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51 新たなる力

 



 ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

「ひゃうっ」

 駆け出して3秒後、ばらまいた地雷をウマナミが踏んだのか、爆風と破片が飛び散ったが、イオリとナギトはその前に横手の通路に入れたので【自動復活(オートリバース)】のお世話にならずに済んだ。

「あ、あぶなかったぁ」

「…い、イオリさん、今の爆発は…」

「それより逃げないと…」

「え、でも、あんな連中……」

 反論しようとしたナギトの声が途中で止まる。

 その視線が頭半分以上低いイオリの頭上、その背後を見ていると気づいて、イオリは嫌な予感がして振り返ると。

 

 ブン……

 

 空気を読んだ【自動記録(オートセーブ)】の振動と共に、数十体のウマナミが縦横3メートルの通路を犇めくように迫ってくる様子がイオリの瞳に映った。

「に、逃げ、」

「馬の化け物めっ、イオリさんには指一本触れさせないぞっ!」

 若干、状況と台詞に酔っているような雰囲気を出しつつ、ナギトは剣を抜き放ち、その剣技を放つ。

 

「閃風剣っ!」

 ゴォオオオオオオオオオオオオオッ! と、風が刃となりウマナミを斬り裂いた。

 ……先頭の数体だけ。

 

『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

「うわぁ!?」

「ひゃわぁっ!?」

 当然怒り狂ったウマナミ達に飲み込まれ、ナギトがタコ殴りにされている間に、イオリは御輿のように数体のウマナミに担ぎ上げられ、通路の奥に運ばれていった。

「ひゃぁあああああああああああああああああっ!?」

 わっしょい。

 

 ブン…… 【Record reading.】

 

「うぷっ」

「イオリさんっ!?」

 ウマナミの群れに剣を抜き放とうとしていたナギトは、唐突に嘔吐いたイオリに驚愕の声を上げた。

「……逃げよ」

「わ、わかった」

 イオリの精神に衝撃を受けたような悲惨な表情に思わずナギトも頷いてしまう。

 ウマナミに連れ去られて服を剥ぎ取られた辺りまでは覚えているのだが、それ以上は脳の防御機構が記憶そのものを削除している。

 それでも酷い目にあったと言うことだけは身体(・・)が覚えているらしい。

 ちなみにイオリちゃんの名誉の為に言っておくと、サイズが違いすぎるので事に至る前にお亡くなりになっている。

 

「イオリさん、ごめんっ」

「…え?」

 多少アレでもさすがは勇者と言うべきか、目前まで迫ったウマナミにナギトは宝剣を腰ではなく、勇者だけが使える【亜空間収納】に戻し、イオリを“お姫様抱っこ”で抱き上げると、とんでもない速度で走り出した。

「ええええええええええええっ!?」

 イオリもお姫様抱っこには憧れていたけれど、それはする立場であり、そうなる前にされる立場を体験するとは思ってもいなかったので、意外とショックがデカい。

 逆に念願果たしたようなナギトの口元は若干緩んでいた。

 けしてその指先が偶然(・・)にもイオリの膨らみに触れているからではない、と信じたい。

 

『ブモォオオオオオオオオオオオオオオオオッ』

「うわぁっ!」

 途中の通路からもウマナミが湧いてくる。

 それをひょいひょい避けていくナギトだが、投げられた棍棒の一つが運悪くナギトの背に当たり、

「ひぃっ」

 ナギトが転けて宙に投げ出されたイオリを、ウマナミが滑り込んでキャッチ&リリース……せずに、また御神輿状態で通路の奥に連れ去っていった。

 わっしょい。

「ひゃぁあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ………」

 

 ブン…… 【Record reading.】

 

「ひぃん」

「えええっ!?」

 また唐突に青い顔で泣き出したイオリに、ナギトは驚愕すると同時にちょっとだけそんな女の子に少しだけ“きゅん”とする。

 健全などうて……青少年の琴線はどこにあるのか分からないものだ。

「大丈夫……イオリさんは俺が守るからっ」

「……………う、うん」

 すでに二回わっしょいされて、指一本どころではなく色々と触れられているのだが、それを体験しているのはイオリだけなので、ナギトは上手く行っているようにしか感じていない。

 

「右に避けてっ」

「っ!」

 イオリの声にナギトが反射的に避けると、背後から飛んできた棍棒が二人のすれすれを掠めていった。

「あぶなっ。イオリさん凄いなっ、もしかしてスキルっ?」

「う、うん」

 ナギトが思ったような『先読み』でも『予知』でもないのだが、【自動復活(オートリバース)】先生のことは内緒だとハナコと約束しているので話せない。

 このスキルの弊害は、本人の危険性もあるが、先ほどのようにイオリだけが危機感を感じて他の面子が危機を理解できないと言うものがある。

 要するに上手く行っていると全員が思っている裏で、イオリ一人が苦労している場合があるのだ。ちょっとだけ泣いても良い。

 

「もしかしてさっきの爆発も?」

「う、うん、……爆弾を作れるよ」

「凄いっ」

 今までイオリが使用すると言うことで不安そうな顔をされることはあっても、素直に褒められた経験がなかったイオリはちょっと照れる。

 イオリは喉元過ぎたらどんなに熱くても忘れちゃうタイプだった。

 

 ブン……

「ほら、こうやって」

 

 ブン…… 【Record reading.】

 

 二人の足下で炸裂した焼夷弾に、最短記録で復活する。

「うぷ……、こ、これは対価が必要なんで…」

「あ、ああ、そうなんだ」

 一瞬とは言え、骨をも溶かすような炎に炙られたイオリの死にそうな表情に、ナギトはどれだけ凄まじい対価がいるのかと、顔を引き攣らせた。

「そっか……。そんな貴重なスキルをさっき使ってくれたんだね……」

「……へ?」

 イオリのお小遣い的には厳しかったが使ったのは銀貨たった一枚で、それを思いっきり勘違いしているナギトに、イオリの口から間抜けな声が漏れた。

 そんなキョトンとしているイオリに、ナギトは指先に感じている柔らかな感触の罪悪感もあり、とんでもないことを提案する。

 

「さっき使ってた剣だけど……対価にならないかな?」

 

 ハッコー国の騎士団や財務大臣が聴いたら卒倒しそうなことを口にした。

 

 ナギトがこの世界『テス』に召喚された時に取得したスキルは、【鍛冶】スキルであった。元々物作りは趣味で、地球に居た頃は中二心溢れる魂で、鉄の板からナイフを作り出したりもしていた。

 それによってナギトはスキルを得て、それは『勇者の秘術』と呼ばれる勇者系スキルの知識を得て、自分の武器を作ることに成功していたのだ。

 巨大な漆黒の太刀、闇牙。

 血塗れの真紅の槍、ブラッディランス。

 三日月の蒼い双剣、月夜の刃……等々、

 聴いているほうが痛々しくなるような名称と形状に、国から使用どころか携帯することすら却下され、今は【亜空間収納】に眠っている武器が数多くあるのだ。

 普段使っているハッコーの宝剣は、派手な装飾があって重く、ナギトにとってはとても使いづらい剣だった。

 

「え……高そうな剣だったけど?」

「うん、それしか使いどころのない剣だから、いいんじゃない?」

「……そうなんだ」

 温厚で知られるハッコーの王妃でさえもナギトに腹パンしそうな発言だったが、情報ソースがナギトしかいないイオリは、そんなものかと曖昧に頷く。

 ちなみにオークションに掛ければ、ピカソの有名絵画並の値段が付くであろう。

 もしハナコがいたなら全力で止めるはずだ。

 値段云々よりも、そんなモノを対価にした後のことを心配して。

 

 覚えているだろうか……?

 一度固定化したスキルは変更出来ない。だが、太古の秘宝並みのアイテムを使えば、変更は出来なくても“進化”は出来る。

 

「「あっ」」

 お姫様抱っこのままで逃げていた二人は、会話をしながらであったので追い詰められていることに気がつかなかった。

 通路の先は扉が壊された小部屋が一つで、他には何も無い。

 それに気付いたナギトが元の道に戻ろうとすると、そちらから数十体のウマナミの足音が聞こえてきた。

「イオリさん、これをっ」

 お姫様抱っこのイオリを名残惜しそうに床に降ろし、ナギトが半分以上ノリで宝剣を手渡すと、受け取ったイオリは緊張した面持ちで『爆弾販売機』を具現化させる。

「……自動販売機って、こっちの世界にもあるのか」

「え……?」

「な、なんでもない、さぁイオリさん早く」

 互いに異世界人であることを隠しているのだけなので、知られても問題ないのだが、ナギトはそれを誤魔化すようにイオリを急かした。

「……うん」

 そして宝剣を販売機の硬貨投入口に無理矢理差し込み、ぐにょんと変形して宝剣を飲み込む様子を、二人は食い入るように見つめた。

「「…………」」

 

 ピピピピピピピピピピピピピピピピッ、と突然電子音が鳴り響き、『爆弾販売機』のボタンが発光を繰り返すと、盤面に『アタリ』の文字が浮かぶ。

 

「……当たり?」

「わっ!?」

 すると突然に『爆弾販売機』の盤面がクルリと丸まり、金属製の筒のような状態になると、銃の握りのような物と引き金が飛び出した。

「……何コレ」

 近い形状があるとすればバズーカ砲だろうか……。

 だが、照準器も無ければ肩当てもなく、本当に紙で作った図工作品をそのまま金属に変えただけのようなその筒は、ふわりと移動してイオリの手に収まった。

 持ってみた感覚は驚く程軽い。これまで出てきた爆弾には重さがあったのだが、おそらくは引き金を引くことで筒の内側になった『爆弾販売機』から弾が出て撃ち出されるのだろう。

 多分……対価が尽きるまで。

「………………」

 イオリの額に汗が一筋、たら~りと流れる。

 何しろ先ほどから、ブンブンブンブン、ひっきりなしに【自動記録(オートセーブ)】が発動しまくっているのだから、悪い予感しかない。

 

「イオリさん、馬が来たっ!」

「っ!」

 迫り来るウマナミの群れ。その光景にイオリは無意識にバズーカ(仮)を構えて、その筒をウマナミ達に向けて引き金を引いていた。

 水平に構えた筒の中で“何か”が生成され、小柄なラグビーボールのような形状の弾が、真っ直ぐ……飛ばずに、放物線を描いて20メートル程先に落ちた。

 

「「あ、」」

 

 ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 

 イオリはスバルから科学知識を得て、特殊な爆弾を作れるようになっている。

 その単純な、水素と酸素を使った水素爆弾は、スキルのいい加減さと特殊な対価を得て、個人用の殲滅兵器となって、敵も味方(・・)も一撃で吹き飛ばしたのだった。

 

 ブン…… 【Record reading.】



 

は~い、ヌ○ランチャ~(ドラ○もん風)

核融合はさせていないので放射能はありません。


次回、敵も味方も一網打尽!

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― 新着の感想 ―
目前で指向性の全くないティルトウェイトやブラゴザハースが炸裂したようなもんだな。 うん、死ぬ。勇者くんでも蒸発する。
[気になる点] そうかウマナミさんのクアンタムハーモナイザーを、イオリのフォトニックレゾナンスチャンバーにインしてたのか [一言] 良かった 試作型MIRVはなかったんだね!
[良い点]  申告します。おばかなので、自動復活(オートリバース)と嘔吐を掛けてあることに今ごろ気が付きました(笑)
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