59 残酷な死の罠
少々短めです。
ブン…… 【Record reading.】
「……うえっぷ」
「「いきなり!?」」
イオリが唐突に気分が悪くなのはいつものことだが、入って早々蹲るイオリにハナコが冷静な声を掛ける。
『もしかして、“発動”しましたか?』
「…………」
口を押さえて蹲ったままのイオリが震える指先で通路を指さし、ハナコの言葉にイオリの能力が【簡易予知】だと知っているエルマはわずかに顔色を変え、聞いていても深刻に考えていなかったナギトが、その指し示すほうへ足を踏み出した。
壁から水が発射。
「おわっ!?」
飛び退いたところにバナナの皮。
「ひえっ」
滑って前に出たところで、落ちてきたタライが“カンッ”とナギトの脳天に落ちた。
「ぐふっ!」
「………昔の勇者の……悪戯…」
『「「…………」」』
ぼそりと漏らしたイオリの言葉に、その他のメンバーが思わず無言になる。
そしてハナコから、この隠し通路に施された大規模で高度な魔術が、全て悪戯の為に設置されているとの考察を聞かされ、イオリの背中をさすっていたエルマが盛大に溜息を吐いた。
「とりあえず、危険な罠はなさそうだけど……」
「大丈夫ですっ、イオリさんは俺が護りますからっ」
「……そ、そうだね」
どこか楽観的な二人に対してイオリは内心冷や汗を掻く。
どれもこれもほんの小さな悪戯で子猫でも平気そうだが、ところがどっこい、そのほとんどがイオリにとっては、残酷な死の罠であった。
『では進みましょう』
「……え」
でもハナコは特に迷いもせずにすぐに出発の号令を出した。
ハナコでもその罠がイオリにとって致命傷なのは気がついている。それでも時間は待ってくれず、パーティリーダーとしてダンジョンコアとして心を鬼にして“合理的”な手段を取ろうとしただけだ。
ピッ、【●REC】
不可抗力として水に濡れてスケスケになったり、下着に水が染みこんで恥ずかしがるイオリの“学術的資料映像”が増えてしまうのも仕方のないことなのだ。
開けっぴろげではなく、そう言う“マニア向け”とも言える映像資料が最近のハナコのトレンドであった。
『ご安心を。今度は誰にも売却はいたしません』
「何の話っ!?」
総時間5744時間32分15秒の映像資料の話である。
パーティ隊列は、先頭にレンジャーのエルマ。
その後ろに何かあったら入れ替わる勇者のナギト。
最後尾は灯り持ちには定評のあるイオリであったが、通路が明るいので何もすることはない。
「大丈夫だよ、ボクには新兵器があるんだからっ」
「わぁあああああああああっ!」
意気揚々と前回の冒険で手に入れた【水素爆弾ランチャー】を構えたイオリに、そのデタラメな威力を知るナギトが慌てて止めていた。
「い、イオリさんの手を煩わすなんてありませんから」
「え~……」
ちなみに【水素爆弾ランチャー】の対価であるハッコーの宝剣分が消費されるまで、元の【爆弾販売機】には戻らない。
あとたった、4000発程度だ。
ブン……
そして無情にも発動する【自動記録】先生の合図で、この通路の攻略が開始された。
「くひっ」
イオリの足下にドンブリほどの穴が開き、足首を挫く。(死亡)
「ひゃあああっ!?」
イオリの頬にコンニャクが触れ、驚いてナギトの背中に顔面から突っ込む。(死亡)
「うひぃ」
突然床が消えて全員がバター(無塩)に足首まで埋まる。(死亡回避)(撮影済み)
「…………」
バター(無塩)のせいで、かんしゃく玉が不発。(死亡回避)
「げほげほっ」
自分の持ってきたドリンクに何故かデスソース混入。(被害者ナギト)
「ひぎぃ!」
低周波電撃によりエルマの肩こりが取れる。(イオリは即死)
「てっ」
真正面から飛んできたゴム鞠をエルマとナギトが避けたらイオリにヒット。(死亡)
ブン…… 【Record reading.】
「……うぷ、うえっぷ」
「……なかなか難しい罠ね」
『そうですね』
ちなみに先頭にいながらほとんど罠を回避してきたエルマは、同時にほとんど罠を発見出来なかった。
何しろ、罠の仕掛けもなく突然現れるのだから始末に負えない。
それでも気合いで回避するエルマは大した物だが、その後ろのナギトで回避率は三割ほどで、イオリに至ってはほぼ全部もれなく引っ掛かっていた。
これはある意味素晴らしい才能かも知れない。
「それで最後がこれか」
「えーっと……」
『はい』
「うぷ……」
まだ嘔吐いているイオリは放っておいて、ハナコ達は最後の罠を見つめる。
そこには通路幅一杯の床に、某Gホイホイの如く10メートルものトリモチが設置してあったのだ。
「バター(無塩)は使えないかな?」
『足のバター(無塩)はここまでの間にほとんど取れています。おそらくは2~3メートルで終わりでしょう』
「………仕方ないか」
エルマはボソッと呟き、おもむろに着ていた黒衣に手を掛ける。
「「……へ?」」
唖然とするイオリとナギトの前で黒い上着を脱いだエルマは、それを広げるようにして少し先のトリモチに投げ込んだ。
「こうやっていけば渡れるかな」
「ま、まままま、待って下さいっ、エルマさん!」
下着のようなタンクトップ姿になったエルマを、ナギトが真っ赤な顔で止めにきた。
「俺が何とかしますからっ!」
「ナギトくんどうするの?」
どうするつもりかと不安な顔をするイオリに、ナギトは得意そうな顔を見せて後ろに下がる。
「まぁ、見ていて下さいっ」
助走と、勇者としてのステータス。そして風の魔術に後押しをして貰い、ナギトは一気に通路を飛び越えようとした。
ガチャン、ガンッ。
「へぶっ」
そして天井の一部がバネ式で下に落ちて、ナギトをトリモチの上に叩き落とした。
『「「………」」』
イオリが唖然として硬直し、エルマの額に浮かんだ青筋がピクピクと痙攣する。
「イオリ……分かるわよね?」
「………はい」
溜息を吐きつつ、二人は大人しく服を脱ぎ始めるのであった。
次回、トリモチ攻略




