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さて、一服。  作者: ろうや
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さて、一服。

 

 仕事が始まる。といっても基本はレジにつったているだけである。

 たまに店内を歩き回って商品棚が乱れていれば整理したり、補充したりする。なんとも楽な仕事である。


 増田さんはいつものように、しばらく任せたぞと言って出て行ってしまった。


 はぁ。大学や高校の友達はバリバリ働いているやつもいるのに。。。


 とか思ったりするが、考えると辛くなるので考えない。

わざわざ自分から辛くなるとかあり得ないだろ。


 それに社会情勢もある。このご時世おれみたいな人間がいても当たり前だ。

 といった言い訳も考えてしまう。だから考えたくない。

 おれの仕事における信条はただひとつ。


無。


である。


愛想の良い接客などしない。きびきび動いたりしない。

ただただ無。


ほんと悟り開いてしまっているくらい。


今日も悟りを開いてピッピッとレジをうつ。


無に徹して仕事をこなしていると、終わりが見えてきた。今日もあと1時間で業務終了である。

そう思うと嬉しくなって夕食のことを考えだした。


 せっかくの給料日だ。外食でもするか。トッピング自在のカレー屋にするか、あるいは、天下一と称するラーメンを食うか。ラーメンなら餃子とビールも付けちゃえ。

ん、待てよ。おれの外食のイメージすこし寂しくないかな。


 おれは自分の食文化のレベルの低さにややショックを受けた。

 お店が悪いんじゃないよ。やっぱり外食っていうともうちょっとお洒落で華やかなイメージあるじゃん。。。


「せっかくだし、いいもの食べて、元気な体になってもらわないとな。」

突然宮木が話し出す。

「俺の思考のぞいてんじゃねぇよ。」

 おれは心のなかで答えた。

 どうやら宮木のせいで妄想もできないらしい。


「それにおれは仕事出来る程度には元気だ。ほれ。」

 そう言ってピッピッとレジをこなす。


「しかし、いざというとき今の身体じゃ闘えんだろ。」

「普通に生活してたらそんないざ闘うようなことはねぇよ。」


 相変わらず、宮木のいうことはわけわからない。


 道に怖そうな人がいれば避けて歩くし、街で体がぶつかれば謝る。そうしていれば簡単に絡まれることもないだろう。

 そもそも俺は恒久平和を誓った国の人間だからな。


 なんてことを考えていると、そのいざというときが来てしまった。



「おいねぇちゃんどうしてくれんだよ」

「すみませんっ。」 

「謝っただけじゃすまねえだろ」


 柄の悪そうな男二人の声と春海ちゃんの小さな声。

 なんともよろしくない雰囲気である。


 この状況を知らんぷり出来るわけもなく、俺は隣のレジに向かう。

 ここのお店はすこし特殊でレジの間が出っぱった柱でしきられている。

 だから隣の状況がよく分からない。


「あの。どうかしましたか。」

柄の悪そうな男二人に聞いてみる。

「あ?見てわかんねえの?これひどくね?」

男二人は20代後半から30代前半。一人は長身で、もう一人は中肉中背。長身の男は染めた髪を変幻自在に操った感じの髪型をしている。中肉中背の方は短髪の黒髪をてかてかにして固めている。街中ならば真っ先に俺が避ける嫌な感じのやつらだ。


 ったく良い年して何してんのか。

 そう思いながら二人の足下を見ると、なにやら汁が床に飛び散っており、それが二人の靴やズボンの裾にもかかっている。

 おれはあわててレジにあるペーパータオルでその汚れをふく。


 あちゃーなんかこぼしちゃったか。


 そう思って春海ちゃんに目をやる。


 それに気づいた春海ちゃんは

「あの、その、お、おでんを。」

とおそるおそる答えた。


 まぁみたらわかる。

 その後も男たちの怒声は続く。

「ほら。汚れちゃったじゃん。」

「どうしてくれんの?クリーニング代出すか?」

「いやぁ。そんなもんじゃ足りねえだろ。いくらくれんの?」

「責任者出せよ。」

 言いたい放題いってやがる。この店は言いたい放題○○円(ワンドリンク制)なんてやってないし、そもそもいつ金払うって決まったよ。


 二人の横柄な態度にすこしイラッとしながらも、俺は頑張って大人の対応をした。

「大変申し訳ございませんでした。只今店長不在でして、私どもでは対応を決めかねます。ですから店長が戻るまでお待ちいただくか、お客様のご連絡先を教えていただけますか。クリーニングの費用含め店長から連絡させていただきます。」


なかなか良い対応じゃないかなと自分でも思ったが、どうやら男二人は納得行かないらしい。

「店長いないならてめぇらでなんとかしろよ。」

「ってか金だしゃいんだよ」

まだ言いたい放題いっている。


 まだ言うか。延長料金とるぞ。

と思いながらも何度も頭を下げる。


 男二人のうしろには少々イライラしながらレジを待っている客が見えた。


「お客様待たせてるから春海ちゃんあっちのレジよろしく。」

俺は頭を下げながら春海ちゃんに指示をだした。「はい。」

そう言って春海ちゃんがレジを動こうとしたその時。


「おいねえちゃん。まだ話し終わってねえだろ。」

長身の男が春海ちゃんの腕をつかんだ。

「他のお客様もいらっしゃいますので。」

俺はなんとかなだめようとしたのだが、今度は標的が俺に代わる。


「おめぇもさっきから謝ってばっかいるけど気持ちがこもってねえな。」


 男は春海ちゃんから手をはなすと今度は俺の髪の毛を掴んできた。

 ここまで来るともうこいつらが悪い。俺も頭にきた。


「頼むぜ宮木。」

俺がポツリと呟くと

「ん?どうした?」

相変わらず何も分かっていない宮木の声がした。

その返事にすこし気が落ち着いたが、もう覚悟は決まっている。

 俺は顔を上げて男をにらめつけた。


「あぁ。なんだよ。やんのか。」


一層お怒りのご様子だ。


「おい。おまえさすがにやりすぎだよ。やるかどうかはしらん。その前に。。。」

 俺はそう言って制服のなかに着ているシャツの胸ポケットからタバコを取り出した。

 そしてくわえて火をつける。


「さて、一服。」

















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