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まるくまるく  作者: あるまたく
不自由と自由と乖離
39/59

SS 46

タイトルの数字は、時系列ではありません。

「おかえりなさい。」


 その少女は《《悔しそうに》》歯ぎしりをした……弾むような声で。

 表情と言動が合っていない。こちら(おれ)に顔を向けているが見えていないのだろう、焦点が合っていない。


「《《また》》来ちゃったのね……ふーん、あなた―――」


 また? 俺は初めて来たはずだ。この少女とも面識が無い。

 こいつは何を言っている?


 少女はこちらの様子を見て、姿勢を正し、口を開く。


「―――《《何番目》》?」


―――――――――――


「ぬあぁ!」

「うわっはぁ! あでっ!」


 嫌な夢を見て、飛び起きた。猫が威嚇するように毛を逆立て、目と耳で周囲を警戒する。至近距離に顏を近づけていたエラはひっくり返ったようだが無視。

 数秒後、トルーデの別荘だと気付いて警戒を解く。


「起きるなら言ってよ~。」

「どこを探したら《《起きる前に言うキツネ》》がいるんだよ……。」


 床に座ったエラに砂浜での出来事を聞く。

 どうやら俺は流砂にのまれそうになったらしい。エラは「カッコ良く助けた」と言っているが……。

 素直に感謝を述べると、いたたまれないエラは下を向いてしまった。

 ……ウソをつけない性格なのだろう、耳まで垂れている。


 はぁ、仕方ない。エラの頭に飛びついてやる。

 尻尾で顏をグシグシすると、エラの耳はせわしく動き出した。


「とーぅ!」

「わっ! 何? 何? わふっ!」

「お前、ウソ下手だな。」

「うっ……トルーデにも言われたよ。だますって感覚に慣れなくて――」

「いや、慣れなくて良いだろ?」

「――え?」


 エラよ、騙す側になってどうするんだよ。騙されないようになってくれ。


 少し残念なエラに、これからの事を3つ説明しておく。

 まずは『徒歩で海に入る』、次に『魚を獲る』、そして『海底を探索する』。

 突拍子もない事を言う俺に、エラは《《残念な》》子を見る目で聞いてくれている。あとで鼻に前足突っ込んでやる。


 入口扉の前に黒球作の(つくらせた)|マリンウォーク用ヘルメット《白っぽいくらげ》が置いてある。エラが運んでくれたようだ。重くなかったようで、要検証である。重さが無い場合、ヘルメットだけが浮上して危険だからな。その辺の石でもくくり付けて調整しよう。

 魚を獲るための道具は槍で良いか、と聞かれたエラは、


「漁師は槍、なんだけどね……。」


 と、浮かない顏をした。まぁ、不慣れでも獲れなければ漁にならんしな。少しは筋力もあるし、突き次第か。


 海底探索については地形を理解するためだ。大陸棚のように傾斜がゆるやかな海底なのか否か、は重要だ。

 漁師たち(エラ)の話では付近に島など無い、との事。いきなり海溝という事は無いだろう……無いよな?


 エラの着替えを終えた(ぬいだだけの)姿は、どう見ても漁に行く恰好には見えなかった。目に毒だ……《《漁師どもの》》。


「一張羅だから着替えがなくて……。」


 というエラに合う水着を黒球に作らせた。材料は《《砂》》と《《葉っぱ》》である。

 なぜ作成できたのかサッパリ分からんが、《《黒》》ビキニに胸元までを覆うヘルメットを装着したエラは……ただの変質者である。


「尻尾どうしよう? 耳が変な感じだし、ひっかかっちゃうよー。」


 などと目の前で着心地を確かめている。重いはずのヘルメットをろうせずして持ち上げるエラの筋力は、《《ひ弱い》》とは言えないだろう。床がミシミシいってるぞ。


「えっと、どうかな……似合ってる?」

「イカのバケモノみたいだな。」

「ひどいっ!」


 水に浸かる練習も兼ねて、砂浜に戻ってきた俺たち。

 何かの拍子ひょうしにヘルメットが脱げてしまうと、エラはおぼれてしまうだろう。

 ヘルメットが水に浸かる程度の浅瀬で性能テスト等を行う。

 エラは緊張からか、両手で槍を持ってビクビクしている。


「エラ、溺れそうになっても、地面に足がついているだろう?」

「こ、これはそういうことじゃないんだよぉ……。」


 まったく、どういうことだよ。

 ヘルメットから伸びた《《管》》は別荘近くにまで上げているし、ヘルメットを傾けなければ問題おぼれないだろう。

 ちなみに俺の尻尾は水に浮いた。俺がヘルメット内にいれば、いざという時の浮き輪代わりになるだろう……自分で言ってて悲しくなる事実だ。


「足元を確かめながらで良いから歩いてみろ。」

「水面がぁ……ほわわー。」


 エラを後ろから押し、沈めていく。

 顔を水面から出そうと抵抗していたエラは、呼吸できる事実と水中遊歩の楽しさに魅了されたようだ。水は怖く……なくなったか?


 水面を漂う俺を《《見上げ》》、エラが報告してくる。

 あ、見上げたら――


「キツネさーがぼぼぼ!」

「黒球、引き上げろ。」


 ―――言わんこっちゃない。黒球に吊るされたエラを砂浜に戻す。ちゃっかり槍に貝を刺しているようだ。ヘルメットの隙間を黒球が埋めれば良いか。


「けほっ、けほ……溺れるかと思ったよ。でも楽しかった!」

「良かったな。これならある程度は潜れるだろう?」

「うん!」


 まだ日は高い。エラの休憩後、漁を再開した。

 10匹程度の小魚と、貝を持てるだけ獲ってきた。全部食べるのだろうか……初日にしては良い結果だろう。エラも満面の笑みである。


「全部食べるのか?」

「え゛……ま、まさかぁ。」


 こいつ……。はぐらかしながら調理するエラをつつき、夜を迎えた。トルーデにはお土産《《話》》をプレゼントし、膨れたエラのお腹をつつかれていた。


 そんな二人を横目に、俺はベッドで丸まっている。かしましいのだ。耳を折りたたみ尻尾で押さえ、明日の事を考える。


 浅瀬を歩くならば問題ない。しかし、深い所となると……


「管を伸ばすか、水から酸素を……あっ。」


 黒球の高音がひびく。

 思わずつぶやいてしまった、と後悔しながら俺は脱力感とともに気を失った。


読んで頂きありがとうございます。

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