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62 最終回 どこまでも続く○坂、的な。

 最終回です。

 



 無事(?)にハッコー総教会の秘宝を手に入れた一行は、指名手配犯の逃亡者の如くこそこそとハッコーから脱出した。

 実を言えば、誰かに見られた訳でもなく、証拠となる【秘宝】そのものも形状を変えてイオリの耳に装着されているのだから普通に出国したほうが目立たないのだが、なんとなく心に疚しいモノがあったので、夜中に森を突っ切って国を出たのだ。

 

「……スバル。しくじるんじゃないよ」

「うん、ばーちゃん」

 

 さて、安全圏である隣国まで逃げ延びた一行であったが、ここようやくイオリのスキルを解除することが出来るようになった。

「本当にスキルを解除なんて出来るんですか?」

「ですよねぇ」

 生まれた時から【スキル】があることが当たり前であったディートリヒやリリーナが疑わしげな顔をする。

 二人のような【戦闘スキル】の恩恵を強く受けた者にとっては、スキルを解除するなど考えもしなかったことなのだ。

 それを見て地球人であるタネは軽く溜息を吐く。

「あんたらにとっちゃ、【スキル】は有って当たり前かも知れないけど、私や孫達は、元々スキルに頼った生活をしてこなかったからね。有れば使う。無ければ気にしない。邪魔になったら捨てる。が、当たり前なんだよ」

「そうなんですか……」

 

 現在、彼らは小さな宿場街の宿屋にいた。

 今居る面子は、イオリ、スバル、タネ、ディートリヒ、リリーナ、ナギトの六人だったが、タネの言葉にスバルや顔の腫れたナギトも少し考えてから頷いていた。

 エルマは元々【スキル】をあまり持っていなかったので気にしていないし、イオリは途中で首を傾げていたが、ハナコと新たにお目付役になった秘宝こと“セツコ”に教えてもらったのか、慌ててうんうん頷いていた。

 ちなみにナギトの頬が腫れているのは、イオリやエルマが裸同然で帰ってきたので、リリーナにお仕置きされたからだ。

 

「それでどうするの?」

 イオリが少し弾んだような声でタネとスバルにキラキラした瞳を向ける。

 タネから、スキル解除には【身体強化】が必要だと教えられていたが、詳しいことは何も説明されていなかった。

 そこが少し焦れったいけれど、それでもイオリは、ようやく念願の“男の子”に戻れるのではないかと、ウキウキしていたのだ。

 祖母のタネさえも、今の女の子になったイオリのほうが自然に感じて、そのほうが幸せだろうだと思うほどなのに、普通にお風呂で、女の子達と裸のお付き合いをしているイオリが、今更男の子に戻ってもやっていけるのか不安しかない。

 

「スバル、イオリに教えてやりな」

「わかった。今回、イオリに【身体強化】を受けて貰うのは、一つの“衝撃”に耐えて貰うためなんだ」

「ふむふむ」

 

 スバルが全員の前で説明を始める。

 本当ならタネとスバルとイオリだけでこっそりと行いたかったが、ここまで巻き込んでしまった以上、説明しないと不義理になる。

 まずは、前提としてスバルの種族が【竜人】であることが大事なのだと言う。

 スバルのスキルである【竜の騎士】も【竜人】特有のスキルだ。

 これは遙か昔、一人の竜人の戦士が邪竜と戦い、ギリギリで勝利するも傷つき、温泉で療養しようとしたらどこかのお姫様の入浴を覗いてしまい、何故か恋に落ちた二人は駆け落ちして不幸になってしまったという、どこかで聴いたような物語が元になって生まれたスキルだった。

 そのせいで【竜の騎士スキル】を持つ者は、その副作用で愛した異性の寿命が50年ほど減ってしまう。これには理由があり、竜のオーラを宿した子供を作ることで母胎の生命力が削られてしまうためだ。

 要するに相手が人間族だった場合は、ほぼ若い時のまま死んでしまう、呪いのようなスキルだったのだ。

 だが、長い竜人族の歴史の中で、その解決法も存在していた。

 

 竜には、その血を飲むと強靱な肉体を得られると言う“伝説”が存在する。

 実際には、竜の血は大量の魔素を帯びているので、人間が飲むと大抵は下痢をするだけで強くなることはないのだが、これは元々【竜人】の“体液”を得ることで強靱になるという話が歪められて伝わった話なのだ。

 それは、ある特定の条件下で“ある行為”をした時に、【竜の騎士スキル】の特性である竜のオーラで相手を包み込み、竜人の“体液”を注ぎ込めば、竜人の生命力の一割ほどを相手に譲渡出来るのだ。

 それによって相手は竜の生命力を手に入れて、結果的に寿命も延びることになる。

 

「へぇ……それで、スバルちゃんもそれが出来るの?」

「もちろん。それで生命力が増えてスキルの条件が外れても、スキルが解除されるかどうかは保証出来ないけどね」

「う、うん、まぁ……そうだよね。でも可能性がない訳でもないし、体力が増えたらみんなに迷惑を掛けることもなくなると思うよっ!」

「「「………」」」

 前向きなイオリの台詞だったが、迷惑という単語を聞いて数人の脳裏に、どうせ迷惑は止まらないだろうなぁ……と言う思いが顔に浮かんでいた。

 

「それでイオリ。その条件なんだけどさ」

「うん」

「まずは相手が、竜のオーラを受け入れられるほど、その竜人を信用していること」

「うん、大丈夫だね」

「そして、相手が経験のない“乙女”であること」

「……うん?」

「そして“初体験”の時に相手の竜人から、体内に体液を出して貰うことかな」

「………………」

 イオリは一瞬意味が分からなかったのか、眉を八の字にして首を傾げ、そしてスバルの言葉の意味を正しく理解した他の面子――特にイオリに対して疚しい好意を持っていた面子は、顔色を悪くして硬直した。

「………え?」

 ようやく理解したのか、それとも耳元で人工知能達に教えられたのか、イオリの表情が固まった。

「…ちょ、ちょちょちょっと待って、スバルちゃんっ、何をする気なの!?」

「何をって、ナニをするんじゃないかな」

「はぁ!? ボクにそんなこと出来る訳が、」

「大丈夫大丈夫、優しくするから」

 スバルの満面の笑顔が清々しい。

「そ、そうじゃなくて、えっと、だってボクは、このスキルのせいでHPが…」

「その為の【身体強化】で、その為にセツコちゃんを持って帰ってきたんでしょ?」

『はい、大丈夫デース。任せてくだサーイ』

『イオリ様、私も全力でサポートさせていただきます』

「ええええええええええっ?」

 

 やっと事態と貞操の危機を理解したイオリが、じりじりとすり足で後退する。

 そもそも不便だが便利な【自動復活(オートリバース)】を解除したいのは、普通の男の子に戻るためなのだから、その前に“女の子”として初めてを迎えるとか、正直意味が分からない。

 

「おい、どういうことだ、スバルっ! 聞いてないぞっ」

「そうですよ、清らかなイオリちゃんの貞操は私のモノですっ!」

「「えっ!?」」

「い、イオリさんが、そんな……」

 どれが誰の台詞か割愛させていただくが、衝撃から我に返った仲間達がそれを阻止しようと騒ぎ始めた。

「ちぃっ! やっぱりこうなったかっ」

 

「…………」

 その隙にイオリはこっそりと後ろに下がり、流れるように反転すると宿の窓に向けてダッシュする。

 戦闘面ではアレだが、逃げ足と灯り持ちと誘拐される事に掛けては定評のあるイオリなので、逃げることには慣れていたのだ。

「イオリ、そのまま逃げるよっ!」

「え…?」

 そしてあっさりとスバルに捕獲されるイオリ。慣れているのと得意なのとはまったく別だった。

「あ、逃げたっ!」

「イオリちゃんが連れ去られたわっ!」

「追え追えっ!」

 宿屋の窓からイオリを肩に担いで脱出するスバルを、ナギト、リリーナ、ディートリヒの三人が追いかける為に窓から飛び出していった。

 

「………タネさん、お茶でも煎れますか?」

「そうだね。私もとっておきの羊羹でも出そうかね」

 

 そして逃走劇サイドでは、竜人としての身体能力を無駄に発揮したスバルが、宿場街の屋根から屋根へと飛び移り、追っ手を撒こうとしていた。

「うぷっ、」

「イオリ、肩の上で吐かないでっ」

 すでに一度、爪先を角にぶつけて【自動復活(オートリバース)】が発動していたのだが、ちゃんと空気を読める【自動記録(オートセーブ)】先生がイオリには憑いているので、問題なくスバルの肩で復活を果たした。

 

「待てぇ、スバルっ!」

 追ってくるのは上級の冒険者や戦士達。とても王族とは思えない手慣れた動作で屋根の上を追いかけていたディートリヒは、懐から一枚の紙を取り出した。

「黄金の聖女が創りだしたと言われる新式魔術魔法陣を受けてみよっ!」

 どことなく説明口調のディートリヒの魔法陣が、捕獲用の低電圧雷撃を逃げる二人に向けて撃ち放つ。

「£фッ!」

 それを自重しないスバルの【竜声】――ドラゴンブレスの雷撃がディートリヒの雷撃を吹き飛ばし、宿場街の空に盛大に火花を散らした。

「うわぁあああああああああああああああああああっ!?」

 その余波がディートリヒも吹き飛ばし、落ちてきた彼に下の住民達から悲鳴が聞こえたが、あの程度なら問題はないだろう。

 

「スバル、大人しくイオリちゃんを渡しなさいっ」

「しつこいっ」

 屋根から降りて裏路地を走っていたスバルの前にリリーナが現れた。

「イオリちゃん、今助けてあげますからっ!」

 スバルの肩に担がれているイオリの顔が真っ青になっているのを見て、リリーナが鼻息も荒く剣を抜く。

 ちなみにイオリの顔色が悪いのは、単なる乗り物酔いだ。

「さぁ、行くわよスバルっ! 精霊達よ、スバルを拘束してっ」

 リリーナの呼びかけに、地面がうねうねとスバルを捕まえようとして動き出す。

「………イオリ」

「え、なに? ……うひゃぁあああああああああああああっ!?」

 スバルがイオリの短パンをパンツごと引きずり下ろすと、そのすぐ真下に、スバルを捕まえようとしていた土精霊達が集まり、ジッと観察を始めた。

「ぶはっ!」

 同時にそれを直視したリリーナもマンガのように鼻血を吹き出して、戦線を離脱せざるを得なくなった。

 

「なんだかなぁ……」

「………ッ」

 イオリを担いで走るスバルの肩で、そのイオリが真っ赤な顔で、涙目で頬を膨らましながらスバルの後頭部をポカポカ叩いていた。

 

「す、スバルの兄貴っ。イオリさんを解放して下さいっ」

 三人目の刺客、風の勇者ナギトが現れた。

「お前もか……」

 前の二人ほど積極的ではないが、ナギトは厄介さなら一国の軍隊にも匹敵する勇者様である。森に逃げ込んだが、まともに戦闘して次も勝てる保証はない。

「イオリ、バズーカ用意」

「……え? え、ええええ!?」

『ご安心下さい、イオリ様。何の問題もありませんので撃ってみましょう』

「う、うん?」

 ハナコの落ち着いた声で説得されると、イオリも何となく良いような気がしてくる。

「………え」

 そんな適当なイオリが肩に担いだ【水素爆弾ランチャー】の砲口が自分に向いているのを見て、その威力を嫌と言う程知っているナギトの顔色が白くなった。

撃てぇ(ファイア)っ』

「えいっ」

 ハナコの計算では、相手が勇者なら何の問題もなかった。

 ただ一つ誤算があったとすれば、何度か使用したことで【水素爆弾ランチャー】のレベルが上がっており、引き金を引きっぱなしだとフルオートで連射(・・)されることだった。

 

「「『………」」』

『オォ、派手ですネー』

 森の一画が綺麗に消滅した光景を前に、思わず呆然と立ち尽くす。

 人類の希望であり剣である【勇者】様だ。きっとこの酷い爆発の中でも生きていてくれると信じている。

 負けるな、ナギトっ!

 

「それじゃ、行こうか」

『そうしましょう』

『イエェス』

「……………」

 

 そして追っ手を排除した二人プラス二体は、丁度都合良く森の中にあった無人の家を見つけたので、そこで“ご休憩”することになった。

 

「それじゃイオリ……覚悟はいい?」

「言い訳無いよっ!?」

 ミカンの皮を剥くように簡単に素っ裸にされたイオリが、同じく服を脱ぎ始めたスバルに、顔を真っ赤にしながらも文句を言う。

 女の子の裸を見ても気にしなくなったのに、元は女性とは言え男であるスバルの裸を見て顔を赤くするのは、何か色々終わっているような気がしないでもない。

「イオリ……」

「な、なに…?」

 突然真面目な顔で真面目な声を出すスバルに、これまで従兄弟同士の付き合いでそんな顔を見たことがなったイオリも思わず緊張した声を返した。

「私はね、イオリが好きだよ。だから死んで欲しくない。ちゃんと丈夫になって幸せになって欲しいんだ」

「スバルちゃん……」

 イオリが潤んだ瞳で、まるで乙女のような顔でスバルを見つめ返した。ちょろい。

「…と言う訳で、イオリには頑張って丈夫な赤ちゃんを産んで貰いたい」

「……………は?」

『私がイオリ様の魔力を引き出します。セツコ、準備は良いですね』

『ハイ、先輩ッ、お任せくだサーイ』

「えええええええええええええええええええええええええええええっ」

 

   ***

 

 あれから数ヶ月が経った。

 あの作戦に参加したメンバーや関係者達も、色々と関係や生活が変わってきている。

 まずは、ディートリヒとリリーナの二人が、正式にゴールドクラスのオリアのメインパーティにメンバーとして参加することが決まった。

 それと同時にディートリヒは王位継承権をほぼ放棄して、人間ではなくエルフであるリリーナを妻として娶ったのだ。

「ハイエルフの子供が生まれないかなぁ……」

「だったらいいなぁ」

 そんなご都合主義はあり得ないだろうが、それはそれとして、幸せそうだから問題はなさそうだ。

 

 次にサブパーティとして正式にナギトが加入することになった。一時は生存が危ぶまれたが、その日の夜にはボロボロではあったがケロッとした顔で帰ってきたのだ。

 本人は【勇者】だとバレるとハッコーに連れ戻される恐れがあったのだが、魔法によって髪の色を赤く染めて、冒険がない時はエルマの実家である“鮮血の憩い亭”で調理師見習いとして頑張っている。

「いやはや、あの子は真面目だねぇ。お父さんとしてはエルマの婿になって、宿屋を継いでくれると嬉しいんだが」

「お父さん、遊んでないでさっさと働いて」

「……はい」

「エルマ先輩……」

「……ナギトも頑張ってね」

「は、はいっ!」

 エルマはいつもの通りだ。

 ナギトも勇者とか呼ばれて命がけで戦うより、こちらの生活のほうが性に合っていたようで、現在色々な料理を開発したり宿屋生活を楽しんでいる。

 このまま上手く行けば、父親の希望通り事が進むかも知れない未来もある。

 ちなみにエルマの兄である長男も居るのだが、嫁も見つけられずにフラフラしているので、家族にはいまいち忘れられがちであった。

 

 タネは自分の家であるダンジョンに戻っている。

 これまでサブのダンジョンコアであった【ウメコ】を正式なダンジョンコアとして鍛えながら、今日も魔道具の製作に精を出している。

「私もどうせ、あと50年も生きられないし、色々残さないとねぇ」

『人間なのですから、充分ですよマスター……』

 

 そして……エルマやナギトが忙しい時は、よく冒険に出掛ける二人の男女の姿が見られるようになった。

 それは、ハイエルフの小柄な美少女であるイオリと、体格の良い竜人の美丈夫であるスバルのコンビである。

 あれからどうなったのか誰も知らない。

 スキルは無事解除出来たのか? イオリの体力は普通の生活が出来るまで増やすことが出来たのか?

 二人は恥ずかしがって何も語らないが、イオリは女の子のままで、街の人達は二人が手を繋いで歩いていることを良く見かけるようになった。

 

「イオリっ、今度は北のゲンブルに行ってみない? ダンジョンもあるけど、遺跡も結構あるらしいよ」

「うん、スバルちゃん。でも……エルマさん達、忙しいから大丈夫かなぁ?」

「大丈夫じゃない? イオリの爆弾でやっちゃえば早く済むし」

『耐荷重計算はお任せ下さい』

『ワタシも頑張りマース』

「ええぇ~~~……」

 

 今日もまたこの【異世界テス】のどこかで、誰かに迷惑を掛ける爆発音が木霊する。



 

最後までお読みいただいて、ありがとうございました。


かなり行き当たりばったりで始めましたが、何とか終わって良かったです。

……なんでこんな物語になったんだろ。


終わり方は、『どこまでも続く○坂』エンドです。

結局、やっちゃったかどうかは、内緒です。脳内補間をお願いします。


それではまた新作でお会いしましょう。

アイデアばっかり沢山あって、PCフォルダに第一話しかない物語がいっぱいあります(汗)


ありがとうございました。

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