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45 新たなる仲間と旅立ち

 


 いよいよ風の勇者ナギトに対する、抹殺……と言う名の『お仕置き』を実行する為に動く時が来た。

 まぁ、名目は何と付けようが、西の大国ハッコーと敵対する訳にもいかないので、やることは限りなく“嫌がらせ”に近い。

 一応は勇者に強奪された魔道具を取り返すという目的もあるが、そちらはすでに売り払われた可能性が高いのであまり期待はしていない。

 とにかく異世界から召喚されて一年少々しか経っていない、まだ16才の少年に対して、やんちゃをしたとは言え、80才を超えた老人を筆頭に、一流冒険者であるいい大人がよって掛かって嫌がらせをすると聞けば、大抵の者は眉を顰めるだろう。

 

「いい大人だからこそ、悪い事をした子供は矯正しなくちゃいけないんだよっ」

 

 そんな事を言って鉈を研ぎながら『ヒッヒッヒ』と笑う祖母を見て、イオリは山姥やなまはげと言う単語が脳裏に浮かんだ。

「とにかく、あんたら、準備はいいかいっ?」

 魔導具職人でありダンジョンマスターの一人であるシード氏……タネ婆ちゃんの声に集まった面子は各々頷く。

 ゴールドランクの冒険者であるオリアのパーティは元々5名だが、仮メンバーと言うことでイオリ達が参入した為に現在9名まで増えている。

 そのオリアのパーティを、護衛の名目で金貨30枚(日本円で300万円)でギルドに申請して雇っている訳だが、さすがに『勇者』と戦闘をするような依頼ならその十倍は貰っても割に合わない。

 そこでオリアとタネは話し合い、パーティを『実行班』と『調査及びサポート班』の二つに別けることになった。

 

 調査及びサポート班は、スバルを抜かした元々のパーティメンバーであるオリア達がすることになる。

 実力があるオリア達が実行班でなくても良いのか、と言う疑問もあるだろうが、有名どころで顔が割れているオリアが直接前に出るとあまり宜しくない。

 そもそもイオリやエルマのような子供では情報も集めようがなく、そう言った仕事は大人達のほうが上手くこなせるからだ。

 実行班は6名。

 まずは直接手を下したいタネと、気心が知れて、能力的にも行動面でも、色々な意味で“イレギュラー”である孫の従兄弟達、イオリとスバル。

 そのイレギュラーを上手く纏める為に“お目付役”としてエルマ。

 そして残りの二人は……

 

「イオリっ、何故真っ先に、俺に声を掛けない? イオリを護るのは俺の役目だと言っておいただろう」

「イオリちゃんっ、私をいつでも頼っていいのですよっ、って言うか、イオリちゃん用のネグリジェも用意したのに、どうして泊まりに来てくれないんですかっ」

 

「そんなこと言われても……」

 イオリは二人の勢いに思わず一歩引いてしまう。

 金髪の美男子ディートリヒ。

 エルフの女騎士リリーナ。

 ここに最初の冒険でお世話になった戦士ヴェルがいれば、イオリがハイエルフである事を知っているほぼ全員なのだが、ヴェルは自分のパーティがあるので、仮とは言え、移籍扱いになるパーティ移動は出来なかったらしい。

「でも、二人ともお仕事はいいの? 忙しいんでしょ?」

 何しろ二人ともこの国、キリシアールでは高めの役職に就いている。

「なぁに、今更第三…、おっと、今は“第二”に繰り上がったが、今までほとんど仕事してこなかったんだから問題ないし、イオリよりも大事なことなんて無いよ」

 そんな無責任なことを言いながら、この国の第二王子は歯をキラリと光らせる。

 実際には元第二王子が“病死”して仕事は山積みなのだが、逃げてきたらしい。

 ディートリヒほどの“王子様”に『キラッ☆』っとされれば、少女魔術師のカティアのように端から見てても顔が赤くなるはずなのだが、元男の子であるイオリにとっては『歯並び綺麗だなぁ』程度の感想しか出てこない。

 

「私は、騎士団を辞めてきましたっ!」

「……ええっ!?」

 第二騎士団副団長であったリリーナ・スカシテルの爆弾発言に、イオリも一瞬惚けてから声を上げた。

「な、なんでっ」

「あんなロリバ……、二百歳越え発育不良エルフを崇拝するくせに、私を蔑ろにするような男しか居ない騎士団なんかに用はありませんわっ! 私は愛に生きるのですっ!」

「そうだ、良く分かるぞスカシテル殿、俺も愛に生きるのだっ。大体、顔見知り程度のセビル伯爵がいきなりやってきて、第二王太子なら王位が狙えるとか、そんなことを言っていたが、王になったら、人間の娘しか嫁に出来ないではないかっ」

 リリーナの言葉に、諫める立場のはずの第二王子が、王家のお家事情を盛大に暴露しながら同意して、元第二騎士団副団長とがっしり握手する。

 

「………」

 元々一人の冒険者として、ディートリヒを自分のパーティに引き込もうと考えていたオリアは、イオリのおかげで念願が叶い、しかも精霊魔術が使える騎士も引き込めたというのに、そんな“残念”な二人を見て、どことなく虚ろな瞳で遠くを見つめた。

 

 そんな感じで情報戦担当のオリア達と分かれて、イオリ達六人はキリシアール国を出発することになった。

 それは情報を収集し始めてすぐに、闇の勢力側が侵攻を開始したと言う情報が入り、おそらく風の勇者ナギトも所属国である西のハッコーに戻るかと思われたからだ。

 出発に際してカティアがスバルと離れることで一悶着あったりしたが、それ以外は問題なく、冒険者パーティとして王都キリシルを後にした。

 

 

「ねぇイオリ、私もちょっと考えてみたんだけど」

「ん~?」

 現在イオリとスバルは宿屋の部屋にあるお風呂に一緒(・・)に入っている。

 最初は『姉同然』だったスバルに恥ずかしがったり、男だの女だの中身がどうだの混乱していたイオリだったが、スバルに言葉巧みに丸め込まれ、事ある毎に何度も一緒に入浴した結果、『家族だから仕方ない』という風に落ち着いた。

 まぁ、家族でも年頃の姉弟や兄妹でも一緒に入浴するのはあまり無いが、そこはイオリが“おバカ”なので仕方ない。

 ちなみに二人が入浴することで騒ぎそうなあの(・・)二人は、スバルの本気の【竜魔法】で拘束され、その二人の見張りを銀貨一枚で請け負ったエルマは、スバルに向けてグッと親指を立てた。

 グッドラック。

 

「ばあちゃんと話したんだけどさぁ、私の【竜の騎士】のスキルを使えば、もしかしたら、イオリの体力問題も何とかなるかも知れない」

「ええっ、ホントにっ!?」

 俗に言う『後ろから抱っこ』状態で湯船につかっていたイオリが、半分立ち上がって身体ごと振り返る。

 そうなると、あんまんやサクランボみたいなものが丸見えになるのだが、あまりにも可愛らしいソレに、スバルの視線が釘付けになった。

「……あっ」

 イオリもそれに気付いて慌てて元の体勢に戻る。

 

 最初はただ裸を見られることだけが恥ずかしかったのに、最近イオリは、自分の中のわずかな心境の変化に戸惑っていた。

 今の女の子の身体が『自分』だと認識して、裸を見られるのが恥ずかしいのは変わらないが、ただ『見られるのが恥ずかしい』から『スバルに見られるのが恥ずかしい』に変化している。

 家族だから一緒にお風呂に入る。でもスバルに見られるのは恥ずかしい。

 女性であるエルマやリリーナに見られるのは、恥ずかしいけど『女の子』として慣れてきた。元は同性であるはずのディートリヒに触れられるのは『男の子』として気持ち悪いと感じてしまう。

 でも、スバルには嫌悪感もなくただ恥ずかしさを感じた。

 心と身体がアンバランスな存在。ある意味『同類』だからこそそう感じてしまうのだろうか。

 こうしてスバルの肌と体温に触れていると、日を追うごとに胸の高まりを感じてしまう。

 

 そして、それはスバルも同じだった。

 女の子と触れあうことは出来ても友情以外感じない。男性と触れあうのは身体が勝手に拒否反応を起こしてしまう。

 最初は、男の子に戻ることを望んでいたイオリに、男として迫ったら愉しいだろうと考えていただけだったのに、今はこうして二人でいることに安らいでいる自分を、自分でも認めている。

 

「イオリ……“俺”が絶対に護るから。…ずっと」

「…っ」

 スバルがそう言ってイオリの細いうなじに顔を埋めると、イオリは慌てて湯船から立ち上がる。

「ぼ、ボク、のぼせちゃったから先に上がるねっ」

 本当にのぼせたのか、耳まで真っ赤になって身体を隠しながら潤んだ瞳を見せるイオリの背中とお尻を見送り、

「………反則だなぁ」

 スバルも何となく顔を赤くして、そのまま湯船の中に沈んでぶくぶく泡を立てた。

 

 

 その翌日……オリア達から通信の魔道具で、勇者ナギトが今いる宿場街の近くを移動していると連絡が入り、至急移動しようとしたところリリーナが外から宿に飛び込んできた。

 

「い、イオリちゃんが誘拐された……」

「「「またっ!?」」」



 

グッドラック。


次回、イオリはまた誰に誘拐されたのか?

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え~。 犯人は勇者?
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