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まるくまるく  作者: あるまたく
終章 「  」という事
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59 エピローグ

 街の外で制止を求められた。歩き疲れたから早く休みたいのに。


「止まれ! 緑色の外套に黒い弓……。すまんが規則だ。出身と名前、滞在期間を。」


 門番のおじさんが私の身なりを見て察したようだけど、お仕事だもんね。私は引きずっていた狼を街道の脇に放り投げ、お母さんから渡された金属板を掲げながら言った。

 

「エンビクロ村の先の開拓村から来た。名前はハル。3日、滞在する。」

 

 金属板を見た時、門番さんがギョッとしたけれど、何か問題でもあったのかな?

 首を傾げ、目で問うと、おじさんは通行を許可してくれた。通行料は《《免除》》らしい。

 お母さんに銀貨3枚って言われたのに、変なの。


 この街には、分野毎にギルドがあるらしい。道行く人に場所を聞きながら、目的のギルドを目指す。

 ……事前に聞いた情報(おかあさんのいう)通りだった。求めている情報の集まる所は、やっぱり商人さんの所かな。商業ギルドは《《本と羽筆》》が描かれた看板を掲げているらしい。私でも見つけられるはず、だった。


 迷った。私を見て、通行人が道を開けてくれたまでは良かった。道なりに進み、街の中央にそびえ立つ塔を見上げた拍子に、突風に吹き飛ばされなけ《《れば》》。


 目紛めまぐるしく変わる視界には、私同様に吹き飛ばされた人や露店の品などが映る。

 でも、皆《《落ち着いている》》ように見えた。喜んでいる子どもまでいる……。

 放物線の頂点を超え、落下が始まると、浮遊感に私はすくんでしまった。キツネさんと出会った時みたいに。

 無意識に掴んだ黒い短弓の留め具は《《温かかった》》。ほんの少しだけど、浮遊感が緩和したと思う。


 目を開け落下地点を見ると、私たちへ向け両手を広げている長身の女性がいた。

 女性の両手に緑色の魔力が凝縮していく。

 きれい、と思う間もなく空中の私たちを包むように風が吹き荒れた。


 褐色肌に白髪、長い耳、そして《《とにかく色々な物を吹き飛ばす》》……。

 お母さんから聞いた要注意人物の特徴通りの人に受け止められ、萎縮していると女性が口を開いた。 


「胆力は中々のモノだな。」

「え? あの……。」

「あぁ、開拓村から来たのなら、私の事は聞いていないか?」

「えっと、聞いて、ます……壊して笑う《《馬の耳にも劣る下種》》がいるって。」

「場所を変えて詳しく聞こう。弓は預かるぞ? 拒否は許さん。」


――――――――――



「……です。」

「すいません、もう一度お願いします。」

「……ネさんの事、知りたい、です。」

「どうしたの?」

「何か迷子みたいなのよ。知りたい事があるみたいなんだけど。」


 《《本部》》という建物へと連れられ、心のどころとなっていた短弓を取り上げられた。見知らぬ大人に話しかけられると、特に声が小さくなってしまう。


「お母さん。」


 俯いて考えてしまう。母親の助言(おかあさんのいう)通りに行動してい《《たら》》。

 ただ、キツネさんを探したいだけなのに。作ってもらった布製の身分証入れを両手で掴む。


「どこにいるの? キツネさん。」


 顏を上げ、窓越しに空を見ながら呟く私に答えるかのように、《《別室の》》黒い短弓は脈動を始めた。


「会いたいよぉ。」


 頬を伝う涙は止まることを知らない。街に着いてから嫌な事ばかり。

 下唇を出す仕草を注意され、気を付けていたが不安と歯がゆさに下唇が出ていた。


 嗚咽を我慢できなくなった時、窓の下から青白い燐光が立ち上り始めた。

 階下から聞こえる喧噪が、不意に聞こえなくなる。

 ほんの数秒で、取り上げられていた黒い短弓が現れると、私の目の前で漂った。


「え? あ、私の弓……。」


 私は、黒い短弓に手を伸ばす。

 日を背にした短弓は、甲高い音を発しながら私を迎えた。


―――――――――― 


 商業ギルド本部地下。特殊加工された壁に囲まれた部屋にて、弓を調べようとしていたヴァルトルーデとカミラは、脈動し始めた弓に確信めいたモノを感じた。

 エレナの肩から生えた異物が、宿主の魔力の枯渇後、周囲から魔力を奪い続けた先例があったから。


 エレナを引きずって。


 ヴァルトルーデが黒い弓の周囲を覆う風魔法を使い、カミラは数個の鉱石を投げつけ沈静化を図った。

 同等であれば対処できる、という予想に反して、黒い弓は彼女たちの前から消える。

 二人は被害が出る前に対処すべく、地上へ走る。

 焦り、不安、そして予想され得る被害に、二人は無言だった。


 緊急事態を告げるヴァルトルーデの横で、カミラは道を挟んだ向こう、商業ギルド支部の2階の破壊跡に目を奪われた。


――――――――――――


 温かい。


 私の手に戻ってきた黒い短弓を胸に抱く。黒い短弓は山の方向へ、じわじわと私を引いた。

 手が侵食され、黒く変色し始めているけれど……放したくない。 


「そっちに、キツネさんがいるの?」


 茶髪の獣人の少女は忽然と消え、遥か北の辺境で見つかることになる。


読んで頂きありがとうございます。


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