第四話 決戦日前日 伊吹誠
2009年4月6日 場所 夕凪学園屋上 13:00
午前の授業が終わり、学生の貴重な休憩時間に突入した。
4月とはいえまだ肌寒いのか、いつもなら屋上で昼食を食べる学生も多いのだが、今日は居なかった。
そんな中、一人昼食も食べずに遠い景色を眺める男子学生が居た。
伊吹 誠である。
「カリン、どうだった?」
誰も居ない屋上での独り言…のはずが
刹那の瞬間に、まるで今まで私初めからココに居ましたよ?的なオーラを出しているんじゃないかとさえ感じさせるかのように誠の左隣に居た。
「ごめんなさい…まだはっきりとは。」
「そうか。」
大して期待していなかったのか。誠は背伸びしながら答えていた。
「でも…間違いなくあの人のはずなんです。」
証拠はないが確信はある。と言った感じでカリンは小さな声で答える。
「そうだな…俺もそう思う。」
だが証拠がない。
うなだれるように誠が呟く。
「カリン。分かっているとは思うが…。」
「ええ。分かっています。…もう時間が無いのですよね。」
「…そうだ。」
九年前のあの事件以来、誠は全てを失ったといってもいい。
最愛の家族を失い、友人や知人は全員未だ行方不明になっている。今まで誠は天涯孤独に生きてきた。その誠が今まで誰にも言わず、忍ばせたたった一つの執念。
あ の 事 件 の 黒 幕 を 探 し て 殺 す 。
政府は、自然災害であると報告しているが、被災者である誠からみればこれは明らかな人災であった。(ただ、9年経った今でも事件の原因は掴めていない)
誠はこの9年間、ある魔術師の下で鍛錬していた。しかし魔術師が言うには、誠には魔術としての才能があまりなく、使える魔術もわずかに二つだけ。
一つ目は、自身又は物理的なものの一時的強化。戦闘では唯一使える基本スキルだが持続硬化時間がわずかに数十秒程度。とてもではないが使える能力とはいえない。
二つ目、は未来予知。といっても数年後の未来を予測したりとかではなく、現在の状況から脳内で高精密演算を行い、その未来を読み取るといった仕組み。
もう少し分かりやすく捕らえてみよう。歩いている一般人が居ます。当然右足、左足と交互に足は出ます。右足が前に出てその次の行動を読み取る…これが基本的な未来予知である。
しかしこの二つは他の魔術師にはほとんど修得しないものである。なぜなら
強化の効果時間の短さと予知に関する脳内の負担とそのリスクが高いため。
強化も未来予知も個人差があるものの、持続時間が圧倒的に短いため魔術師同士での戦闘になるとそれは邪魔な能力でしかない。予知に関しては、効果平均時間はわずかに数秒先の先読み程度しかない。なぜ師匠がこの能力しか教えてくれなかったのだろうかと、誠は今でも師匠のことが理解できなかった。
当然独学でも勉強しようとはした。しかし魔術の独学は非常に危険であり、師匠にも禁止されていた。
「(よく、ぶっ殺すって言われてたっけなぁ)」
「…?」
何か寂しそうに空を眺める誠をどうしたものかとカリンは誠を見ていた。誠はそんなことなど知らぬ顔して聞いてみた(勿論内心では気付いているが)
「なぁカリン…聞いてもいいかな?」
「…なんでしょうか?」
一呼吸して落ち着いてから、誠は本題を振った。
「俺は…勝てると思うか?」
カリンはわずかに示唆するが
「それは、どちらとですか?」
「決まっているだろう。」
誠はカリンの方に振り向いて答える。その時日の光が反射してすこし眩しかった。
「会長とだよ。」
カリンにはどう答えていいのか迷っていたところ、正直に答えてと誠は言った。それなら…。
「正直、誠さんに勝ち目はありません…。」
やっぱりか。と誠は薄笑いしながらカリンに背を向ける。
「あの人を遠くから見ましたが凄まじい殺気でした。多分、私も気付かれてます…。」
カリンは霊体のため、通常は他人に認知されない筈だ。その彼女に気付かれている?
ありえない。
会長が如何に人外の能力があろうとも彼女はこの世に存在して居ない霊体なのだ。
誠でさえカリンが声を発しなければ、居場所さえ分からないというのに、会長は気付いている?
「カリン一つ聞きたい。もし俺が神凪と組めばどうだ?」
背を向けているので表情こそ見えないものの、少し苛立ちの声を出した。
「贔屓目に見ても…勝てないと思います。」
神凪はこの学園で2番目に強いとされる<女帝>だというのにそれでも勝てないと言う。
それほど会長との力の差が歴然なのか。
「カリン。なら、俺と神凪とではどうだ?」
「私の力を使っても勝てるかどうか…です。」
つまり良くて5分、悪くて3〜4と言ったところらしい。
「ならば、神凪に勝って同盟し、仲間を増やすのが得策か。」
神凪と組んでも勝ち目が薄いのなら、人数を増やすしかない。単純な考えだが最も効率がよく、勝つ確率も上がる。
「カリン行くぞ。神凪と交渉してみる。」
カリンは黙って誠の後ろに憑いてった。誠の目指す先がどれだけ困難であるか、カリンは一番分かっていた。
それはまるで死にに行く傷ついた戦士を思い浮かべるようだった。
その時、休憩時間が終わりを告げるチャイムが鳴った。
今回で新単語がどんどん出ています。
誤字、脱字、句読点、ストーリー上おかしいぞ?等変なところがあれば教えてもらえると幸いです。