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まるくまるく  作者: あるまたく
小瓶 脱兎 これからも
27/59

SS ハル3

 鳥のさえずりがうるさい……。


「うるしゃぃ……。」


 目は閉じたまま、体に掛けている藁袋わらぶくろに潜り込み、悪あがきをする。狩りから家に戻ったのは夜半だった。もう少し寝かせて欲しい。


「……ハル? 今日はお休みかしら?」

「……。」

「お疲れ様、ハル。」

「……うん。」


 私を出迎えたのはお母さんだった。ずっと待っていたのかな。獲物はれたから良いけれど、服は汚れていたし、空の矢筒が虚しさをかもし出していた。魔力も欠乏し、視界がぼやけていた。う這うのていで戻ってきた。

 背伸びをし過ぎた。自分が一番良く分かっている。たった1匹だと油断していた。


「落ち込んでいても仕方がないってお母さんも言ってた。」


 自問自答し、先の反省点を挙げては自分なりの解決策を模索する。

 しばらくして、ある程度振り返った所でお腹が鳴った。そう言えば帰ってきてから何も食べてない。


「昼まで寝て、お母さんに謝ろう。」

「何を謝るの?」

「……いつから?」

「うるしゃぃ、から?」

「……。」


 聞かれたぁ……。お母さんが気配を消したら、気づけないし。藁袋の中で体勢を入れ替え、お母さんの近くから顏を出す。怒ってますアピールを忘れない。


「むぅ、気配ダメ。」

「あら、ごめんごめん。ハルの成長が嬉しくて?」

「……ほんとは?」

「娘が面白いことしてるのに、見ない親はいないと思うの。」

「もう、寝る。」


 顏の近くに座ってクスクス笑っているお母さんを無視して、そのひざに寝転がる。

 もっと上手くなりたい。狩りも、料理も。


「細かいキズを治しちゃいましょうか……じっとしてて。」

「うん。」


 おかあさんの《《風》》に包まれて、傷が癒えていく。少し眠くなってきたから、このまま目をつむって……。


「ゆっくり休みなさい。」


——————————————————


「……にゃっ!?」


 ガバッと音を立てて起き上がる。いつの間にか寝ていたみたい。体の調子を確かめてみる。……うん、完璧。


「ハルー? お昼、食べちゃいなさいよー?」

「……うん。」


 お母さんは私が食べなかった朝食を食べている。今、私の前に置かれているスープもサラダも一人分だけ作ったみたい。……お母さんが食べる量を減らす時って。


「ハル、食べながらで良いわ。」

「うん。」(もしゃもしゃ)

「昨日の獲物は、晩御飯にしましょう。」

「うん、たおひい。」(たのしみ)

「それで、弓は?」

「……?」

「……。」


 あれれ……どこに置いたっけ。


 森の奥で見つけた小さな池? それとも斜面の洞穴ほらあな? 獲物とはち合わせした時は、弓に矢をつがえたし……。倒した後、弓はどうしたっけ。


「たぶん、倒した時。」

「取りに行くのは、許しません。」

「……何で?」

「武器も無しに、子どもを森の奥に行かせるわけないでしょ?」

「で、でも……。」

「私が帰るまでは家にいなさい。まだ《《半分も》》回復してないでしょ?」

「……うん。」


 お母さんが怖い顔してる。上目遣いにチラチラ見て、引き下がった方が良いと思った。確かに、自身の得物を狩場に置いてきてしまうなんて……なんてていたらくだろう。

 でも森に入る人は少ないし、この村には《《くすね》》ちゃう人いない……よね?

 ……考え出したら不安になってきた。


「ダメよ、家にいなさい。」

「うっ……。」


 顔を上げたら、お母さんと目が合った。そして口を開こうとした所で、先んじて言われちゃった。今日は大人しくして、明日探しに行こう。ゴロゴロするなら、まめるものを作らないと。

 昼食の片づけを終え、芋を薄切りにして焼き始める。辛味のある薬草を刻んでおく。お母さんが、まぶしてくれる《《シオ》》という名前の白いつぶつぶとの相性が良い。ピリ辛っていう味らしい。おやつ感覚で食べられるから、作る頻度は高いかな。


「……できた。」

「どれどれ、うん、おいし~い。」

「お母さん、取り過ぎ。」

「いっぱい作ったから良いでしょ~?」

「お母さん、太り過ぎ。」

「えっ……マジ?」


 もちろんウソだけど。お母さん、食べても食べても太らない。でも、折角せっかく作ったのを鷲掴わしづかみで取るのは罪深い。わざと無言で顔を背けると、お母さんは腰回りを気にし始めた。見てると面白いけど、困らせるつもりはない。


「間食し過ぎたかしら……たるんでは」

「……わふっ。」

「どうしたの? ハル。」

「おかあさん、大好き……。」

「……ありがと。」

「うん。」


 お母さんの腰に抱き着いて止める。見上げた私の頭を撫でてくれた。ゴロゴロするむねを伝え、お菓子を持って藁袋わらぶくろの所へ……。あれ、お芋、減ってる?


「それじゃ、ちょっと出てくるわね!」

「……あ、逃げられた。」


 お母さん、ぎるてぃ。髪をかしてあげないもん。少なくなってしまったけれど、ちびちび食べながら寝転がる。行儀が悪いかもしれないけれど、一人だし?

 お母さん著の《《基本魔法》》を読んでいく。最近は魔法を勉強している……まだ使えないけど。読むだけで覚えちゃう、とはお母さんの言だから。足をパタパタさせながら、読み進めていく。


「うしゃんふしゃん……。」(うさんくさいなぁ、もぐもぐ)


 3ページほど読んだあたりで、眠くなってきた。お母さんの本には、《《不思議な魔力》》がある。食後に読むと、心地よーく……ねむ……。


 ある昼下がり、まったりと寝過ごしながら。


 ……ハルが魔法を覚えるのは、いつになることやら。


読んで頂きありがとうございます。

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