四十九話目~ドラゴニュートの義妹さん~
「夏樹さん。ピティさんから連絡が来ましたよ!」
春麗の店から帰るなり、リリィがそんなことを言いつつ玄関へと駆け寄ってきた。彼女はニコニコと笑いながらグリを抱きかかえている。よほど嬉しいのだろう。彼女は破顔して今にも飛び上がりそうな勢いだった。
「そうか。それって、例の件か?」
リリィはブンブンと力強い首肯を寄越す。それを受け、俺はすぐさま家へと上がりこんだ。すると彼女は俺を先導するようにリビングへと歩いていく。
「もうスクァイプは起動させていますから、すぐに話ができますよ!」
スクァイプとは世界の人と無料で会話ができるツールである。ピティとは以前に連絡先を知っていたおかげでこうやって通話ができるようになっているのだ。俺は妙な懐かしさに駆られながらリビングへと入り、そこの机に置いてあるパソコンに寄った。すでにそこにはピティの姿が映し出されており、彼女は俺に気づくなり心底嬉しそうに顔をほころばせた。
「夏樹? あぁ、久しぶりね! ちょっと老けた?」
「第一声がそれかよ……久しぶり」
俺が肩を竦めながらそう返すとピティはクスクスと笑った。この笑い方も懐かしい。俺の横にいるリリィもニコニコとしながら画面に映っているピティを見つめている。グリはというと、訳がわからないといった様子で目をぱちくりさせていたが。
ピティはしばらく笑った後でふと、俺の横に視線を移す。彼女が見ているのは、リリィが抱きかかえているグリだ。ピティはこれまで見たことがないくらい間の抜けた顔をした後で、カッと目を見開く。
「……え? その子が、例の子?」
「えぇ。名前は、グリちゃんって言うんですよ」
ピティはうんうんと頷いた後でまたしても優しげな微笑みを浮かべる。
「こんにちは、グリちゃん。ピティお姉ちゃんですよ~……ハッ!」
彼女はそれまで猫撫で声でグリへと語りかけていたが、途中で何かに気が付いたかのようにハッと口をつぐみ俺とリリィを見渡す。俺たちは、そんな彼女に向かって慈愛に満ちた笑みを向けていた。
「うぅ……失策だわ。まさか、こんなところを見られてしまうなんて」
意外に子煩悩だったのか。確かに、留学生のグループでも後輩たちの面倒をよく見ていたが、ここまでとは。リリィは全身の血が全て顔面に集まったのではないかと思うほど顔を真っ赤にしている。
彼女はプルプルと肩を震わせながら火照った体を覚ますように手で体を煽ぐ。
「ま、まぁ、いいわ。それより、例の件よね?」
「そう。ミミック系の人外の話だ。ピティは顔が広いし、知ってるんじゃないかと思ってさ」
ピティはそっと息を吐いた後で、わずかに頷いた。
「一応、いるにはいるわよ。ただ、私みたいな大学生じゃないし、ちょっと気難しい人だけど、大丈夫?」
「全然! いるなら、来てもらいたいくらいさ。あ、もちろん費用は経費で落とすから」
そう言って俺が財布を掲げてみせると、ピティは「あいかわらずだ」とでも言いたげに目を細めた。その後で、背中に生えている羽をパタパタとさせながら俺に語りかけてくる。
「まぁ、いいわ。私からその人に連絡は入れておくから」
「本当に助かるよ。ありがとう」
「いいわよ。だって、私たちはもう家族、でしょ?」
こちらの心を読んだかのように言うピティ。やはり、あの時のつながりは今でもずっと残ったままだ。これは、一生の宝となることだろう。
「ていうか、新しい家族が増えたのね。できれば、私もその子に会ってみたかったわ」
「いつでも来ていいんですよ。次のお休みはいつですか?」
「もうすぐ冬休みがあるけど、その時はちょっと忙しそうだから春休みにでもまた行くわ。それまで待っててくれる?」
「えぇ、いつでも。ねぇ、夏樹さん?」
「もちろんだ。いつでもおいで。ここはもうピティの家みたいなもんなんだからさ」
ピティは本当にほっとしたように胸を撫で下ろし、うんうんと頷いた。彼女は少し間を置いた後で、椅子の背もたれに背を預ける。
「さて、じゃあ、そろそろ時間だから」
「時間? 何の?」
「決まってるでしょ。授業よ。時差を知らないの?」
こちらを皮肉ったような言葉を寄越してくるピティに俺は苦笑を返す。最初はあまりこういったやり取りも互いに遠慮して出来ていなかったが、今ではもう慣れっこだ。これも距離が縮まった証である。
俺は愛しい妹の厳しい言葉に乾いた笑みをこぼした。




