏れるゲーム音に紛れるように階段を降りる。最近ではもう全くゲームに触らないのでどんなゲームなのかも分からない。
リビングから漏れる光を横目に、この前、一目惚れして買ってもらったまだ慣れないサンダルにそっと足をいれる。
音が出ないようにゆっくりとドアノブを回すと、そこには虫の声が鳴り響く澄んだ空気が広がっていた。
ほぼ毎日のように家族に内緒で家を抜け出しているが、未だに慣れないようだ。とはいえ、それがいけない事だと分かっているからなのだろう。
そんな背徳感を感じながらも、目的地もきめないまま歩いていく。適当に左手に行ってみる。
首にかけていた少し大きめなヘッドホンを耳につけ、流れてくる音楽のボリュームを大きくする。
ヘッドホンから流れてくる音楽のリズムに合わせて自然と足が進む。
メロディーが好きだから聴いているが、全部英語である歌詞なので、意味は全く分かっていないのだけれども。
さて、今日はどこに行こうか。いつもよりも遅い時間だから、近場にしておこう。
昨日は自転車まで出して30分かけて海までいった。気分がのったので遠くまで行ったのだけれど、夜と夕方の狭間の海は波の音が心地よくて楽しめた。その後、帰りがきつかったことを除けばだが。
一昨日は確か近所をぶらぶら歩いていたはずだ。野良猫のあとを追ったりしたっけ。
私はそのときに通りかかった公園を思い出して、今夜の行き先を決める。あの小さな公園は住宅街の外れにある。
私は夜の闇に紛れるようにしながら公園に向かった。暇つぶしに電柱の数を数えながら。
久しぶりに来た公園で誰にも使われてなさそうなベンチを見つけると落ち葉を払って座る。
照明なんてものはひとつしかなく、入り口を弱々しく照らしているだけだ。虫が群がっている。
小学生の頃にたまに来たことがあったが、この辺鄙なところまで来て遊ぶ子供は今もいるのだろうか。私みたいに遊んでいる子がいたらいいのに。
自分の背よりずっと高くて手を伸ばしても全くてっぺんに届かなかったはずのジャングルジムが意外と小さくて驚く。
あの頃はあんなに大きく見えたのに。
懐かしさに浸っていると、今日ぐらい子供じみたこともやっていい気がしてきた。
でも、やはり少し恥ずかしくて。
自問自答するが、周りに人はいない。1人なのに他の人を気にするなんて馬鹿らしくなって、履いていたサンダルを真っ暗な闇に思いきり蹴りだす。
裸足のまま土を踏んでみるとあまり整備されていないのか、雑草が生えていてこちょがしい。
私は体の中から沸き起こる笑いを押し込めながらサンダルを履きに行き、走ってブランコにとび乗る。
足を曲げ伸ばしすると、キイキイと夜に聞くには不気味な音を響かせながら、ゆっくりとブランコが弧を描き出す。
「ひぇ…、ゆう、れい?」
間抜けな声が公園の入り口から突然聞こえて私はびくっと体を震わせた。




