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まるくまるく  作者: あるまたく
終章 「  」という事
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58 SS 在りし日の面影 ハル

「おお、冒険者か。こんな廃墟へ、ようこそ。」


 俺の選んだ場所に人が来るとはな……。この辺りは遺跡など無かったはずだが。

 来訪者を見分する。

 エルフの民芸品コートを頭から被り、顏を伺うことはできない。


 身長は160センチ程度、肩までの茶髪で右耳下に一房結っている。フード部分の盛り上がりは頭部の耳だろう。ぶつぶつと独り言……懐かしいが、直らんな。




「《《初めまして》》、かな。」

「……違う。」


 そうだ、《《違う》》。お前との事を、しっかりと《《思い出した》》。

 ほんと、大きくなったな。


「私は物忘れが酷くてな。御覧の通り、まともに動けないんだ。」

「……知ってる。」


 声の震えは、気づいていても指摘などしない。しっかりとした足取りで俺の前に歩いてくる。まったく。

 伸ばされた指先が俺の耳に触れる。短い時間ではあったが、開拓村への道中の会話が脳裏に浮かぶ。ほのかな花の匂い……これも懐かしい。


「ほぉ、撫でるのが上手いな。」

「……うん。」


 嗚咽おえつを我慢する少女の代わりに時間を稼ごう。もう少しだけ、手の感触を楽しみたい。


「君のような優しい少女に会ったことがある……どれくらい経ったのか数えていないが。」

「ぐじゅ……うん。」


 そんなそでで拭いたら汚いだろう?

 間近で見る顏は時間の経過を知るには十分だった。


「あの少女は、健やかに生きているだろうか。」

「……うん。」


「あぁ、また……逢いたいなぁ。」

「……。」(うっく、ひっく)


「どうしたんだ……その涙は、誰のための涙だ?」


 少女は、答えない。少女の背負う弓に目を向ける。

 こいつを守ってくれて、ありがとよ。


「私の半身は、役に立ったようで何よりだ。」

「……うん、すごく、すごく役に立ってる。」

「そうか、良い弓だ。」


 俺の頭から離れた手は肉刺まめだらけだった。相当な練習をしたのだろう。

 相棒に目を向けると、1枚の黒い葉が少女の手に舞い落りた。


 そして俺の片耳は……力無く垂れた。


 脈動する葉を怪訝けげんな顏で見る少女。ほんの少し罪悪感を覚えるが、すまし顔で言う。


「食え、治るぞ。」

「えっ……でも、これ。」

「俺にしてやれる事は、これくらい―——」


 少女は俺を抱きしめ、消え入りそうな声で何かを言っている《《ようだ》》。

 ……すまないな、《《もう》》、聞こえないんだ。


「―――ありがとな。」


 俺を離さない少女に、感謝を。初めて会った人間が君で、本当に良かった。

 ……いかんな。しんみりとした別れは、したくない。

 俺の意を察したのか、黒肢あいぼうが伸びてくる。物音に気づいた少女は首を左右に振り、口を動かしている。


「俺に関する記憶を奪え。」


 俺の言葉に目を見開いた少女の顏を見る。胸をえぐられるような、時間だった。


―――――――――


 崩れ落ちた少女の涙をぬぐってやる。黒葉を口に含ませ、村に送ってやる。

 少女を見送りつぶやく。



「次に逢える時を楽しみに……眠ることにしよう……ふぁ。」


 脈動する大樹に前足を置き、ふと考える。

 思えば……お前と初めて会った時も、こういう雰囲気だったよな?

 《《黒球》》よ―――


 木洩れ日を浴びる相棒は、俺の言葉を先取りするように俺を包む。

 ……分かってるよ、俺が言うのを《《待って》》いたんだよな。


 楽しかった。

 この世界は、元の世界に劣らない。

 出会いも、別れも、飛んだり跳ねたりも。海や地中、そして迷路にも潜ったっけ。

 記憶の追体験もそこそこに。楽しみは……《《向こう》》へ持って行こう。


 すまないな、《《これ》》は渡さない。






 古ぼけた指輪を見上げ、言葉を紡ぐ。



「―――俺を、消してくれ。」



……



読んで頂きありがとうございます。

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