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40 家族

 まじめです。

 


「……タネばあちゃん」

「……また始まった」

 

 勇者を抹殺せよ。そういった祖母の言葉に、孫達は呆れたような表情を浮かべる。

 二人は小さい頃、よくタネからこの手の命令を受けていた。

 家族用語で『抹殺』とは、例えば、粋がっていた兄の恥ずかしい過去をその周辺にばらまいて、狭い範囲で社会的に抹殺したり、酒癖の悪い親戚のおじさんのヅラを親戚の前で剥ぎ取ったりすることだった。

 親戚の中で一番幼い子達がタネの命令で行い、タネが今も地球に居たなら、その役目はスバルの姪っ子達に受け継がれていたはずだ。

 

「今回はちょっと本気だよっ。うちからアイテムを盗むような悪いガキは、今のうちに躾けないと、碌な大人にならないからねっ」

 幼い頃とは違って若干ノリの悪い孫達に、タネはこれが躾だと語る。

「……イオリ、どういうこと?」

「あ~…えっとね」

 状況が分からずスバルが顔を向けると、イオリはハナコから聞いたことを適当に縮めて説明した。

「へぇ……、確かに悪ガキ勇者だね」

「どうだい、わかったかい?」

 イオリの説明が済んでスバルが納得したところで、タネが子供のように胸を張る。

 昔から童心溢れる祖母であったが、異世界に来たことでそれがさらに酷くなっているように孫達には感じられた。

 イオリは良く分かっていなさそうだったが、冒険者としてある程度情報を集めているスバルは、ゆっくりと溜息を吐く。

「それって、へたすると大国ハッコーを敵にしちゃうんじゃないの?」

 

 話を聞くと確かに、ちゃんと国に税金を納めている正規のダンジョンマスターを襲撃して、アイテムを奪っていったクソガキだ。

 二年前に召喚された新しい勇者で、まだ16歳……イオリと同学年か一つ上程度の子供だから、躾と言えば躾なのだが、子供でも大国の勇者だから、下手に手を出すのは拙いとスバルは考えた。

 

「ギルドに報告しても依頼にはならないと思うけど…」

「なぁに、殺そうって訳じゃないよ。危険な真似はしないし、ちょっとばっかし、痛い目にあって貰うだけさ。色々考えたけど、孫が二人がいるだけで計画はずっと楽になるさっ」

「「………」」

 

 イオリとスバルは思わず顔を見合わせて溜息を吐いた。

 何をやらかすつもりなのか分からないが、冒険者とか依頼とか言っておきながら、最初から家族枠で孫として参加することが決まっていたようだ。

 どうせ止めるように説得しても納得しないだろうし、協力を拒んだらタネは一人でも行ってしまうだろう。

 孫としてそんな祖母を放置する訳にもいかず、そして何よりも、この世界でたった三人だけの家族を愛していたからだ。

 

「仕方ないね……」

「……うん」

「よし、それでこそ、ばあちゃんの孫だっ」

 

 こうして二人は祖母の計画に協力することになった。

 あまり物事を深く考えないイオリは、溜息を吐きながらもまたタネと一緒にいられることを喜んでいたが、スバルはパーティメンバーにどう説明しようかと、頭を抱えていた。

 

「それなら、スバルのとこのパーティも雇おうかねぇ」

「え……、だから、お祖母ちゃん、ハッコーに直接敵対するのは…」

「直接は私らだけさっ。情報を集めたりとかしてもらわないとね。イオリ、これを持っておきなっ」

「なに?」

 タネからぽんと投げられた石をイオリは受け取る。

「え? これって、魔石? おっきいね」

「それも魔道具さっ。ハナコ、新機能追加」

『イエス、マスター』

「えっ!?」

 突然聞こえてきた声に、スバルが驚いた顔で辺りを見回した。

「それは低範囲念話装置さ。ここのコアと会話出来るかと作ったんだけど話せないみたいだから、これも無駄にならずに済んで良かったよ」

 

 半径三メートルに念話出来る魔道具で、イオリの魔力だけでは使用出来ないが、すでに魔力が込められているので問題なく使える。

 ただ、他人の心を読めるような便利な物ではなく、機能はコアの意思を他人に伝える為の物なので、他の人間は口に出して話す必要がある。

 

「ちょっとまって、お祖母ちゃんのダンジョンのコアが、イオリと一緒にいるの!?」

「あれ……言わなかったっけ?」

『イオリ様に内密にするよう、以前提案させていただきました』

「こんな高性能なコアを携帯するって……無茶苦茶だね、お祖母ちゃんのところは」

 魔導具生成スキルがあるとは言え、祖母の非常識さにスバルはまた溜息を吐いた。

 

「ハナコ、余剰資金はどれくらい残ってる?」

『はい、運用資金を抜かせばそれほど多くはありませんが、臨時収入……と言いますかあぶく銭のようなものが金貨三十枚ほどございます』

「ほ~、私が離れてから随分稼いだね。それを使って交渉だよ」

『イエス、マスター』

 

 あぶく銭とは、某王子が購入した『ハイエルフの生体学術資料映像』の代金である。

 

 そしてタネはオリア達の元に戻ると、彼らをハッコーの勇者に対する情報収集と情報操作として雇い、後日、『勇者』と関係ない依頼としてギルドに届け出ることで、ハナコが交渉で金貨三十枚で契約を済ませた。

 そしてダンジョンコアに交渉で敗北したオリアは、ひっそり一人で落ち込んでいた。

 

 

「イオリ、本当に女の子になっちゃったんだねぇ」

「そのうち、戻るよっ」

「スバルもすっかり男の子だね」

「私は戻るつもりはないけどね」

 

 かなり消耗していた彼らは、その日はダンジョンに泊まることになり、イオリとスバルは家族水入らずでタネと一緒に過ごしていた。

 

「どんな姿になっても、あんた達は孫で、ばあちゃんはあんた達の味方だよ」

「うん」

「……お祖母ちゃん」

 

 異世界に召喚された祖母。召喚事故で転生した従兄弟どうしの二人は、こうしてまた出会い、タネは二人の孫を優しく抱きしめた。


        

 

 活動報告にも書いておりますが、6月中は仕事が忙しく不定期になりそうです。申し訳ございません。


次回は閑話、エルマの話。

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― 新着の感想 ―
家族構成を思い出せないとか言ってたが、世界を隔ててないからなのか、それとも見たら思い出す仕組みなのか
黒歴史&ヅラ暴露 > まじめ? タネからぽんと投げられた石 > ここで一回死んでもおかしくなかった、かも? 従兄弟どおし > 従兄妹が正しいのか従姉弟が正しいのか、悩みどころ? 転生してるから血縁…
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