第1話. 目覚め
目が覚める。
…生きてる?
何がどうなった…?
たしか……仕事帰りにいつものカフェに寄って、お姉さんがいないからコーヒーを持ち帰って……
そうだお姉さん!轢かれそうになって助けに入って……どうなったんだ!?
俺が生きてるってことはお姉さんも無事……なのか?
そもそも俺は生きてるのか?
手を動かそうとするが動かない。そもそも手の感覚がない。
周りはひんやりとする。ってことは感覚はあるはずなんだが…
そもそもここはどこだ?
居心地は悪くない。
目を開こうとして…開かない?え?
意識を向けても真っ暗だ。
え、ちょっと待って。何これナニコレ!?
ドラマとかで聞く植物人間ってやつなのか!?
ひんやりするってもしかして安置所とかにでも入ってるのか!?
わけがわからない。
混乱もするわ。なんせ真っ暗だ。暗闇は不安を増長させる。人間は発狂してしまうもんだ。
絶望が押し寄せる。
ニュルン
変な音が聞こえた。
と思ったらいきなり視界がひらけて空に投げ出される。
眼前に迫る地面。
(うわっ!?)
ビチャッ
(いてて……痛くない?)
混乱はするが、視界がひらけた。闇が晴れた。
……周囲は薄暗いが、それでも真っ暗闇よりはマシだ。
知らない壁。知らない天井。知らない地面。
全てが岩肌で、まるで--(洞…窟?)
ビチャッ
背後から先ほども聞こえた音がする。
ぽよん。ぽよん。
背後からボールが弾むような音がする。
(何の音…だ?)
意識をそちらへ向けると顔を動かした訳でないのに視界が移る。
そこには青白い球体が、水玉のように無数にあった。
丁度自分がいるのが小さな岩山の上だったようで眼前の光景は見下ろす形になっていた。
無数にある球体の奥には一際大きな楕円の球体がある。
(なにこれ…?)
見たことのない景色に呆気にとられる。
すると一際大きなそれがぷるぷると揺れて
ニュルン
と音を出して小さな水玉を生み出した。
ビチャッ
出てきた水玉は岩肌にぶつかり、潰れて……集まって、球体になった。
(あれってもしかして……スライム??)
某有名RPGのソレとは多少形が違うようだが、似ているそれはまさしくスライムだった。
一際大きなスライム(?)は一定のリズムで小さなスライム(?)を生み出していた。
小ちゃいのがわらわらと。いやぷるぷると周囲にいる。
(…夢かな)
きっとこれは明晰夢ってやつだ。いずれ覚める。きっと覚める。覚めてくれる。覚めてくれ。
そんな現実を夢と考えながら周囲を見やる。
洞窟っていってもここは広場みたいな感じなのかな。
感覚的に体育館くらいの広さのそこには小さなスライムがわらわらぷるぷると埋め尽くしていた。
ふと目を離していた大きなスライム(?)が洞窟の奥へと移動しているのに気付く。
(あっちが出口なのか…?こいつらどうなるんだ??)
ぷるぷると揺れる無数のスライム(?)たち。
(……減ってる?)
しばらく見てると数が減ってきている。
代わりに最初よりも少し大きなスライム(?)がチラホラ見える。
(合体……?共食いじゃ…ないよ…な?)
みるみる減っていくスライム(?)と、大きくなっていくスライム(?)
それらはやがて数を減らし、最初にいた大きなスライム(?)と同じくらいのソレが10匹ほどいた。
(質量保存の法則とかないのかな…)
ぷるぷる震えたソレのうちの1匹がずりずりと俺に迫ってきた。
(……逃げなきゃ行けないやつだ!?)
足を動かし逃げようと思ったが、足はない。
しかし逃げたい。下がりたい。
ズリュッ
と、身体が動く感覚があった。
そして自分も球体のソレ--スライムになっていることに気付いた。
(俺もスライムなってたのか!)
混乱しつつも後ろに動きたい、下がりたいと意識する。
ズリュッズリュッ--少しずつ下がっていく。
(よし!これで何とか逃げ…うぇっ!?)
ふっと感じたのは落下する感覚。
小さな岩山にいたはずなのだが、気づけば滑り落ち、その先には
(穴!?)
自分と同じ大きさくらいの穴へと落ちていった。