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57 どう考えても不安です

 



 さて――簡単に決まったように見える、大国ハッコーの総教会へのスニークミッションであるが、間違いなく犯罪である。

 最初は“勇者様”であるナギトの口利きで何とかなるかと思っていたが、さすがに総教会の秘宝の一つを一般人に使わせるのは無理があった。

 

 そもそも現在のナギトは、勇者業務を“サボリ中”である。

 本来であったら出来る限り速やかに本国に戻り、現在起きている闇の勢力との紛争の為に、今頃は軍を率いて戦場で戦っていなければいけなかったのだ。

 噂に聞く限り、すでに他の三人の勇者は参戦しており、現場では風の勇者はどうして来ないのかと、ハッコーの将兵達が肩身の狭い思いをしているらしい。

 これからナギトがのこのこ出て行っても、今更何をしに来たのかと、白い目で見られかねない状況なのだ。

 そんな時に、ナギトが女の子連れでハッコー国内なんかに現れたら、大説教コースは間違いない。

 

 それにすっかり心が折れてただの少年に戻ってしまったナギトが、大量の人死にが出る戦場に出て何か出来るとも思えない。

 出来ればこのまま勇者業をバックれて、どこかの国でひっそりと冒険者にでもなってのんびり暮らしたいと、もし一般兵士やその日暮らしの冒険者が聞いたら石でも投げられそうなことをナギトは考えていた。

 こう聞くとダメ人間のように聞こえるが、これがアホの子イオリに浄化()された男の末路でもある。

 

 タネやスバル達は、意外とこのナギトの考えに好意的であった。

 そもそも平和な国に暮らしていた中学生を勝手に召喚と言う名の“誘拐”をして、無理矢理戦わせてきたのはこの世界だ。

 多少中二病を発症させてノリノリで戦っていた面もあるが、タネにしてもスバルにしてもイオリにしても、自分や仲間の為ならともかく、この世界の平和の為に命を懸けて戦う理由など存在しない。

 それでもまあ、考え的に好意的ではあっても、ナギト本人の好感度までは上がっていないので、この面子の中では相変わらずヒエラルキーは下位であった。

 でも何故最下位ではないのかというと、唐突にイオリがアホな事をしでかして、一躍最下位を独走する場合があるからだ。

 だけども、これだけ色々やらかしておきながら誰にも嫌われていないのは、イオリの人徳なのではないだろうか?

 是非ともそうであって欲しいと願うところだ。

 

「そんな訳でハッコーの総教会に忍び込むことになったよ」

 

 だいぶ端折っているが、タネの説明を受けてパーティリーダーであるオリアが頭を抱えた。

「それ、俺達からすると立場的に拙いんですが……」

 小国とは言え、そこのギルドに所属するゴールドランクの冒険者である。

 他国でもそれなりに顔を知っている者も居るだろうし、もし発覚すれば国家とは別枠の冒険者とは言え、除名処分になってもおかしくない。

 そこら辺を誤魔化すこともオリア達なら出来るが、名の知れているオリアは他国での仕事がやりづらくなり、今メインで受けている貴族からの依頼も減るだろう。

 

「何もあんた達に直接動いて貰うことはないさ。今まで通りに裏からバックアップしてくれりゃいいよ」

「……では、実行は誰が?」

 少し落ち着いて、オリアは用意されていたお茶で喉を潤す。

 

 常識すれすれの仕事だが、そもそも冒険者としては、ある貴族の利益の為に他の貴族の害を為す犯罪すれすれのことも珍しくはない。

 例を挙げてみると、キリシアール第一王子の依頼を受けて、第二王子が犯罪に関わっていたことを暴いた件もそれにあたる。あの時証拠が出てこなければ、第二王子の別邸に忍び込むことも視野に入れていた。

 それでも受けた理由の大半は、王族との繋がりを求めてのことだ。

 今回の依頼はそれとはまた別で半分以上仲間の為に動くことになる。だが、残り半分は報酬が良い為だ。

 前回、報酬として金貨30枚(約300万円)だったが、今回はさらに金貨を70枚くれるらしい。

 これは極秘情報だが、どうやらダンジョンマスター協会が“勇者”を罠に掛けることに乗り気で、ポンと大金を送ってくれたそうだ。

「………」

 それを考えてオリアの顔色が若干悪くなる。

 人間社会とは一線を画したダンジョンマスター協会員はタネのような人間もいるが、上位のダンジョンマスターのほとんどは強大な魔物だ。

 老齢なマンティコアやエンシェントドラゴン、エルダーリッチのような勇者クラスでもなければ太刀打ち出来ない存在も居ると聞く。

 この一件の裏に、どれほど高位の“化け物”が関わっているのかと考えると、オリアの胃がわずかに痛んだ。

 まだ三十のオリアの髪がストレスから衰退しないことを祈るばかりだ。

 

「まずはうちの孫娘(・・)だね。それとエルマにも行ってもらうよ」

「う、うん」

「了解」

「まぁ、そうですね……」

 緊張気味のイオリとエルマがそれに返し、オリアも納得して頷く。

 そもそも秘宝を使う当人が居なければ話にならないし、その自他共に認める保護者であるエルマが行くことは納得出来た。

「それと、こっちの勇者(・・)の坊やだね」

「ぶはっ」

 部屋の隅で床に正座していた少年が勇者と聞かされて、聞いていなかったオリアはお茶を吹き出した。

 他の聞いていなかった面子も大体同じで、例外は“勇者様”の存在に目をキラキラさせている魔術師のカティアくらいか。

 散々この間までスバルスバルと言っていたのに、スバルとイオリの中が目に見えて怪しくなると、すぐ他に目を向けるところは逞しい。

 

「どうして勇者殿が、……あ、いや、聞きたくないので言わないでください」

「ひっひっひ、それが正解だよ」

 関わると拙いと咄嗟に判断したオリアにタネが笑う。

「ですが、その三人で平気なのですか?」

「そうだ、ばーちゃん。私も行ったほうが良いんじゃない?」

 

 スバルの口調が、自分を“俺”と呼んでいたのが“私”に戻っていたが、これは心が女に戻っているのではなく、素を出せるようになったからだ。

 それだけ今の存在のまま、イオリの隣にいることが自然となっている。

 

「あんたじゃ無理なのさ。ナギト、説明しなっ」

「はいっ!」

 

 すっかりタネに躾けられたナギトが説明を始める。

 ハッコーには入れるだろうが総教会に侵入するのは簡単ではない。

 教会の周りには自称聖騎士が固めているし、内部も無駄に筋肉むきむきな神官戦士が美少年を求めて徘徊している。

 目的である奥の宝物庫に通じる道は、何代か前の勇者が趣味で仕掛けた罠が満載で、資格のない者が近づくとかなり笑える事態になるらしい。……と、罠に掛かったことのあるナギトが恥ずかしげに語った。

 だが、その何代か前の勇者様は、こっそりと外から入れる抜け道を用意していた。

 そこは勇者だけが使えるトラップメンテ用の通路らしく、光属性を持たない者は入り口すら見つけられない道で、ナギトが気付いたのも偶然だ。

 だが、当時にナギトでは光の力が足りなかったらしく、猫が通れる程度の道しか開かなかった。

 

「今の俺なら、ぎりぎり人が通れるくらいの道は開くと思いますが、俺でも鎧を外さないと無理だと思います。もちろん行ける可能性もありますけど、骨太のアニキでは…」

「うっさいわ。それとアニキと呼ぶな」

 女の子だった時代に散々骨太だと言われてきたスバルが思わず文句を言った。

 

 そうなると他の男性や、女性でもパオラのような戦士職は無理な話であり、女性でもスニークミッションなどまったく出来ないカティアも論外で、リリーナも鎧を脱げば行けるが、騎士としてそんなことは出来ないという。

 要するに確定した面子は消去法で決まった訳で、誰もが不安な顔になる。

 

「だから侵入する時のリーダーは、あんただよ」

 

 そう言ってイオリをのほうを向くタネに、全員が目を見開いた。酷い話にも見えるがイオリが一番驚いていた。

 

「わかったね、ハナコ」

『イエス、マスター。イオリ様はお任せ下さい』

 

 イオリのイヤリングからダンジョンコアのハナコが返事をして、全員が盛大に安堵の溜息を漏らした。

 

 そうして一同は周辺の情報を集めつつ西の大国ハッコーへと向かった。

 道中エルマが本職のレンジャーであるフーゴからみっちり鍛えられたり、ナギトがオリアやスバルから剣の基礎修行を受けたり、イオリがパオラの抱き枕にされたりしながら、特に問題もなくハッコーの王都に到着する。

 

「……なんかボクの扱い、酷くない?」

『いえ、いつも通りですよ、イオリ様』



 

 どうでもいい話ですが、私は久しぶりに登場するキャラの場合、○○○の△△△と、名前の前の一言入れています。思い出せますかね?


 次回は、侵入開始。

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― 新着の感想 ―
一躍最下位を独走 > なんかイオリだと一気に逆走からの全力疾走していきそう。 孫娘 > おーい、イオリよ。それでいいのかい? あ、気づいてないの? ○○○の△△△と、名前の前の一言 > ああ、そっ…
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