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まるくまるく  作者: あるまたく
黒、狐、奪
8/59

 俺が見守る中、カミラさんと対峙したエレナは静かに目を閉じる。緊張しているのだろう、深呼吸をする。カミラさんは自然体で立っているだけに見える。

 エレナは両手を腰だめに構え、姿勢を低くした。


「すぅ……はぁ……いきます!」

「……てぃ。」

「……ぅぅ……ぁぅ。」


 間合いを詰めたエレナが左ストレートを放つと、カミラさんはエレナの左手首をつかんだまま数歩下がる。

 引っ張られたエレナがよろけると手首を返し、右手でエレナの肘を押し投げ飛ばした。合気道の小手投げだろうか。

 その後も何度もカミラさんに攻撃するエレナだがその度に投げ飛ばされる。まさかの肉弾戦に俺は目が点になっていた。

 そして今エレナは草原に仰向きに寝かされている。


「カミラさん強すぎですよーまだ頭がグルグルします……。」

「まだまだね、ただ当てようとしてもダメよ。もっと考えなさい。それに痛くはしてないでしょ?」

「そうですけどー。」

「次は魔力よ、ほら立ちなさい。」


 エレナも結構な速さだったが、カミラさんはそれ以上ってことだな。次は魔力ってことは攻撃魔法でも練習するのだろうか。

 壁を背にして立つエレナの後ろにカミラさんが周り、訓練を開始する。エレナが両手を開いたまま前に突き出している。

 しばらく見ていたが、唸っているだけのエレナを横目にカミラさんに聞いてみる。


「エレナは何をしてるんだ?」

「魔力を捻出して火を起こそうとしてるのよ。火が出せても維持できずに周りに飛散するから、ここで練習してるの。」

「火を出すのに時間かかるのか? もっとドーンってのを期待してたんだが?」

「ドーンって何よ……。まぁいいわ、私が見せるわね。」


 とカミラさんが手を前にかざすと、ボゥという音とともに小さな火が現れた。


「ぉー、何もないところに火とかファンタジーだな。」

「ふぁんたじー?……えっと、こんな感じで出せば良いんだけど。」

「俺も練習すればできるのか?」

「どうかしら……ってあなたの魔力……この辺にたまっていってるけど?」


 カミラさんが指さしたのは俺の頭上に浮いている黒球の辺りだった。こいつ吸ってやがるのか? 吸われる感覚はないんだが。まぁ、言えばだいたい出来るから良いか。

 カミラさんが言うには、大爆発を起こすような魔法などそもそも無いらしい。

 さっきから静かなエレナは自分の手を見ながら首を傾げている。


「どうしたのエレナ? 調子悪いの?」

「エレナさん、なんか全然ダメみたいです。訓練後みたいに全く出せないです。」

「訓練後って……どこかで練習したの?」

「いえいえ、カミラさんかリーネが一緒の時に練習するって約束ですからしてません。」

「魔力が回復しないことには訓練にならないわね。」


 通常、魔力を回復するには自然回復を促す薬草をすり潰して飲み、寝るらしい。つまり時間経過か。魔力を他人へ供給した者も昔はいたらしい。研究もされ疲弊するが大して回復しないとのことで、今では供給できるものはいないと。

 周りを見ると所々に青い花が咲いている。ゴブリンを倒した辺りを歩いている時にも見たような気がする。エレナは疲れたのか座って休んでいる。


「あの青い花がそれなのか?」

「ええ、そうよ。あれがマギナ草よ。ギルドの掲示板で依頼して、医院で葉をすり潰して薬にしてもらうけど、高価なのよね……。」

「じっとしていれば回復するし、サボれるしね。」

「エレナ? 私の前で良く言えたわね?」

「……冗談ですよ?」


 エレナがぐりぐりされている間に黒球に聞いてみると10枚ほどの葉が出てきた。

 地面に突っ伏したエレナに渡すと、こめかみから湯気を上げながら驚いていた。湯気がすごく気になる……。

 俺が湯気を見上げているとエレナはおもむろにマギナ草を食べ始めた。


「すり潰して飲むんじゃないのか?」

「ん? ろううないおん……もぐもぐ。」(道具無いもん)


 良いのか? という意味を込めてカミラさんを見ると頷いたので、効果はあるらしい。おいしいのだろうか? 近くにあったマギナ草に近づいてみると、食べた時のように葉が分解され小さな光とともに俺に吸収された。やっぱり食べられないな、と落ち込んでいるとカミラさんが聞いてくる。


「今、何したの? 《《魔力喰らい》》なの?」

「《《魔力喰らい》》って何だ? 食べようと思うといつもこうなんだ。」

「……あなたエレナの魔力を食べてたんじゃない?」

「え?」


 魔力喰らい……魔物の中でも珍しい魔力を含んだ鉱物や植物のみを食べ、人には興味を示さないものを言うらしい。通常森や山の魔力が潤沢な場所にしか生息していないため、街にいるのは珍しいと。へぇ、そんなのがいるんだな、って俺のことか。

 エレナの魔力を食った覚えはないんだがっとエレナは、舟を漕いでるな……。食ってすぐ寝たら牛になるぞ。寝言で「もぅ食べ……。」とか言ってるし。


「食べるだけじゃなく魔力を渡せたら良いのにな。」


 何気なくつぶやいた後、俺は意識を失った。



 あぁ、体が重い……。まぶたを閉じたまま考える。バイト帰りのあの怠さがまた襲ってきたようだ。こういう時はさっさとシャワーを浴びて寝てしまった方が良い。疲れた。……冷蔵庫に何か食べる物あっただろうか。はぁ、あって困ることもないし何か買って帰ろう。

 とそこまで考えて違和感に気づいた。静かすぎるのだ。バイト先ならば誰かが、もしくは空調機械が動いているはずだ。

 まぶたを開けると白い鼻筋の先に黒い鼻と白い毛に覆われた小さな前足……何度か瞬きして確認した。……あぁ、今の俺だ。

 俺はパンを入れていたバスケットだろう良い匂いのカゴの中に寝かされていた。エレナ達が運んでくれたのだろう。

 敷かれた布の上で上半身を起こすと肩からも布が滑り落ちた。

 バスケットから顔を出し周りを見渡す。薄暗く狭い部屋だ。机の横の窓からは月明りが差し込んでいる。この匂いは……エレナの部屋か。

 目線を下げるとエレナが机に腕を枕に寝ていた。口元から煌く何かが垂れているが本人のなけなしの名誉のために無視しよう。

 バスケットからもそもそと抜け出る音で起こしてしまったようだ。眠そうな目でバスケットと俺を見て、目をこすりながら話しかけてくる。


「んにゅ……おはよぅ……ねむぃ……。」

「おはよう、というか夜じゃないか?」

「んぇ?……あ。」

「はい、《《おはよう》》。」


 エレナは目を見開くと俺を捕まえ抱きしめる。顔を俺にうずめるのは良いのだが、口元拭けよ……。もう遅いけど、はぁ。

 少し落ち着いたエレナに俺が気を失ってから、この部屋へ運ばれるまでの経緯を聞く。

 エレナの体を綺麗にした時のように光ったため、俺が何かしたと思ったエレナが、横になっている俺に気づき駆け寄ったらしい。その後、カミラさんとともにギルドに戻り、リーネに診てもらったようだ。

 さすがにリーネでも魔獣の病気などは分からず、明日まで安静にして改善しないのであれば医者を探そうということになったらしい。心配をかけたようだ。

 綺麗にした後、エレナに言う。


「色々ありがとな。」

「心配したんだよ? 揺すっても起きないし、カミラさんもなぜ気を失ってるのか分からないって言うし。」

「エレナに魔力をって言ったからだろうけど。」

「そうそう、魔力! カミラさんにも私の魔力量が増えたって言われたよ。」

「おー、良かったな。」

「……ありがとね。私のためにやってくれて。でも気を失うような事はしないでね?」

「……気を付けるよ。」


 魔力を渡す際は、どの程度の魔力を渡すか、を言う必要があるな。心のメモに書き留めておこう。

 体の調子を確認された後は朝まで寝直すことにした。カミラさんにも謝っておかないとな……。ベッドに横になったエレナが寝るまで、枕元で丸くなることにする。

 静かな夜だ。エレナの寝息くらいしか聞こえない。こんな大きな街でも静かな夜が過ごせるとは……と、日本では考えられない夜を満喫することにした。


 ……………………


 …………


 ……暇だ。


 暇すぎる。森で過ごした夜は虫や獣に警戒しつつ休んでいたが、街の中ではそれもほぼ無い。

 少し運動でもするかと、目を開けると窓辺を月明りが照らしていた。

 エレナを起こさないように気を付けつつベッドから降り、窓に近寄ると満月のようだ。

 こちらにも月があるんだなと、しばし眺める。お、クレーターもあるのか……ウサギの形などはなかった。少し残念だ。なんだろう、月明かりに照らされていると体が暖かいな……。

 視線を落とすと、体がほんのりと光っていた。痛みなどは無く、温かい布団で寝ている時のように眠たくなってきた。まぶたが段々落ちてくる。

 床で寝るのは行儀悪いのかもしれないが、今日は大目に見てもらおう……。すっごく眠いんだ……。



 ―――――――――――――――――――――――――――


「起きてー? 朝だよー?」


 次の日、揺り動かされて覚醒した俺は目を開ける。あぁ、あのまま窓辺で寝てしまったようだ。目の前のエレナは元気そうで何よりだ。あくびをしつつも起き上がると、昨日よりも目線が高い。


「ん? なんか変だな。」

「どうしたの? 昨日より大きくなったね?」


 と言うつぶやきにエレナが答える。

 体を確認すると、体長1メートルほどで尻尾と手足の先端の色合いが茶色から《《紺色》》に変化していた。エレナに見てもらうと耳も先端部が紺色になっているらしい。触り心地は今のほうが良いと言われたが、あまり嬉しくない。目は黒いままだそうで。エレナが疑問を口にするも、俺にも答えなんぞ分かるはずもなく。

 エレナと話しているとドアがノックされた。


「(トントン)エレナー行くわよー?」

「あ……着替えてないー!」

「……寝癖は直してやれ。はぁ。」


 昨日に引き続き、ボタンを掛け違えている。

 エレナと共に部屋から出ると、俺の変化にカミラさんが目を見開いて驚いていた。まぁ、驚くよねー。ギルドまでの道すがらカミラさんにも俺の変化について聞いてみたが良く分からないそうだ。リーネがギルドにいるみたいなので聞いてみることにしよう。ちなみに今日はエレナだけが遅れていた。

 なけなしの名誉すら逃げ出しそうな顔をしているが、おもしろいからそっとしておこう。

読んで頂きありがとうございます。

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