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まるくまるく  作者: あるまたく
ひまわり 斜陽 明日の庭
52/59

52 SS IF 二度目のクリスマス

 新年まで残すところ10日ほどの日没後。

 アルデールの宿屋にて俺たち「2人(ハル、タピタ)と1匹」は同じ部屋にいた。


「この国に雪は降るか?」


 夕食の団欒だんらんに投下した爆弾。

 若い二人(ハルとタピタ)は口々に「ゆきって何?」と呟いて相談していた。温暖な気候だと思っていたが、冬が来ないのだろうか。


 給仕が俺を抱え、ハルとタピタの間に降ろしてくれる。この給仕が指示以外で俺のためになる事をするわけがない。この後を予測して俺を置いた、とすれば給仕を足止めするのが得策か。


「説明よりも見た方が早いな。《《真由美》》。」

『はい。』


 給仕が黒球に触れ、天井付近から《《雪の降る映像》》を映し出す。ホログラムのような立体映像には、クリスマスツリーと魔力で生成した燐光の舞う様子が映し出されていた。

 ハルは両方を掴もうとし、タピタは手のひらに落ちてきた燐光に頬を染めていた。


「ハルは雪が初めてか。タピタは《《二度目》》、だったか?」

「初めて。」

「うん。あまり覚えてないけど。」


 今、楽しんでくれれば良い。もうすぐ他の面子も帰ってくるだろう。二人にクリスマスというものを教え、部屋を飾ってみる。ツリーや飾りは、給仕が用意していた。

 「もみの木」は無かった。しかし、見た目が《《全く同じ木》》はあった。

 異なる点は「ある時期になると葉を飛ばす」という特性だ。

 記憶の中の俺は、水で覆い遠目に鑑賞していた。クリスマスツリーは、多少危険でもあったほうが良い。雰囲気も出るしな。


「キツネさん、これ丸い。」

「それはオーナメントだったかクーゲルって言う飾りで、色によって意味が違うぞ。綺麗だろ。」

「うん……綺麗。」


 ハルに「片づける時に欲しい色をいくつか貰って良いぞ。」と言うと喜んでいた。

 隣で作業していたタピタが「できた。」と言い、リースを見せてくる。


「上手くできたかな?」

「形になってるぞ。上手だな。」

「えへへ。これにも意味があるの?」

「《《永遠》》、だな。」


 小さく「永遠……。」と呟き、タピタは増産を決めたようだ。作りすぎなければ良いが。 

 タピタに抱き寄せられ「待っててね、頑張る。」と耳元で言われてしまった。思い込むと突き進む傾向がある。給仕に3つ作った所で休憩させるように指示する。


 ハルは、と振り向いた俺と目が合ったハル。「あっ。」と声を漏らし、目が泳いだ。ばつが悪そうな雰囲気だな。

 視線を下げると、尻尾にリボンと球形の飾り(クーゲル)くくり付けられていた。ふむ。


『可愛い悪戯いたずらですね。』

「怒ったりしないから続けて良いぞ。」


 給仕の言う通りだ。ため息をつく事も雰囲気を悪くしてしまうだろう。

 顔色を変えず尻尾を向け言ってやると、今度は《《鈴》》を着け始めた。ほどほどにしてくれ……と心の中で嘆き、ふと気づく。


「ハルは誰から鈴を貰ったんだろうな?」

『ギックゥ!』

「あ、えっと……コキュちゃんに。」

「コキュ? あぁ、黒弓コクキュウだからコキュか。」


 ハルが壁に立てかけた弓を見て言う。名前まで付けるとは、《《意思疎通》》が上手くできている証拠だな。その相手が……給仕だとしても。

 タピタの椅子の下にもぐり、逃げようとする黒球へ「後で覚えておけよ。」と強く念じる。ビクッとした後、黒球から『シクシク』とウソ泣きが聞こえてくる。努めて無視だ。


「キツネさん、嫌?」

「ん? あぁ、ハル《《は》》気にしなくて良いぞ。」

『シクシク。』

「ごめんなさい……。」


 あらら。ハルは、どうも弱気になる時があるな。本当に怒ってないぞ、《《ハルには》》。

 ハルの膝の上で丸くなり、怒っていないアピールをしておく。機嫌が直るまで、この体勢だ。給仕に作業を止められているタピタを見ながら、今後の予定を確認しておこう。

 ハルが撫で始めたのか、瞼が重くなった。


――――――――――


 体を揺さぶられている。この感じは黒球か。寝てしまったらしい。

 目を開けるとハルが撫でる手を止め、声をかけてきた。


「起きた。」

『そろそろ触手娘が帰宅します。』

「触手って……本人、気にしてるんだから名前で呼んでやれよ。」

「また、給仕さんと《《だけ》》話してる?」


 少し給仕へ苦言を呈しただけなのだが、ハルは詰まらなそうな顏をした。こら、爪を立てるな。

 ちなみに触手娘とはエレナの事だ。黒球内には《《今も》》エレナの腕が保管されている。本人曰く「触手の方が、業務の邪魔にならないって言われた。」らしい。笑うのも不謹慎アレなので肉球スタンプをくれてやった。怒って(よろこんで)いたので問題ないだろう。

 ギルドからの帰りに寄ってくれ、と《《ちょっとした》》頼み事をしたのだ。


 ハルの手をグリグリしていると食堂の扉が開き2人が入ってきた。エレナとカミラさんだ。


「ただいまー、タピタは何を作ってるの?」

「お帰り、エレナさん。これね、《《リス》》って言うんだって。」

「遅くなりました。キツネさん、全て揃えたわ。」

「ありがとな、カミラさん。机に置いてくれ。あとタピタ、《《リース》》な。」

「よいしょっと。ハルさんが落ち込んでいらっしゃるようですが?」


 聞かないでくれ、という意思を込めてあごをハルのひざの上に置く。

 チラっとハルの顔を見ると、下唇を前に出して目を潤ませていた。

 あっ……これ泣く寸前だわ。


 宥めようとした時、ハルを正面から抱きしめる者がいた。カミラさんである。荷物を置き歩いてきたようだ。本当に周りが良く見えている……俺は二人の間に挟まれたが、モソモソと抜け出す。

 タピタの横に座ったエレナが俺を見つけ抱き上げる。ハルはカミラさんに任せよう。ハルの頭を撫でるカミラさんは、手馴てなれているように見える。


「カミラさんに任せて良いよ? お母さんみたいな安心感があるんだにょふっ!」

「エレナ、あとで覚えておきなさいよ?」

「いったたぁ。全く見えなかった……。いつも『お母さん』って言ったら恥ずかしがるん——」

「《《エレナ》》?」


 エレナが一言多いのは相変わらずか。俺をたてにしないでもらいたい。

 カミラさんに抱き着いているハルは泣き止んだようだ。勇気を出して俺を救い出してほしい。『ツリーに飾る綿を丸めた物』を投げる体勢のカミラさんの目が怖いのだ。いてっ。

 綿が俺に当たった所でタピタが作業を終えたようで。


 リースを高く持ち上げ「できた!」と元気良く言った。よくやったぞタピタ。カミラさんの気勢きせいがれた。

 周囲を見て、首を傾げるタピタに感謝しつつ次の指示を出す。

 タピタにはクリスマスツリーの飾りつけを、エレナとカミラには食堂の飾り付けを頼む。

 カミラさんから離れたハルが俺のもとに来る。こちらから催促さいそくして食堂の長机に座ってもらうと独白ひとりごとを始めた。


「ごめんね、私……がんばるから。お手伝いもがんばるもん。」

「それじゃあ早速、手伝ってくれ。」


 カミラさんに買ってきてもらった品を黒球に回収させる。パンの材料に、家畜の乳、そしてハルの《《好物》》。


「あ、それ……。」

「好きだろ?」

「……うん。」


 黒球から吐き出されたスポンジケーキをハルの前に置く。給仕の助けを借り、ハルにホイップクリームを塗りつけていく。手際など求めていないので、ハルのやりたいようにさせた。

 余ったクリームを舐めたりしつつ、果物も盛りつける。

 食堂の飾り付けを終える頃、手作り感満載のクリスマスケーキが完成した。


 《《笑顔》》のハルと作業を見守っていた面々を席に着かせ、用意しておいたプレゼントを出す。温かい団欒だんらんを、皆の顏をしっかりと覚える。


 決して、忘れないように。


 エレナには《《腕》》を、カミラさんには《《投げナイフ》》を、そしてハルには《《靴》》を渡す。それぞれが喜んでいるようだ。


 とても……歪な光景だ。


「ありがとうな。楽しかった。」


 俺が《《いない》》かのように会話を続ける3人を含めた情景が、静かに、ぼやけ消えていく。しばらく、その様子を眺めていた。



















 すべてがつゆと消えた真っ暗な世界で、傍に漂う黒球が問うてくる。


『いつ、気づかれました?』

「好物、だな。俺はハルに好物を聞いたことが無い。」

『そうですか。では、参りましょう。主がお待ちです。《《盲目な2番目様》》。』

「あぁ。」




 まったく、俺《《も》》2番目だったって事かよ。


読んで頂きありがとうございます。

タイトルは書き始めて二度目のクリスマスだから。

そして、最終話の後に続くように。

この話の主人公は……本当は何番目でしょうね。

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