44 おばあちゃんへお願いしましょう。
遅れて申し訳ありません。お盆まで乗り越えられればなんとか……
新章です。今回は下品なネタがあります。はい、いつも通りですね。
本来の仕事である廃坑のモンスター発生調査とその原因排除は終了した。
女の子達がスライムときゃっはうふふと戯れるのが仕事ではない。
廃坑と隣接していた『食用スライム生産工場ダンジョン』は、イオリとスバルの祖母であるシード……日本名『タネ』が管理用のコアをサブとして新たに設置することで、モンスターが外に出ることはなくなった。
ちなみにコアの名称は、『宇の零号・アンジェリーナ・テツコ』であるが、覚えていても特に良いことがある訳でもない。
オリア達のパーティも公式にはモンスター駆除を完了したとして、ギルドマスターにだけはダンジョンのことを報告し、秘匿するように勧めておいた。
さすがの全国規模の冒険者ギルドでも、ダンジョンマスター組合と敵対するようなことはしない。
ダンジョンは『餌』である人間が来ないと成り立たない部分もあるし、ギルドにとっても素材確保と専業冒険者の定期的な収入の為にはダンジョンが必要なので、敵対することは互いにとって得策ではないのだ。
そんな感じで彼らは無事に王都まで戻ってきた。
異世界での再会というとんでもない奇跡を果たし、その祖母から『勇者暗殺』と言う名の『お仕置き計画』を頼まれたイオリではあるが、その前に確認しなくてはいけないことがあった。
「タネばあちゃん……ボク、“男”に戻りたいんだけど……」
「はぁ? なんでだい?」
「……え?」
男孫が孫娘に変わってしまったというのに、元に戻るという発想自体がなかったような祖母の顔を見て、イオリも愕然とする。
「え…えっと……ボクは男なんだよ?」
「なんで自信なさそうな顔しているのか分からんが、なんか問題があるのかい?」
「大ありだよっ!?」
最近、自分が男だと自信が無くなってきたイオリにとっては大変な問題だ。
『マスター、イオリ様は男性に戻る為にマスターを捜しておりました。スキルの副作用で女性化しましたので、それを解除する方法を得たいそうです』
話が進まない様子を見て、ハナコが簡単に補足説明をする。
HPが1になる影響で女性化する。ならばHPを増やせばスキルを解除して男に戻れるのではないか。
一通りハナコの説明を聞いて、タネは両腕を組んでから思案するように改めてまじまじと孫の顔を見つめた。
「ばあちゃんはねぇ……前からイオリには本当に○○(注・猫に付ける名前)付いているのか分かんないくらい可愛い子だったから、良かったと思ってたんだけどねぇ」
「良くないよっ」
何故か色々と酷いことを言われた。
「まぁ、いいさ。HPを増やす方法はまだ上手く出来てないけど、ばあちゃんも考えておくから、安心しておきな」
「うん、お願いねっ、おばあちゃん、ありがとーっ」
「ばーちゃん、相談があるんだけど」
「おや、今度はスバルかい」
イオリの相談が終わってタネがお茶を飲んでいると、今度は元孫娘であるスバルが相談にやってきた。
「今度は…?」
「いや、こっちの話さっ、どうしたんだいスバル」
タネは『鮮血の憩い亭』にある一番高い部屋に泊まっている。
あの風の勇者の若造を“ぎゃふん”と言わせる為に、依頼をするオリア達と打ち合わせをする必要があったからだが、可愛い孫達で遊びたいと言うのが本音だ。
その後は一度自分のダンジョンに戻って必要な魔道具を作製し、イオリ用の性能を特化させた『ハナコ携帯コア』も作る予定だった。
イオリの後に相談に来たスバルだが、タネからすると、イオリもスバルも性別が入れ替わっているのにあまり違和感を感じない。
元々美人だけど骨太でこざっぱりした性格のスバルだったが、男性化して一回り身体も大きくなり、今ではすっかり“美丈夫”と言ってもいい感じになっている。
「ばーちゃん、私そろそろイオリの貞操奪おうと思っているんだけど、何かいい方法無いかな?」
そんなスバルは堂々と、男孫では絶対祖母にしないような相談事をしてきた。
「おやまぁ、いつの間にそんな関係になってたんだい?」
「いや、私だって元は“女”だから、普通の女の子だと、そんな気分にはならないんだよねぇ」
「まぁ、あの子も普通の男にされるよりいいだろうけどさ」
イオリがこの先も元に戻ることなく女の子のままでも、そこらの男性を愛せるようになるとは考えにくい。それはスバルも同じだろう。
本来なら孫娘の貞操を奪おうとしている男を、祖母としてはぶん殴らないといけないような事態なのだが、タネも深層の部分ではイオリを“男の子”だと思っているので、男の貞操に関してはあまり深く心配してはいなかった。
「スバルは、イオリのことを知っているんだね?」
「うん。スキルの副作用は知っている」
「やっちまったら、たぶんあの子死んじゃうよ?」
「うん……だから、他の誰かに奪われる前に……ね」
スバルはイオリがモテる事を知っている。それこそ、わざとやっているんじゃないかと思うくらい無自覚にフラグを立てまくっている。
今はまだ“良い人”しかイオリの周りに居ないが、誘拐されるくらい警戒心のないイオリでは、いつ犯罪者や自制心のない若い冒険者に襲われないとも知れないのだ。
襲われたらたぶん死ぬ。【自動復活】で蘇ってリセットされたとしても、それがどれだけイオリの心に傷を残すのか分からない。
そうなる前に、トラウマが残らないような『姉同然』の自分が“初めて”になってしまえばいいのではないかとスバルは考えた。
実際は、某オークや某ヘルハウンドなどに色々されている訳だが、そんなことはスバルは分からない。
別に男の子として男に貞操を奪われるイオリを見たかったと言う、腐った願望があったからではない……はずだ。
「……そうだねぇ」
タネはスバルの話を聞いて、真剣に考えた。
別に先ほどのイオリのお願いも似たようなモノだが、その時は女の子のままでもまぁいいかと真剣に考えていなかったなんて、もうタネの記憶に残っていない。
「スバル……あんた、確か今は『竜人』だったね?」
「うん、【竜の騎士】スキルの副作用でね。元々男になりたかったからだけど」
「そうか……」
タネは幾つかのことを頭で整理すると、可愛い孫に向けてニヤリと笑う。
「なんとかなるかも」
家族の陰謀でイオリの貞操がピンチです。
次回、パーティ編成のお話。




