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46 とある少年との出会い

 



 イオリちゃんまた誘拐される。

 そんな話がされていた頃、イオリは小汚い馬車で簀巻きにされて、街の外に運ばれていた。

 

「…むぐぅ…っ」

「大人しくしてろっ、騒がねぇなら、後で猿ぐつわ取ってやっからよ」

「でも兄貴ぃ、いきなり街の外に連れ出したけど、大丈夫なんですかい?」

「ばっか、おめぇ、黒髪のエルフで、しかも生娘っぽい女だぞっ。変態貴族がすぐに買ってくれるに決まってらぁっ」

「さっすが、兄貴だっ」

「へへ、そう褒めるなよっ」

 

 この二人の誘拐犯は、所謂“街のチンピラ”と言われる者達で、計画的ではなく偶然出会ったエルフの少女が高値で売れそうなので“誘拐してみた”系の者達であった。

 これが現代の地球だったら、自慢げにネット公開してそのままお縄になる系のお調子者だが、そんな便利な機能は無いので何とかなっている。

 ちなみにイオリの『誘拐』遍歴だが、以下の通りだ。

 本格的誘拐・1回。

 その日のうちに解放、または救出。3回。

 誘拐未遂・17回。

 貴族からの愛人要請・4回。(ディートリヒが裏で処分)

 これだけあってまだ一人で出歩こうとするところが、イオリの『おバカ』なところと言えるだろう。

 エルマやスバルの胃に穴が開かないのが不思議なほどだ。

 

 今回の場合も、泊まっていた宿からすぐ近くにある武器屋に向かう途中だった。イオリの筋力ではヒノキ棒程度しか使えなくても興味はある。

 イオリも元は『夜中でも一人で歩ける平和な国の男子高校生』だったので、近所を歩くのにも警戒せず、いまだにイオリを『弟分』として雑に扱ってしまうスバルにも油断があった。

 仲間達の名誉の為に言わせて貰えれば、その宿は冒険者ギルドから紹介されたギルド近くの立地だったので、比較的安全な地域でもあった。

 それがまさか……その安全な場所で、数十メートルしか移動しないその途中で……まさか、イオリが“迷子”になるなど誰も考えもしなかったのだ。

 おバカは本当に罪である。

 そろそろ『おバカ』から『お』が取れそうな勢いだ。

 

 さて、そんな訳でガタガタ揺れる荷馬車に揺られてドナドナされているイオリであったが、すでに一回【自動復活(オートリバース)】されている。

 もちろん空気を読むことに掛けては定評のある【自動記録(オートセーブ)】は、ちゃんと馬車に乗せられてから発動しているので問題はない。

 そのせいでオートで嘔吐(リバース)しそうになるのを我慢しているイオリは元気がない。猿ぐつわをされているので、吐いちゃうと窒息して、また【自動復活(オートリバース)】祭のお世話になるので結構切実だ。

 だが、急に大人しくなったイオリに、誘拐犯二人はエルフ少女がついに諦めたと考えたらしい。

 

「へへっ、大人しくしてればいい目を見せてやるからよ」

 兄貴分のチンピラがイオリの剥き出しの太股をジロジロと見て、イヤらしい手付きで触ってきた。

「むぐっ!」

「おら、暴れんなっ、なんだこれ短けぇズボンかよ、脱がせづれぇな……」

「あ、兄貴ぃ、お、俺も…」

「俺の後ならいいぜぇ」

「さすが兄貴だっ」

「お、脱げた」

 

 ちなみのこの状況は動いている荷馬車にて行われている。

 馬が引いているのだからある程度勝手に動いてはくれるのだが、人の意思を離れると思わぬ事が起こる。

 

 ガタンッ。

 

「おわっ!?」

「ひぃっ」

 森が広がる道の横手に10センチ程度の落ちていた。馬も普通にそれを避けたが、馬は馬車の幅までは考えない。そのせいで車輪が石に乗り上げてイオリを隠していた布が落ちてしまった。

「やべっ、おい馬鹿っ、さっさと女を隠せっ、布を拾ってこいっ!」

「わ、分かった、兄貴っ」

 

「……何を隠すって?」

 

 突然掛けられたその声にチンピラ達が固まる。

 その人物は先を歩いていた旅人で、旅人も馬車を避けたが馬も自然に避けてしまった為に、本来問題ないはずの道端の石に乗り上げたのだった。

 そして……

 

「むぐっ!」

「その子はどうして縛られている…?」

 縛られているイオリと視線が合い、旅人の目が訝しむように、すっ…と細くなる。

「な、なんだガキじゃねぇかっ、てめぇには関係ねぇよ!」

「そうだそうだ、兄貴の言う通りだっ」

 

 普通なら、奴隷だとか、悪さをした罪人だとか色々言い訳もするのだろうが、相手がまだ15~6歳の少年と見て、チンピラ達の気が強くなったらしい。

 

「馬鹿な奴らだ。自分から誘拐だと言うようなものだな、愉快な奴らめ。……そうか、お前達のような奴を愉快犯とか言うんだなっ」

「「「……………」」」

 

 もちろん愉快犯とは、そんな意味ではない。

 

「その子を離せ、愉快犯共っ! 行くぞっ」

「こ、このアホガキ、やっちまえっ」

「おう、兄貴っ」

 

 せめてイオリを人質にすればいいものを、チンピラ達はナイフや手斧を取って、真正面から少年に襲いかかった。

「……ふん、雑魚が」

 少年の肩から旅用の擦り切れた外套が落ちる。そこから現れたのは、白と銀で構成された豪華な軽金属鎧で、少年はあきらかに『宝剣』クラスと思しき片手剣にそっと手を添え抜き放つ。

 

「風来、閃風剣っ!」

 

 一閃。

「「……っ!」」

 チンピラ二人が抜き放たれた“中二病”臭い一振りにより、悲鳴をあげる間もなく森の奥へ吹き飛ばされていった。

 あきらかに普通の旅人でも戦士でもあり得ない。

 少年は格好を付けたようにくるくる剣を回して、チラ、チラッとイオリを見ながら鞘に剣を戻す。

 

「君、大丈夫か? もう安心だ。悪い奴は“俺”がやっつけたからな」

 少年はそう言いながらイオリを縛っていたロープをナイフで切る。その途中で剥き出しの生脚をチラリと見てしまうのは、彼の年齢なら息をするのと同様なので仕方のない事だと理解していただきたい。

「あ、ありがとうございます…」

 そしてイオリはそんな視線には気付かず、助かった安堵から素直に頭を下げる。

 イオリは兄弟従兄弟含めて一番下だったので、可愛がられ甘やかされ、素直にお礼が言える子に育てられていた。

 中でもスバルの(中二っぽい)兄には特に可愛がられたので、多少中二病の病にかかっているイオリは、少年の『技』に素直に感心したせいもある。

 そして彼の“容姿”に、イオリはどことなく安堵感を持ってしまい、ホッとしたような笑顔を見せた。

 

「……………」

 イオリの笑顔を真正面から見た瞬間、その黒髪(・・)黒い瞳(・・・)の少年の顔がみるみる真っ赤になっていく。

「……?」

「……え、…あの、君の名前は?」

「ボク? イオリだけど……」

「……そうか、イオリ…さんか」

 意味が分からず首を傾げるイオリに、少年は真っ赤な顔で若干あたふたとしながら、自己紹介を始めた。

 

「お、俺は、ハッコーのゆう…えっと、ナギトって言いますっ! イオリさん、どこに行きますかっ、俺が送りますからっ、絶対護るしっ!」

「え……あ、うん」

 

 こうしてイオリは救出され、見知らぬ少年ナギトと行動を共にすることになった。



 

……バカしかいない。


次回、謎の少年との旅路。少年のバレバレな正体とは?

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― 新着の感想 ―
リバース耐性身につけてよかったね 初期で猿轡オートリバース発動したら無限ループになるところだった
『おバカ』から『お』が取れそうな > 既に『お』を付けていない人は多いだろう。 だがそれ故の肌色シーンであるから、周囲の人間は期待を込めて『おバカ』と呼ぶのだ。多分。 しかし、タネ婆ちゃんはこんなイオ…
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