52 敵も味方も一網打尽
ブン…… 【Record reading.】
「……うぷ…」
復活して早々、イオリは死の感覚も残ってはいるが、色々な意味で冷や汗を流し、顔色が悪くなる。
予想は出来ていたが、死に戻りしても変化した武器は自動販売機の盤面に戻ってはくれなかった。
「イオリさん、馬が来たっ!」
「来るよね!」
青い顔で再びバズーカ(仮)を構えるイオリ。吐き気がするとか言っていられない。
イオリもおバカだが、頭が悪い訳ではない。
この殲滅バズーカは、水素と酸素を凝縮した弾を撃ち出すだけの単純な代物だ。
どういう原理で撃ち出しているのか、設定したイオリも良く分かってないが、少なくともロケットのような火を使った推進力ではないようで、放物線を描いて飛んでいく。
と言うことは、斜角を上げてやれば遠くに届く弓矢と同じように、イオリは砲身を上げて引き金を引いた。
「「あ、」」
そして発射された弾は、五メートル先の高さ三メートルの天井で炸裂する。
ブン…… 【Record reading.】
「けふっ」
「イオリさんっ!?」
そしてまた撃つ直前に【自動復活】によって不死鳥のように舞い戻った。
その燐光の如くキラキラ舞い飛ぶ物の正体はさておき、復活はしたが状況が良くなった訳でも有利な情報が手に入った訳でもない。
と言うか、そろそろ何とかしないとイオリの精神がやばい。色々と鈍いイオリでも、死の感覚は精神的にダメージが大きかった。
「イオリさん、馬が来たっ!」
「………」
それでも三回目となると多少の余裕は出来る。
何がいけなかったのだろうと、そっと砲身を覗き込む。この時、引き金に手を掛けたままなのは、是非とも真似はしないで欲しい。
『『『『………』』』』
砲身の中では、下級とは言え地水火風の四精霊がそろってイオリを見上げていた。
要するに水素や酸素を生成したり、化学反応を起こさせる大量の熱を発生させたり、外殻や信管を構成したり、圧縮した空気で撃ち出したりするのを、精霊達がサポートしていたらしい。
精霊達は、精霊に最も近いハイエルフの子が可愛くて仕方がないのだ。
バカな子ほど可愛いとも言う。
戸惑うイオリに、精霊達は任せておけとばかりに親指を立てる。
イオリはイオリで、どうして精霊がそんなポーズを知っているのか不思議に思った。
と言うより、下級とは言え精霊が四体も居るのなら、直にウマナミを叩いてくれたほうが助かるのだが、精霊達は幼児の運動会を見守る保護者の如く、頑張るイオリの出番を奪うつもりはないらしい。
『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』
「ひゃっ!?」
いつの間にか近くまで迫っていたウマナミに、余裕を無くしたイオリが殲滅バズーカを向けた。
角度良し。撃ち出された弾は、計算通り天井すれすれを通って狙い通りにウマナミの背後で炸裂し、多数のウマナミとイオリ達を吹き飛ばした。
ブン…… 【Record reading.】
「イオリさん、馬が来たっ!」
「………」
さっきの一発は狙い通りの場所に落ちはしたのだが、爆発効果範囲がイオリの想像より二倍程大きかったので、ごらんの通りの結果となった。
吐き気と悪寒で蒼白になりながらも、イオリは無言のまま即座に殲滅バズーカを構えて、流れるように水素爆弾を撃ち放った。
別に自棄になった自殺でも何でもなく、撃った瞬間、イオリは小部屋の隅に駆け込んで頭を抱える。
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!
『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』
「どわぁあああああああああああああああああああああっ!?」
ウマナミとナギトの悲鳴が聞こえたような気がしたが気にしない。そろそろそんな心の余裕も無くなっている。
イオリも今回は、台風並みの風に煽られたがギリギリ死なずに済んだ。
「な、なに、今のっ!?」
やっぱりと言うべきか、ナギトは自前の防御魔法で耐えきり、ほとんどダメージもなくイオリのところへ駆け寄ってきた。
歳も同じで、同じ地球からやってきた者だというのに、彼と自分のあまりの差にイオリも思わず神様の悪意を感じずにはいられない。
「ナギトくん、今のうちに逃げようっ」
「お、おうっ」
イオリが手を掴んで走り出すと、案外素直に付いてきてくれた。
けれど身体能力が違いすぎるので、ナギトはあっさりとイオリを追い越し、
「また、運ぶよっ」
「ええっ!?」
あっさりとイオリをお姫様抱っこにして駆け出した。
ナギトにしてみれば正面から戦ってもいいと思っていたが、それよりもイオリとお姫様抱っこすることを選んだのだ。
イオリも色々と思うところはあるが、さすがにもう死ぬのはこりごりなので大人しくナギトに掴まる。
「ナギトくん、道を曲がる時には教えてっ。カウント付きでっ」
「了解っ」
イオリがナギトの肩越しに殲滅バズーカを後ろに向けて構えると、何となく意図を察したナギトが頷いた。
「5秒後、右っ! ……3、2、1、」
「ふぁいあっ」
まだ追ってくるウマナミに向けてイオリが水素爆弾を放つと同時にナギトが通路を右に曲がり、その一秒後、爆音と爆風とウマナミの悲鳴が、先ほどまで居た通路を埋め尽くした。
それから二度程同じ事を繰り返すと、あれほど聞こえていたウマナミの声や押し寄せる足音が少なくなっていることに気付く。
「……えっと…」
「もしかして……ほとんど倒してる?」
ナギトの機動力と殲滅バズーカの殲滅力、そしてイオリと言う極上の餌に惹かれた、♀を見ると襲いかかる馬並みの知能しかない魔物だったと言う、色々な制約や偶然もあったのだが、過去に封印された百余体のウマナミは、そのほとんどを倒されていた。
まだ脅威は去っていないのだが、だいぶ余裕が出来たイオリは大きく息を吐き、ナギトはこれまでとは違うまるでゲームのような戦闘に興奮し、抱き上げたままのイオリをクルクル振り回す。
「イオリさん、凄いっ!」
「わわわっ!?」
狭い通路で振り回されて、思わずイオリはナギトにしがみつく。
何しろ、逃げ出して安定してから、あれほど煩かった【自動記録】が一度も発動していないのだ。
明確に居るはずのない神様の悪意を感じながらも、ここで通路に脚をぶつけでもしたら、また最初からなのでイオリも必死だ。
「イオリさん…っ」
「なぁに~?」
目が回ってふらふらなイオリを床に降ろすと、ナギトは若干緊張した面持ちでイオリの小さな手を両手で握る。
「こんな気持ちは初めてなんだ……その……、良かったら俺の勇者パーティの一員として、ずっと俺の側に居て欲しいっ」
「…………………………………………へ?」
シェイクされていた脳みそがやっと通常業務を思い出し、イオリの口から間抜けな声が溢れた。
純情少年ナギトの一世一代の“プロポーズ”だったのだが、イオリはそれよりもナギトの『勇者パーティ』と言う単語の衝撃と、元男の子だったので自分がそんな対象に見られているとは欠片ほどにも思わず、復活した脳みそがフリーズする。
その時、
「イオリッ! 無事っ!?」
通路の壁が弾け飛び、イオリの良く知る人物の声が遺跡に響いた。
「スバルちゃんっ!」
ヒロインがまったく理解していないのに修羅場です。
次回、勇者と竜人の対決。




