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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼の疑問と僕の解答について

作者: ごむ

個人の思考が出てますが、あくまで創作の範疇ということでお楽しみください。


「――何故、人を食べてはいけないのだろう」


僕の目の前に親友は、至極不思議そうな顔で僕を見つめる。

人肉嗜好、カニバリズム、アントロポファジー。様々な言い方があるが、要は人間の肉を食う人たちのことである。生憎と僕はそんな趣味嗜好はない、至って普通の高校生だし、目の前の幼馴染の親友にもそんな趣味嗜好はないはずである。

――なら、なぜこんな質問をするのか。

 この親友は、人より少し、いや、普通の人よりも随分と並外れた好奇心の持ち主である。今の質問も、その並外れた好奇心からだろう。昔から、気になったことは自分の納得がいくまで調べないと気が済まない、そんな性格の持ち主だった。立ち入り禁止の工場に入り込んだり、調べ物が終わらないと飲まず食わずにいたり、蟻の行く末を見守り続けて熱中症になったりと、それはすいぶんと親たちを心配させてきた。


 そんな彼は、こうして時々僕に疑問をぶつけてくる。残念ながら、僕は彼の望む回答を出したことはない。けれど、彼はそれでも僕に疑問をぶつけるのをやめようとはしない。その行動にどういう意味があるのか、彼が僕に何を求めているのか、僕は未だに測りかねている。そんな彼の疑問を適当に流して誤魔化すというのは、彼に不誠実だ。だから僕は答えが出なくても、毎回真剣に考え僕なりの答えを口にする。


「怖いからじゃないか」

「怖い?なぜ?」

「三毛別羆事件と言われる事件がある。人の味を覚えた羆が次々と人を襲って食った事件なんだが、人も羆も変わらないと僕は思う」

「それは、人の味を覚えた人間は、人を襲うようになるということか?」


その言葉に僕は深く頷いた。人肉嗜好の人間が引き起こした凄惨な事件が脳裏によぎる。趣味嗜好に文句を言う方ではないのだが、それが人に害を成すとなると話は別だ。同じ人であり、意思疎通ができる存在を殺すというのは、牛や豚や鳥を殺すのとはまた違うことだと僕は思う。例えばそれが自殺志願者や、人に食べられたいと望む者であれば僕はそれについて非難することはない。


「まあ、要は信用していないんだろうな」

「信用?」

「いつ他人が自分を害すのかって怖がっているのさ。この人以外殺しませんっていうのが世間一般で通用しないように、この人以外食べませんっていうのが信じられない」

「ああ……なるほど、そういう考えもあるのか」


納得した顔ではないが、興味深げに頷く親友にほっと息を吐き、ベッドへと身を倒した。答えのない回答というのは、思うより神経を使う。僕の思想は僕だけのものであって、彼のものではない。だから僕の回答が、彼の答えの妨げになりやしないかという不安がどうしてもよぎるのだ。勿論、こんな質問をするくらいだから、彼にとってそんな気遣いは無用なのかもしれない。


「そういえば、なんでこんなことが気になったんだ?何かテレビで特集でもしてた?」

「いや、そういうわけじゃない」


だったら、なんで。僕からの質問に彼は僕の方を見て、黙り込んでしまった。答えづらい質問だっただろうかと、内心首を捻るが、僕にはどうもわからない。彼は時折僕から視線を逸し、答えづらそうに口籠った。


「聞かないほうがよかった?」

「……いや、そういうわけじゃないけど」


もしかして、人肉の味に興味がある?と口に出せば、かれは肩を揺らし目線を僕から逸してしまう。それが叱られる前の子供のようで、僕は笑う。彼は恨みがましげに僕をじっとみたが、やがて諦めたようにゆっくりと口を開いた。


「お前の、味はどんなだろうかと、思って……」


――だって、それを言ったらお前は怖がるだろう。彼は気まずげにそう告白した。なるほど、それは先ほどの僕の回答と照らし合わせればそうなるだろう。信用していないから、彼が僕を殺してしまうのでないかと、僕が考え、怖がってしまうのだと彼は考えたのだ。


「僕以外の人の味は?興味ある?」

「……は?い、いや。そういうわけじゃない」


なら、いいよ。僕を食べても。僕はそう言って、彼に微笑んだ。


「俺が、食い殺すとは考えないのか」

「もしかして、僕のこと殺すつもりだった?」

「そんなことない!殺さない!」

「ならいいじゃん。痛いのは好きじゃないけど、別にいいよ」


――だって、僕はお前を信用しているからね。

僕がそう言うと、彼は呆然とした表情で僕を見て、やがてうっとりと微笑んだ。ああ、この表情だ。彼が答えを見つけたときの、恍惚とした表情が僕はこの世で一番好きだ。この顔が見られるなら、彼に食われても構わない。


うっとりとした表情のまま、彼はうやうやしく僕の腕を持ち上げる。あまりにも丁寧で、壊れ物を扱うように持ち上げるものだから、たまらなくて笑う。長袖をゆっくりと肘まであげ、僕の腕を露わすると彼は僕の腕に口づけをし、舌を這わせる。生暖かい彼の舌が、僕の腕を這うその感触に、背筋にぞくりとしたものが走る。いやらしいなと考えながら、彼にすべてを委ねるように、ゆっくりと目を閉じる。




――視界が閉ざされた中、彼が僕の腕に歯を立てた感触がやけに鮮明だった。


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