みずこ(著:ぶろこり
目を焼くような赤い空が見渡す限り続いている。だらしなく伸びきった影が別の影につぶされて消えた。
「見頃にはまだまだ程遠そうね」
響子は親友の真菜子と共にカエデ並木の下を歩いていた。視界を埋める葉は、ところどころ色づき始めてはいるが、夏の青さを残したままだ。
「そんなに早く秋がきたら困るわよ、受験生なんだから私たち。
真菜子はそう言って英単語帳のページを一枚めくった、もちろん間違えた単語に赤マーカーを引くことを忘れない。
「真菜子、11月に模試だもんね」
響子と真菜子は幼馴染だ。同じ保育園をでて、小学校、中学校そして高校まで同じ学校に進んでいつも一緒にいた。けれど真菜子の実家は代々続く病院で、真菜子は医学部を目指している。凡庸な頭の自分では、とてもじゃないがついていけない、そう思って響子は別の大学を受験する予定だった。
「響子くらいできる人なら、今からだって無理じゃないと思うけどな、医学部。別に嫌だったらいいのだけど」
単語帳から目を離さないまま、真菜子が言った。そっけない態度と裏腹に、心なし赤みを帯びた耳を見て、響子はこっそり微笑んだ。
「一緒の大学行きたいなら真菜子が私に合わせてくれてもいいのよ?真菜子も嫌いじゃないでしょう?理学部」
ほんの少しおどけてみせれば、真菜子はむっつりと口を噤んで、いじわると呟く。
ふっと、真菜子の肩に一枚の紅葉が舞い落ちた。
「ねぇ真菜子、最近おうちの方で大きな手術があった?」
「手術……そうね、たしか昨日人工中絶の手術があったけどそれが?」
「そう……」
真菜子の向こう側に小さな目が二つ。赤黒い躰に、小枝のような細い腕と脚がついている。
その先についた小さな小さな手が真菜子の肩をしっかりと握っていた。