第二話 伊吹 誠
そこは日頃誰も近寄らない校舎の裏だった。
真夜中の校舎の裏には月明かりだけが頼りで見える場所で、蛍光らしきものはない。
月の光が当たらない所で何かが動いた。それは凝視しなければ…いや、凝視しても気付かないかもしれない。それほど細かな変化だった。しかし、細かな変化が僅かな時間をかけ大きな変化に変わった。
そう…何もない空間からソレは現れたのだ。
空間を引き裂いたかのように突然現れたのはミニスカの女…というより制服を着た黒髪の長い少女だった。
「あなたが、私を呼んだのですか…?」
消え入りそうな声だが、確かに少女は問いかけた。その端正な顔からは表情に乏しく、少し怯えたように相手を窺う。
「そうですか…では今から私のご主人様ですね。わたし、カリンといいます。」
抑揚のない声と言うのだろうか。少女の声は消え入りそうで儚い感じがする。
「ではご主人様。ご存知とは思いますが契約を結んで頂けないでしょうか?」
まるで少女の中でお決まりの定例文の如く契約の詳細を話してくる。以前にも何度も契約をしたことがあるのだろう。とても分かりやすく、機械的だった。
「ではご主人様、契約が完了いたしました。これによりご主人様と契約のため今後は一緒に同行させていただきます。」
「ああ。」
契約自体は一瞬で済んでしまった。お互いの額を合わせシンクロしただけ。しかし、この契約でカリンとの意識の共有が出来るようになった。
「カリンだったな。俺のことはマスターなどと呼ばないように。下の名前で呼んでくれ。」
一瞬カリンは何故?と疑問を浮かべたような顔つきをした。
「学校でマスターなどと呼ばれると変に思われる。下の名前で呼んでくれ。」
「…わかりました。誠様…いえ、誠さん」
相変わらずの抑揚のない声で聞き取りにくい声だった。
そして、その言葉を最後に二人は消えた。まるで一面の風景に溶けるようにゆっくりと消えた。
それは戌の下刻だった。
かなり長い間事情があって放置してましたが心機一転頑張りますので宜しくお願いします。
今回の章は物語の布石で書きました。特に進展も何もないです(汗)