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艦は嵐の中を行く

始めまして、瑞穂国と申します。


「小説家になろう」初心者です。一応、「ハーメルン」を主活動場所としています。

本格(?)架空戦記は初めてなので、稚拙な点多々あるとは思いますが、温かい目で見守っていただけますと幸いです。


どうぞ、よろしくお願いいたします

 太平洋の荒波が、巨艦を鷲掴みにしては、上下、あるいは左右へと大きく揺さぶっていた。シアーをかけ、十分な高さを取られているはずの艦首甲板にも波が当たり、人間など一飲みにしてしまいそうな程の海水が叩きつけられる。波を乗り越えるたびに、艦体には前後方向に大きな歪みがかかっていた。

 揺れる第一艦橋には、こんな状況でも逃げることなく、何人もの男たちが立っている。否、中には女性の姿すら見えた。全員、何かに掴まり、あるいは両足を踏ん張って、自らの職務を全うしていた。

―――でも、さすがにそろそろマズイかもしれん。

 艦橋のへりに掴まって海を見つめていた深山太一みやまたいち中佐は、厳しい顔で海を見つめていた。もっともそれは、喉の奥の方から込み上げてくる熱いものを押し込めるのに必死だったためだが。

「航海長、この嵐は後どのくらいで抜けることになる?」

 老練な渋みのある声は、深山の後ろの方から聞こえてきた。艦長の風中昴かぜなかすばる大佐だ。四十代も折り返しに迫ろうかという歳とは思えない引き締まった体躯は、この荒海の只中にもかかわらず、二本の足でしっかりと艦橋に立っている。まさに、海の男を地で行くような、そんな艦長だった。

「後二時間、といったところでしょうか」

 気象情報を記したボードに目を落とし、航海長の秋津寿明あきつとしあき中佐が答えた。彼と深山は同期であり、何かと配属が同じになることが多い腐れ縁であった。

―――後二時間も、この嵐の中か。

 想像しただけで胃に悪い。

「もうしばらくの辛抱、といったところか」

 風中がチラリと、艦の後方に意識を遣る。横殴りの雨と波のうねりのせいでよく見えないが、そこにはこの艦よりも遥かに小柄な軽巡や駆逐艦たちが続いているはずだ。彼女たちでは、この波を越えるだけでも一苦労である。

 帝国海軍が、いかに「月月火水木金金」の猛訓練を積もうとも、自然の猛威に逆らうことはできない。事実、台風下での演習を行った結果「第四艦隊事件」のような惨劇を引き起こすこととなったのだ。鋼鉄の軍艦に、熟練した乗組員たちが乗っていても、大いなる自然の前に為す術がなくなるときだってある。

 それではなぜ、深山たちの乗る艦は、嵐の中を進んでいるのだろうか。

「これで敵輸送艦隊を捕捉できなかったら、長官に文句を言ってやりましょう」

 涼しい顔でさらりと爆弾発言をしたのは、副長の若宮徹わかみやとおる中佐だ。階級は同じだが、深山より三期先輩である。半年前、風中と共にこの艦に着任して以来、彼の良き女房役として艦の運行に関わってきた。

 その副長の言葉に、風中が苦笑する。若宮の毒舌は、今に始まったことではない。

「長官のご判断には、私も賛同しているのだが」

「それとこれとは別問題です」

 若宮はにべもなく言い放った。

 この艦含めた艦隊の目的は、帝国陸海軍の航空基地が集中する台湾と大規模な航空撃滅戦を展開する、米軍支配下のフィリピンへ向かう輸送船団の襲撃だ。速力を活かした一撃離脱をかけるべく、艦隊は高速艦のみで編成されていた。

 そこへ来て、この嵐である。当初は敵輸送船団がこの嵐を回避する航路を取ると予想して、こちらも迂回航路を選ぶ予定だった。それが、長官の鶴の一声で、嵐の中を突っ切っていくことになったのだ。

 理由は簡単だ。敵輸送船団は、こちらが「奴らは迂回航路を取るだろうから、同じように嵐を回避して待ち伏せよう」と考えていると予想する。だから、こちらの裏をかいて、わざと嵐の中を進んでくる。であるなら我々もその裏をかき、嵐の中を突破して敵輸送船団を捕捉しようという腹づもりだ。

 理由は他にもある。この辺りは、日米どちらも制空権を確保しているとは言い難く、場合によっては味方航空機の援護がないまま敵機の空襲を受ける可能性もある。その点、嵐の中に入ってしまえば、敵味方共に航空戦力を投入できないから、空襲を受ける心配はしなくてもいい。

―――確かに、一理ある。一理あるんだが。

 現在、こうして暴れる海に弄ばれていることを思うと、もう少しましな選択肢はなかったのかと嘆きたくもなる。

「引き続き、警戒を厳となせ。嵐を抜けた時が勝負だ」

 風中の良く通る声が、激しく吹きつける雨の音に負けじと艦橋の中に響いた。その言葉に、各員の気が一層引き締まる。

 嵐は、その勢いを衰えさせることなく、艦の舷側に打ち付け、艦首で砕け散る。母なる海の激しい抱擁を受け止めながら、深山たちの艦は邁進していた。

 艦の名は“紀伊”。全長二三八・六メートル、全幅三四・八メートル、基準排水量三万七五〇〇トン。四五口径四一サンチ砲を連装砲塔に収めて艦の前後に二基ずつ計四基。三二ノットを発揮することのできる、高速戦艦であった。

 帝国海軍の戦艦建造について語るには、まず二つの海軍軍縮会議―――ワシントンとロンドンについて語らなければならない。

 言わずもがな、両軍縮会議は、第一次世界大戦以前から各国で続いていた軍拡競争、建艦競争に歯止めをかけるためのものであった。ことに、当時海軍の主力であった戦艦に対する縛りは厳しく、両軍縮会議とも建造の禁止、あるいは制限を課している。

 この、戦艦の建造に関して最も紛糾したのが、ワシントン海軍軍縮会議での戦艦“陸奥”を巡る論争だ。

 当時、世界で一六インチ級―――四一サンチ砲を搭載した戦艦は、日本の“長門”だけが完成に漕ぎ着けていた。アメリカの“コロラド”級はまだ建造途中であり、イギリスに至ってはまだ計画の段階でしかなかった。

 さらに日本は、これに加えて“陸奥”を完成直前まで仕上げていた。そこへ来て、このワシントン海軍軍縮会議が開催されたのだ。

 その条文の中には、参加国は条約締結前に完成した戦艦を除き、建造中のものも含めてあらゆる戦艦の建造を禁止する文言が含まれていた。

 各国は、日本の“陸奥”を廃艦に追い込もうと躍起になった。これに対し日本は、“陸奥”を突貫工事で就役させ、完成している戦艦であると主張した。

 日本海軍の戦艦は、基本的に姉妹艦で一つの小隊を形成する。いくら世界最強の四一サンチ砲といえども、“長門”一隻ではその真価を発揮することはできない。彼女には“陸奥”という、スペックが全て同じ姉妹艦が必要だった。

 喧々囂々となった会議は、結局日米英が四隻ずつの一六インチ砲艦を保有し、仏伊についても二隻の保有を認めた。後に言う「十六大艦時代」の幕開けである。

 この結果、日本は“長門”型二隻(“長門”、“陸奥”)、“加賀”型二隻(“加賀”、“土佐”)を保有することになった。

 アメリカは“コロラド”級二隻(“コロラド”、“ウェスト・ヴァージニア”)、“レキシントン”級二隻(“レキシントン”、“サラトガ”)。

 イギリスは“ネルソン”級二隻(“ネルソン”、“ロドネー”)、“セント・ジョージ”級(改“ネルソン”級)二隻(“セント・ジョージ”、“セント・アンドリュー”)。

 フランスは“ノルマンディー”級二隻(“ノルマンディー”、“ラングドック”)。

 イタリアは“フランチェスコ・カラッチョロ”級二隻(“フランチェスコ・カラッチョロ”、“クリストーフォロ・コロンボ”)。

 ただし、“ノルマンディー”級と“フランチェスコ・カラッチョロ”級については、設計思想的なものから一五インチ砲を採用していた。

 この他、各国に戦艦の保有トン数が決められ、日本は“金剛”を廃艦にし、“比叡”から装甲と主砲一基を取り外して練習戦艦とした。

 さて、このワシントン条約だが、有効期間は十年とされた。十年間は、各国とも条約内で定められた以上の戦艦を建造してはいけない。しかし、それだけで軍拡が終わるはずもなかった。各国は、制限された戦艦戦力を補う存在として、巡洋艦に着目し始めた。

 ワシントン条約の制限ギリギリ―――八インチ砲搭載、排水量一万トン以下の巡洋艦を、各国は競うように建造し始めた。

 日本も例外ではない。後に甲巡というカテゴリーを産むことになった世界初の八インチ砲搭載巡洋艦“古鷹”型、その改良型である“青葉”型、列強を驚愕させた強力な戦闘能力を誇る“妙高”型、“高雄”型。戦艦に次ぐ主力と位置付けられた巡洋艦は、急速にその地位を向上させていったのだ。

 ワシントン会議から十年後。有効期間を迎えようとした条約を補うべく、ロンドン海軍軍縮会議が開催された。その条文には、各国の巡洋艦の保有制限までも設けられることとなった。

 その代わりではないが、各国には条約発効時点で艦齢十五年を越える戦艦の代艦を二隻まで、ワシントン条約で定めた制限内(基準排水量三万五〇〇〇トン以下、主砲口径一六インチ以内、門数十門以内)で建造することが認められた。

 日本では、これに“榛名”と“霧島”が当たった。この代艦建造の承認を見越していた日本海軍は、直ちに両艦の廃艦を決定。条約発効後、代艦となる新型戦艦の建造に着手した。

 同様のことは、アメリカやイギリスも行っている。また、ロンドン会議からは新たにドイツが加わり、新造戦艦二隻の建造を許されている。

 当初、この“榛名”型代艦計画には、俗に「藤本案」と「平賀案」と呼ばれる二つの案が存在した。検討の結果、最終的には「藤本案」に決まるのだが、その過程で「平賀案」からも多くの部分が吸収され、「ポスト八八艦隊戦艦」とでも呼ぶべき新時代の日本海軍主力戦艦は着工されたのだ。

 重視されたのは、ワシントン条約によって流産に終わった巡洋戦艦の建造だ。仮想敵国とするアメリカの“レキシントン”級に対抗しうる高速戦艦の建造を、日本海軍は目指した。

 こうして決まった新型戦艦(計画番号A130)の要目は、全長二三八メートル、全幅三五メートル、基準排水量三万五〇〇〇トン、四五口径四一サンチ主砲連装四基八門。後の“紀伊”型戦艦である。

 苦難の旅路の末、“紀伊”は嵐を脱した。背後へと遠のいていく厚い雲を睨んだ深山は、穏やかさを取り戻した海に安堵の表情を浮かべる。

「“尾張”より発光信号。『逐次集マレ』です」

 見張りの水兵が、先頭を行くこの艦隊の旗艦―――“紀伊”の同型艦であり、第二戦隊を構成する僚艦の“尾張”からの指示を読み上げた。

「各部、状況を報告せよ」

 旗艦の指示に従って、伸びきった陣形を整えながら、風中が命じる。砲術長として、“紀伊”全体の兵器を預かる深山は、艦橋トップの射撃指揮所を呼び出した。

「射撃指揮所、異常ないか」

『射撃指揮所、異常なし』

 ベテランの射手からの報告は、短くも頼もしい。副砲や各高角砲群も問題なしとのことだ。あれだけの嵐に揉まれても、満載で四万トンを超える“紀伊”は、その能力を微塵も喪失していなかった。

―――さすがは、海軍最速最強の戦艦だ。

 自らの乗り込んだ戦艦の凄まじさに、改めて感嘆の息が漏れる。中央では、この“紀伊”に続く新型戦艦が、近く就役予定というが、自らこそが海軍最強の艦であることを、深山は信じて疑わなかった。後は、その実力を十二分に発揮するのみだ。

 陣形を再び組みなおした艦隊は、“尾張”を先頭にして進撃を開始する。それに続くのは、“紀伊”そして“妙高”、“那智”、“羽黒”。一方、“神通”を旗艦とする第二水雷戦隊は、“尾張”以下の単縦陣を囲むようにして配置している。これが、現在の第二艦隊の全容だ。

「近くに輸送船団がいるはずだ。しっかり探せ」

 大型双眼鏡に取り付いている水兵に、先輩一曹が発破をかける。艦橋内だけではない。第一艦橋の上部に設けられた露天艦橋でも、多数の見張り員が目を皿のようにして辺りを捜索しているはずだ。

「“伊勢”の艦長に聞いたんだが」

 艦橋中央で微動だにせず立っている風中が、唐突に深山に話しかけてきた。着任時から風中に気に入られていた深山は、戦闘時や夜間航行中以外は艦橋にいることが多い。ちなみに、彼の右腕である若宮は艦橋基部の司令塔に入ったため、ここにはいない。

「こういう時、電波探信儀というのは便利だそうだな」

「・・・電探ですか」

 深山も噂は聞いている。陸軍に触発される形で、海軍内部でも研究、開発が進み始めた新時代の見張り員は、その艦載試作型が“伊勢”に試験搭載されていた。

 まだまだ改良点が多く、故障も頻発しているということだが、整備と運用を間違えなければ、水平線の向こうにいる艦影まで捉えることができるそうだ。

 深山個人としては、電探はまだ、実用に耐えうるものとは思えなかった。それこそ、先ほどのような嵐に突っ込んだ後では、故障してしまう可能性が高い。どれだけ高性能でも、使いたいときに使えない兵器に用はない。

―――ただ、そのうち配備されるようにはなるだろうな。

 その時、期待の新兵器をいかにして扱うか。その研究も進めていかなければなるまい。

「そのうち、電探で主砲も撃てるようになるのだろうか」

「それはどうでしょう。ただ、光学照準と上手く組み合わせることで、射撃精度の向上が見込めるかもしれません」

 深山の答えを聞いて、風中が悪戯っぽく笑った。

「砲術長は、電探が嫌いではないのだな。海軍内には、『闇夜の提灯』などと揶揄して、毛嫌いする人間もいるが」

 電探とは、自ら発した電波の反射によって敵艦や敵機を捉えるものだ。即ち、その電波を逆に捉えられ、こちらの位置を曝け出してしまうことにもなる。伝統的に夜戦に力を入れてきた日本海軍には、これを嫌う者も少なくない。

「そういうことを、気にしたことはありませんね」

 深山はきっぱりと言い切った。

「兵器は使ってなんぼです。それに、闇夜に提灯は必須ですよ」

「それもそうだ」

 風中は笑った。電探の話は、そこで終わった。

 以降は、誰もが無口だ。艦橋内にはピンと緊張感が張っている。時折見張り員が双眼鏡を動かす以外は、艦首に当たった波が砕けていく音しか聞こえない。だがその沈黙は、唐突に破られた。

「左舷二十度、排煙らしきもの見ゆ!数、少なくとも十本以上!」

「いたか!」

 付近に日本海軍の行動艦艇はいない。すなわち、あの排煙の下にいる艦は・・・。

「マストらしきもの見ゆ!敵輸送船団、及びその護衛艦隊と認む!」

「“尾張”より、『無線封止解除、合戦用意』!」

 見張り員と通信員から、二つの報告がほとんど同時に入った。

「全艦合戦用意!観測機発艦準備!」

 “尾張”からの指示を受け、風中が声を張る。張り詰めた緊張の糸を伝って、命令はすぐさま艦全体に行き渡った。殊に、深山指揮下の砲術科員は、砲撃戦に備えて、各所の配置についている。四基の巨大な砲塔内では、射撃指揮所から来る射撃諸元に合わせて砲の旋回と俯仰を行う、あるいは弾火薬庫から送られてくる砲弾や装薬を迅速に装填するべく、各員が緊張の面持ちで命令を待っていた。

「深山中佐、射撃指揮所に上がります」

「うむ」

 深山もまた、砲戦の指揮を執るべく、艦橋最頂部の主砲射撃指揮所へと上がっていった。

 程なくして、観測機の発艦準備が完了する。後部甲板に据えられたカタパルトが旋回し、風上を向いて固定された。弾けるような火薬の炸裂音の後、零式水上観測機を乗せた台車が急加速され、機体を海へと放り出す。発艦に必要な揚力を得た零式水上観測機は、一旦沈み込んだ後、弾着観測任務に就くべく上昇していった。

「敵艦見ゆ!」

 見張り員が叫んだ。輸送船団が、その艦影を水平線に現したのだ。首から提げた双眼鏡を、深山も覗き込む。

 水平線に、黒い排煙を引きながら進む艦影が見える。だが、想像と違ったその姿に、深山は違和感を覚えた。

 目の前を進んでいるのは、輸送船ではなかったのだ。

 丈高いマストは、特徴的な編み目が見える。全体的に中央寄りの配置をしている艦上構造物の中央辺りに、太い煙突があった。あんな艦影の輸送船は見たことがない。

 否、その艦が何であるか、深山は知っていた。射撃演習の度に、幾度となく仮想目標として設定してきたその艦型を、忘れるはずがなかった。

『観測機より、『敵輸送船団ハ、護衛部隊ヲ伴フ。戦艦二、巡洋艦四、駆逐艦多数』!』

「先頭の敵艦は、“コロラド”級と認む!」

 これで、全てが確定した。こちらの襲撃に備えて、米艦隊は輸送船団に護衛を付けたのだ。それも、世界最強の一角をなす、二隻の一六インチ砲艦を。

―――面白い。

 深山は内心で不敵に笑った。相手は“コロラド”級だ。この“紀伊”の初陣を飾るにふさわしい。鉄砲屋の腕が鳴るというものだ。

『“尾張”より、『逐次回頭、取舵四五、針路一三〇』』

 “尾張”座上の三川軍一みかわぐんいち中将は、反航戦を行いながら接近することを選んだらしい。風中は前を進む“尾張”を見つつ、タイミングを計って取舵を指示した。

 排水量が四万トンにも達する“紀伊”が、すぐに回頭を始めることはない。油圧ポンプが作動して舵を動かしても、慣性の法則によって艦は前進を続ける。二十秒ほどの時間をかけて、艦はようやく艦首を左に振り始めた。

『“尾張”より、『右砲戦用意。本艦目標敵戦艦二番艦、“紀伊”目標敵戦艦一番艦。五戦隊(第五戦隊)及ビ二水戦(第二水雷戦隊)ハ、別命アルマデ待機』』

『目標敵戦艦一番艦。測敵始め』

「目標敵戦艦一番艦。測敵始め!」

 “尾張”からの指示を受けた風中の命令を、深山が復唱する。すでに水平線のこちらへと姿を見せている敵戦艦に向けて、艦橋頂部の十メートル測距儀が旋回し、射撃諸元のもととなる数値を計測し始めた。

「敵戦艦面舵!輸送船団より分離してきます!」

 二隻の“コロラド”級もやる気だ。あちらの指揮官は、輸送船団を守るべく、第二艦隊との砲戦を望んだのだ。

―――相手にとって不足なし。

 測敵完了の報告を、深山は今や遅しと待っていた。

「測敵完了!射撃諸元算出完了!」

 待望の報せは、すぐにもたらされた。

「主砲、諸元入力!」

 算出された射撃諸元は、各砲塔に送られて、旋回角と俯仰角を示す。それに基づき、四基の連装砲塔が旋回し、左砲をもたげていく。動きが緩慢ゆえに、何とも形容しがたい厳かさが漂っていた。

 だが、やることは“コロラド”級も同じだ。そして、諸元入力から旋回と俯仰を終えたのは、あちらの方が早かった。

「敵一番艦発砲!続いて二番艦発砲!」

―――来たか・・・!

 二隻の“コロラド”級が、ほとんど同時に発砲した。四基ある連装砲塔のうち、一門ずつが細長い砲身を持ち上げ、褐色の砲煙を吐き出している。

 “コロラド”級が搭載しているのは、四五口径一六インチ砲連装四基八門。砲戦能力は“紀伊”型と同等だ。観測用の交互撃ち方だから、二隻合わせて八発の一六インチ砲弾が、“紀伊”と“尾張”に向けて飛翔を始めたことになる。

 彼我の距離は二万一千メートル。日本海軍が決戦距離と定める距離だ。砲弾が飛翔を終えるには、大体三十秒がかかることになる。

―――撃たれっぱなしでいる必要はない。

 たった今発砲した敵艦を睨み、深山は次なる指示を出す時を待った。

「主砲、射撃準備よろし!」

 ベテラン特務大尉が務める射手の報告に、深山は深く頷いた。

『撃ち方よーい!』

 艦上に、主砲の発砲を告げるブザーが鳴り響いた。戦いの始まりを告げる狼煙だ。それが収まった時、深山は迫りくる一六インチ砲弾に負けじと、腹の底から声を張り上げた。

「撃ち方、始めええええっ!!」

「撃っ!」

 射撃指揮所の射手が、引き金を引く。

 “紀伊”が咆哮した。右舷を向いた各砲塔の左砲が、圧倒的な光量を生じて炎を吐き出す。爆轟音が艦上を走り抜け、さざ波の立つ海面をごっそりと抉ってクレーターを作った。反動が艦を左舷方向へと傾ける。まるで濡れ雑巾で引っ叩かれたような衝撃に、深山は心地良く身を委ねていた。

 “紀伊”と“尾張”は、ほぼ同時に発砲した。主砲発射の衝撃でビリビリと震える艦橋で、深山はたった今放った四一サンチ砲弾の行方を見守った。

いかがだったでしょうか?


できるだけ早く投稿できるようにと思っていますが、学生という身分上どこまでいけますか・・・

裏設定を作り過ぎてまして、この小説には出てこない設定なんかもたくさんあります・・・

投稿ペースと相談後、この作品と同じ設定で別作品を投稿するかもしれません


それでは、またお会いしましょう

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