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07 旅立ち

本日二話目です。展開が遅く感じたので前倒しです。





 

 なし崩し的に旅立つことが決まってしまったが、そんなイオリを、ダンジョンコアである【伊の壱号】は、いきなり放り出すようなマネはしなかった。

 

『まず武器が必要ですね。マスター秘蔵の魔道具は、ほとんど勇者に強奪されてしまいましたが、何が残っているか調べてみましょう』

「……お願いします」

 どこか絶望したような顔をするイオリをよそに、【伊の壱号】はてきぱきと倉庫内を検索し、二つの武器を念動で取り寄せた。

『こちらがイオリ様に最適の武器かと思われます』

「おおおおおおっ」

 イオリだって、今はともかく前世はゲーム好きの男の子である。ファンタジー世界の武器を見せられて、単純なイオリは簡単にテンションが上がった。

 細めの弓と、小振りで綺麗なナイフを手に取って、ぴょんぴょん子供のように跳ね回るイオリは微笑ましいが、短い裾がはためいて白い布地がちらちらと姿を見せていた。

 

 ピッ……【●REC】

 

「…ん?」

『いつものシステム音でございます。それより、こちらの武器の説明をさせていただいても宜しいでしょうか?』

「うんっ、お願いっ」

『こちらの弓は、『そよ風の弓』と申しまして、風の魔法により命中補正がある…』

「ほほぉっ」

『必要筋力3の、子供練習用の弓でございます』

「……ほほぉ」

『こちらのナイフは、マスター秘蔵の逸品である『乙女のナイフ』で、美術品としても優れておりますが、持ち主の魔力を記憶させると、意識しただけで呼び寄せることが出来る…』

「おおっ」

『必要筋力1の、乙女が暴漢に襲われた時の、自決用のナイフでございます』

「…お、おお」

 見る間にテンションが下がり、若干上を向いていた長い耳が下に下がる。

 ハイエルフの耳に感情によって上下する機能はないのだが、これはイオリ固有のもののようだ。

 ちなみに機嫌が良い時は耳がピコピコ揺れていたが、イオリ本人はそんな事には気づいていない。

 練習用と自決用だが、イオリの筋力を考えればそのくらいしか物が無く、イオリが外に出て自分で調達するとしても、果物ナイフか木の棒程度しか用意出来ないだろう。

 これでも魔法の武器…魔道具なのだ。価値はかなりの物になるし、頑張って選んでくれた【伊の壱号】の心遣いを感じて、弓とナイフを抱きしめる。

「あ、ありがと…」

 

 ピッ… と、上目遣いに小さく微笑んで礼を言うイオリの姿に、またシステム音が聞こえた。

『こちらこそ、ありがとうございます』

「え、…あ、うん」

 良く分からないが、イオリにはそれが【伊の壱号】の照れ隠しのようなものだろうと考えた。そしてもちろん、ダンジョンコアにそんな機能はない。

 

『矢は鉄の矢が18本ありました。練習用の矢は除外してあります』

「うん、それはそうだね」

『イオリ様には【物品創造スキル】がございますので、矢が尽きましたらそちらで用意するのもいいでしょう。強い矢には相応の対価が必要ですが』

「それが良く分からないんだよね。どうしてスキルで生み出すのに対価が居るの?」

『イオリ様は、等価交換という言葉をご存じですか?』

「えっと、なんか錬金術…だっけ?」

 地球で読んだ本の知識で適当に答える。

『はい、世界に物質化させるには、それに見合う対価が必要になります。ですが実際には15分で消えてしまうので、まったく等価ではありませんね』

「そだね…」

『鉄の矢程度でしたら、MP5~10程度で1本創れると思います。そう言う使い方が一般的ですが、特定の品…主に金銭を対価にする場合は、注意が必要です』

「どうして?」

『魔力以外を対価にした場合は、創造出来る『物品』が一種に限定されます。例えば金銭を対価として剣を作った場合、その後、【物品創造スキル】を使用する時は同じ剣しか作れず、対価も金銭しか受け付けなくなるのです。もしも金貨百枚相当を対価とする『魔剣』を設定した場合、毎回15分間使用する為に金貨百枚か、相応の宝石などが必要になります』

「うわぁ……それじゃ、安い物を設定したほうがいいの?」

『それなら設定をせずに、魔力で生み出すほうが良いでしょう。対価が少ないのなら消費MPも少なくなります。軍人や弓兵の場合は数が必要になりますので、金銭を対価に設定するそうです。自分に何が必要か、自分が幾らまで対価を払えるのか、その見極めが肝心です』

「そっかぁ……設定しないで自由に使えるほうがいいかなぁ」

『場合に寄ります。【物品創造スキル】持ちの方は、設定をせずに魔力のみで生成している方もいらっしゃいますが、『物品』を創造する時に、その形状を良く知っている必要があり、咄嗟に生成した場合は“なまくら”になることもあるそうです。逆に設定した場合は、詳しいイメージが必要なのは最初だけで、二回目からは対価を払うだけで、自動的に生成されます』

「どっちもメリットはあるんだね……」

 

 イメージ次第で何でも創れるが、保有MP以上の物は創れない、魔力生成式か。

 創る物は限定されるが、対価次第で強大なアイテムを創れる、固定対価式か。

 何かを創れると知って、イオリが最初に思い浮かべたのは現代の『拳銃』であった。

 FPSコンバットゲームが好きで、中二心溢れる兵器オタク気味だったイオリには、内部構造の知識がある。

 だがその知識も、所詮は雑誌やネットの情報で、どこまで正確か怪しく、もし暴発でもしたら確実に死ぬ。そして【自動復活(オートリバース)】で蘇れたとしても、それ以降は暴発する拳銃しか創れない『死にスキル』化する可能性があった。

 それにイオリの今の筋力では、銃の反動に耐えられるのか分からない。

 そもそもイオリのFPSシューティングは下手で、命中補正の付いた弓が本気で有り難かったくらいだから、折角の拳銃も宝の持ち腐れになるかも知れない。

 それでも塩の元素構造を知らなくても塩を創れる程度の融通は利く。

 イオリの乏しい知識の中で何が創れるかが大切なのだ。

 

「強敵が出てくるまで保留でいいか……」

『それが宜しいかと思います。……イオリ様、一つ提案がございます』

「どうしたの?」

『マスターをお探しになる際、名前や姿を変えられている可能性があります』

「え…? それじゃ捜しようがないじゃんっ」

『ですので、『私』が同行するのが最適かと考えます。私ならばマスターを判別することは可能でしょう』

「…えっと、そもそも【伊の壱号】さんは、ここから動けるの?」

『本体は動けませんが、一部意識のみをアイテムに移すことは可能です。ただし念動や上位鑑定を使う事は出来なくなります。定期的にバックアップ通信をする必要がありますが、イオリ様の魔力を少々いただければ、地理などの位置情報や、美味しい定食屋の情報も提供出来るようになります』

「携帯電話のアプリか……」

 

 電池の代わりにイオリの魔力を消費する、検索ツール。しかし本体よりも通信速度はかなり下がる。

 どうしてそこまでしてイオリに協力してくれるのか分からないが、イオリも一人で外の世界に出るのは怖かったので、喜んで同意した。

 

『では、こちらを身に付けて下さい』

「うんっ」

 渡されたのは直径5ミリほどの水晶球で、それを耳たぶにピアスのようにくっつけるだけで良かった。針で刺していないが落ちる気配もない。

『……聞こえますか?』

「わっ、念話じゃないんだね。ちゃんと聞こえるよ」

『耳元で振動させて、頭部に直接音を響かせております。念話も使えなくなりましたので、ご用の際はお声に出してください』

「うん、わかったよ、【伊の壱号】さん……って、ちょっと呼びにくいね」

『でしたら、キャロラインハナコで』

「なんでっ!? もっと呼びにくいよっ」

『……でしたらハナコで』

「だからなんでハナコさん……」

『マスターにそう呼ばれる時がありました。それと私に“さん”は必要ありません』

「う~ん……ハナちゃんでもいい?」

『問題ありません。イオリ様の音声による起動コードを『ハナちゃん』と設定します』

「起動コード? 電源切れるの?」

『私が起きている間はイオリ様のMPを消費しています。1分に1消費ですので、使用しない時は待機モードにするほうが良いでしょう』

「……本当に携帯電話みたいだ」

 

 このダンジョン内なら問題はないが、外に出ればイオリのMPは120なので二時間程しか使えない。

 最後に【伊の壱号】改め、ハナコが用意していた携帯食……塩おにぎりとタクアンを着替えと一緒に鞄に詰め込み、やっと旅に出る準備が整った。

 

『ではイオリ様、頑張ってダンジョンを突破しましょう』

「……へ? ちょ、ちょっと待ってっ、外までぴょ~んと転移させてくれるんじゃないのっ!?」

『空間及び、亜空間魔法は勇者の秘術です。一般人には使えません』

「ええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」

 

 どうやらイオリの旅はまだ始められないようだった。

 

   *

 

 どうやらこのダンジョンには勝手口のようなものは無いらしい。

 しかもダンジョン内にいる魔物もマスターが召喚したものではなく、すべて勝手に住み着いた野良モンスターだった。

「シードさんは、どうやって出入りしてたのっ?」

『普通に通路を歩いて、魔物に遭遇した場合は鉈で斬り殺していたようです』

「……鉈でモンスターを倒すお年寄りか……、ハナちゃんはコアとして何を管理していたの?」

『主に換気と簡単な清掃。照明が切れた場合は交換しております』

「マンションの管理人さんっ!」

 ファンタジーの常識を覆す現実的なお仕事に、イオリも思わずツッコミを入れた。

『それと忘れておりましたが、そちらの棚の物をお取り下さい』

「なんかあるの?」

 この状況を何とか出来る物があるのかと、イオリは棚を見てみると。

『小銭ですが、私のへそくりがございます。持っていきましょう』

「……へそくりしてたんだ」

『このダンジョンにも希にですが、直接マスターの魔道具を買いに来るお客様がいらっしゃいます。そのおつりが少額の場合は受け取らない方もいまして、その場合は私のお小遣いとして認められていました』

「良いマスターさんだね……。そうだっ、その人はどうやってここまで来るの!?」

『普通にダンジョンを突破していらっしゃいます』

「……ですよね」

 棚には銅貨や銀貨のようなものが何枚かあったので、街に行ったら使うだろうとイオリは有り難く借りておく。

「矢に対価を使う場合って、どのくらい掛かるの?」

『程度の良い鉄の矢でしたら、小銀貨一枚かと思われます。マスターが『ニッポン』の価値に換算した表がありますが、開示しますか?』

「あ、うんっ、お願い」

 

 それは大事なことだと、イオリはちゃんと聞くことにした。

 金貨は、日本円で10万円。

 銀貨は、日本円で1万円。

 小銀貨が、日本円で1000円。

 銅貨が、日本円で100円。

 小銅貨が、日本円で10円。

 正確には微妙に違うが、大体このくらいの価値と思っておけば問題ない。

 貨幣としての単位はなく、15万円の品なら『金貨1枚と銀貨5枚』と言う価格表示がされる。ハナコのへそくりは、銀貨2枚、小銀貨17枚、銅貨5枚で、日本円にして37500円になる。

 多くも少なくもなく、一般的な朝夕食事付きの宿に一週間泊まれる額だった。

 その場合はお昼は3食でお金が尽きる。

 

『それではイオリ様、頑張っていきましょう』

「……お~~」

 きっぱりとしたハナコの声に、イオリのやる気のない声が続く。

 ギギィ~とマスタールームの扉が開き、イオリはようやく、今度こそダンジョンに足を踏み入れた。

 




次回、初めてのダンジョンに突入します。

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