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塀が見えない(著:雨蛇

 カーテンが破れてしまったのです。わたしの部屋はアパートの一階で、その小さな窓は塀に面していました。だから、まぁ、カーテンくらい無くても問題ないかなと思ったのです。まさかこんな、窓と塀との狭いところに挟まってまでわたしの私生活を覗くような人など居ないでしょうし、いたらたまったもんじゃありません。きっとそれを見たら失神してしまう。


 そんなこんなで夜。カーテンが無く暗い外が見えるのはなんだか新鮮です。レース? そんな繊細なものは元からついてません。……でもやはり落ち着かないので、今度の休みに新しいものを買いに行こうと。わたしは塀と見つめ合いながらご飯を食べました。ちなみにこの住居、一部屋しかありません。その狭い空間に机をベッドとその他衣服を詰め込んでいます。つまりしばらく、まるで塀との同棲をしているかのような状況におかれるわけなんだなぁ、と思ったところで、そろそろ寝るべきかもしれないと思いました。明日も仕事で忙しいのです。二十歳過ぎのぴちぴちの女の子なんて仕事を始めて一年でぴちぴちでも女の子でも無くなりました。悲しい。寝よう。

 最近は寝つきも悪いです。お風呂に入ってお布団に入って、暖かい中でぬくぬくとしているのに、そのぬくぬくが消え去って寒さに震えなくてはならないような深夜まで眠気がやってきません。まで、というか、ここまで寒いと眠気云々の話ではなくなるのですけれども。寒い。暖房は寝ている間はつけていないので外の気温が露骨に不法侵入してきてしまうのです。お前ら誰の許可を得てわたしの領地に入り込んでいるんだ出てけよ。

 しかし今晩はいつもよりも冷えます。何故だろうかと思い当たる節はカーテンしか。頼りないあの布でも役には立っていたようです。あなどりはいけませんな。

 しばらくごろごろしているとお手洗いに行きたくなって。わたしはベッドを出て用を済ませにいきました。ベッドという要塞を出ると冷気が一斉に襲いかかってきました。奴らはこの時を待っていたのだ! ……慣れてますけど。残念ながらわたしの防御力は貴様らの攻撃力よりはるかに上なのですぞ。

「さむ……」

 冷たい便器によって地味に心を折られそうになりつつも、またなけなしの安堵地ベッドに戻ろうとしたところで、ふと窓に目が行きました。

 そこにはモミジが張り付いています。そうかもう紅葉の季節。あまりに忙しくて全く気にしていなかったのですが今はもう冬も近い時期なのでした。どうりで寒いと。

 布団にくるまってから、あれ、と。

 何かが引っかかったのですが、ようやくコンバンハしてきた眠気がわたしを夢の国へと引きずり込んだので、思考はそこで途絶えました。


 朝は慌ただしく。

 また夜がやっていきました。やってこないと困るんですけど。疲労困憊で塀にタダイマをして、ふと、昨晩そういえばモミジが……などと改めて塀、窓を見ました。

 見なければよかったんですけど。

 子供がいました。

 子供ですよ子供。確かに小さい子供ならあそこに入れるでしょう。性別はたぶん男の子。肌は真っ赤にただれて、目は死んだ魚のように白。小さな、モミジのような手を窓に張りつけて。こっちを見て白い歯をむき出しに口を開けていますが、あれが笑っているのかなんなのかを判断するにはどうにも皮膚が足りません。

失神はしませんでした。


 カーテンを買いに行けるのは、明後日になるでしょうから、それまではあの窓は新聞紙で封をしておくことにしました。新聞紙を張りつけている間、男の子はずっとわたしを見ていましたが、窓の外にいるようですし、きっと何もしてこないでしょう。


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