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六十七話目~雷獣の諜報員さん~

 久々の休暇を終え、病院からも退院を果たした俺はまたしてもグリムの力を借りて情報の捜索にあたっていた。今のところは有力な情報は得られておらず、まだ手がかりが何も見つかっていない状況だ。

 思わず大きなため息が漏れる。それは、画面に映るグリムも同じことだった。

『なっつん。そろそろ休んだら? 病み上がりなんだし』

「いや、そうはいかないさ。だって、事は一刻を争うんだからさ」

『でも、他の人だって協力してくれているんだろう?』

 それはそうであるが、やはり自分で調べておきたいのだ。一応、ボスやレジオにも志野さんから聞いたことは通告してある。彼らも尽力してくれているようだが、結果が出ていないのが現状だ。

『なっつん。もしよかったら、助っ人を呼ぼうか?』

「できるなら頼む。お前の知り合いか?」

『まぁね。信頼していいよ。ちょっと性格に難がありだけど』

 グリムは肩を竦めるや否や、画面の外へと消えていく。それからしばらくして再び姿を現した時には、隣に小型の犬のような何かを侍らせていた。

 金色の毛並を持っており、ハリネズミのように毛を逆立てている。パソコンを通してみるこの姿は一種のアバターだろう。しかし、大体の推測はできる。

「雷獣……か?」

『ご名答。彼は僕の友人さ。本来は攻撃的な性格だけど、この子は安全だよ。雷獣の能力を使ってあちこち駆けまわってくれる。どうだい? 諜報員としてはうってつけの能力だろう?』

「……そうだな。悪い。できればたくさんの情報を集めてくれ」

 雷獣は小さく唸り、画面の外へと消えていった。刹那、コンセントから火花が散る。おそらく、雷獣が移動しているのだろう。

 唖然とする俺を見ながら、グリムは続けた。

『僕ができるのはこれくらいさ。ただ、安心して。彼は優秀だし、僕も力を尽くす。なっつんは背負いすぎる癖があるからね。もっと頼ってくれていいんだよ?』

「ずいぶんと小言が多いな」

『それはそうだよ。昨日、リリィちゃんが泣いているのを見たもの』

「……何?」

 画面の中のグリムはおどけたように肩を竦め、キッと眼光を強めてみせる。その時だけ普段のデフォルメされた姿から、本来のいかつい姿へと変貌した。

『意図的じゃないよ。昨日電脳空間を移動している時にね。確か、例のドラゴニュートの子と話していたかな? 話の内容はともかくとして、リリィちゃんは君が死んだと思っていたみたいだよ。どうも、安心して緊張の糸が解けたらしいね』

「……そうか」

『なっつんはさ。変にまじめすぎるんだよ。職務を全うする以前に、君はリリィちゃんの家族同然の存在なんだから。そこも考慮しなよ』

 ……悔しいが、グリムの言う通りだ。俺がピンチの時は、いつもリリィが助けてくれる。本来は俺が助けるべき立場だというのに、彼女はよく俺のことを支えてくれているのだ。

「……ありがとうな。教えてくれて」

『それはリリィちゃんとグリちゃんに言ってあげな。君の家族たちが羨ましいよ。こんなに思ってくれているんだから……ま、ぼちぼち頑張りなよ。僕と彼でしばらく探ってみるからさ』

 それだけ言って、グリムは画面から姿を消す。俺はしばらく虚空を見つめ、大きく息を吐いた。

「……そうか。そうだったのか」

 俺は自分の事しか見えていなかった。そう。リリィやグリのことは頭の隅に押しやっていたのである。それは、何と愚かな行為だろうか?

 俺は頭を振り、ゆっくりと立ち上がる。部屋の外からは、掃除機をかける音が聞こえてくる。俺は、それを操っている少女に会うために、狭い部屋を飛び出した。


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