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まるくまるく  作者: あるまたく
小瓶 脱兎 これからも
35/59

SS 28 i f

 カクヨム28話以降――メヒティルトと《《良好な》》関係を築く未来。

 一部、本編未登場のネタバレを含みます。(気づく人は、いないと思われる程度)

 照りつける太陽、揺らぐ陽炎、自前の水着で遊ぶバカどもを眺める。波打つ音と騒がしい奴らの声を聞きながら、入道雲を見上げる。……あ、鳥飛んでるわ。

 

 7月の季節を現代人の心に訴えかけているもの、とは何だろう。


 この蒸し暑い気候と、やる気の無い相棒と、居候いそうろうの分際で俺の尻尾を枕にしている奴ら(ちびたち)を見ながら考える。


 雨季が終わったから乾季か……

 そろそろ七夕とか花火とか……は無いよな、こっちには。


「なぁ、キミよ?」

「何?」

「花火って知ってるか?」

「ん、知ってる。教えてくれたもん、この『あいす』も。」

「そうだったか。作ってみるか。」

「良いの? 嬉しいけど……。」

「少しくらいは良いだろう。なぁ……こいつも許容してくれるみたいだ。」

「フフ……今日は気分良いの?」

「……かもな。少し離れていろ。」


 キミとバカどもが離れていくのを少し寂しく思う。しかし、危険に晒すわけにはいかない。さっさと作ろう。久々の工作だ。頼むぞ、《《左腕》》。


 まずは材料だ。

 本来ならば、火薬や金属の粉を作る必要がある。だが、ここは地球ではない。そのため、精製できるような文明レベルは期待できない……。

 では何を『材料』とするか。岩や砂、水は目の前に、木は後ろにあるが……。


 無から有を生み出す、この世界には無い方法――にえは俺だ。


「3割くらいで良い、属性毎に100個程度の球を作ってくれ。」


 キィ――ン


 久々に聞いた俺だけに聞こえる高音と倦怠けんたい感……よし、作業開始だ。


 花火の作り方なんて知る由もないが、和紙を巻いたボールの中に火薬を丸めたものが入っていた気がする。

 当然の事だが、和紙も無ければ火薬も無い。だが俺は生み出せる。


「外殻形成、属性は均等に配置してくれ。敷き詰めて内殻形成だな。」


 目の前に直径2メートルほどの硬質で透明な球を作り出す。ちなみに中は魔力で満たされている。こうしておけば操作しやすいからだ。


 花火の大きさは20号(1メートル)10号(50センチ)そして3号(10センチ)で良いか。大きさなんて適当だが。

 最後に大きい玉を打ち上げるようにしよう。初めて見る花火。あいつらの笑顔が目に浮かぶよう、だ。

 ふと、手を止めて考えてしまう。いつも良くしてくれるあいつらに――


 ――喜んでもらえるだろうか、という一抹いちまつの不安が肥大した。


 ブチュ、ビチビチ! と嫌な音。

 左腕を突き破る《《相方》》を砂に埋もれさせ、耐える。耐えるしか出来ない。


「ぐっ、くっそ、落ち着け!」


 ググッ……ピクピク……微かに振動する左腕を気にしつつも、周りを確認する。


 ふぅ……気を抜くとダメだな。作業に集中しよう。あぁ、材料の一部を持ってかれたか……。足りない分は都度つど作っていこう。

 導火線は不要だから楽なもんだ。左腕から伸びた《《足》》を操作する。今では慣れたもんだ。


 20号と10号を作り終えた時点で日が傾いてきた。あと3時間くらいで日没だろう。休まなければ間に合いそうだ。小言は甘んじて受けよう。

 3号は玉数を揃えておけば良いだろう。途中、いつもの薬も飲みながら作業にいそしむ。味も何も感じないが、欠かすわけにはいかない……らしい。



「柳」「牡丹」「菊」(いくつかの大きな花火)の打ち上げ用意をし、3号玉を作り終えた時には、夕日が水平線に届こうか、というところだった。

 空には一番星が輝いている。じき宵闇よいやみにやってくる。花火が映えそうだ。

 良い仕事をした後の余韻を味わっていると、着替えたキミが俺を呼びに来た。


「……終わった?」

「ん? あぁ、悪いな。」

「ううん、行こ?」

「あぁ、頼む。」


 俺を迎えに来たキミに連れて行ってもらう。本当に《《良く気がつく子》》だ。他の奴らは、俺を枕代まくらがわりにしたりするのに。


 移動中、長方形の紙をふところから取り出して、渡してくる。

 まったく、『味も機械もコショウ次第』って誰だよ書いたの……。


「みんなで用意したの。」

「ほぉ……短冊か、良く知ってたな?」

「七夕は教えてもらった。……覚えてない?」

「んー、覚えてないな。」

「そう……お願い事、する?」


 俺は静かに首を振る。

 星空を背景に、風に揺れる短冊を眺める。おそらく魔力ねがいを込めたのだろう。淡い光がとても綺麗だ。


「冷えてきたけど、戻る?」

「皆を集めてくれ、見せたいものがある。」

「わかった……風さん、伝えて?」


 程なくして、皆が集まった。全員着替えてやがる……まったく。ガキどもの後ろで申し訳なさそうにしている《《青年》》の気遣いには頭が下がる。


「今日はありがとう。俺からの贈り物だ。その辺に座って、空を見ていてくれ。」



 皆から少し離れ、用意した玉を順に浮かせていく。そして気つけ用に丸薬も出しておく。さぁ、始めよう。


 『はなよ、咲け。』


 夜空に咲き乱れる大輪の花。思った以上の完成度だ。

 色とりどりの3号玉や海上花火《10号》が打ち上がる度に、大きな歓声が上がっていた。

 ゴリゴリと魔力が削れていくが、終わるまでもってくれよ……。震える足で必死に立ち続ける。最後に、大迫力の華《20号》を打ち上げよう。


 そうだ……この華に俺の願いをのせよう。














 最愛のキミよ、歩くのも覚束ない俺を、どうか……どうか、見ないでくれ。

 ちっぽけな自尊心が邪魔をして、キミの前では泣きたくないんだ。





 予期していたのだろう。俺を抱き起こしたキミのでる手は、いつもにも増して震えていた。

読んで頂きありがとうございます。

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