04 目が覚めたら見知らぬ天井的な
どんどんチートへの『お約束』を潰されていくイオリに明日はあるのでしょうか?
「……んぅ」
イオリが目を覚ますと、石の中にいた。
そう表現すると古のRPG的な死亡表現に聞こえるが、実際は『石造りの部屋の中にいた』…が正確な描写になる。
どうやら無事に転生を果たしたイオリだったが、身体が新たに再構成された影響か、上手く声も出せず、おまけに身体がふわふわ軽くて上手く動かず、慣れ親しんだ自分の身体では無いような錯覚を覚えた。
(光の精霊さんの話だと、この世界に合わせて再構成した身体になっているみたいだから、まだ馴染んでないのかな…?)
光の精霊を信じられない訳ではないが、所詮は生物外との会話なので、お互い何処まで意図が伝わっているか定かではない。
(そう言えば、スキルの話ばっかりして、転生場所がどんな場所なのか聞くの忘れてたなぁ……)
大事なことなのに今更ながら暢気な少年は気づく。
(……ここってどこだろ?)
薄暗くて良く分からないが、天井も床も壁も石で創られた十二畳程度の小部屋のようだった。もちろんイオリが寝起きしていた自室の六畳間より充分に広いのだが、天井まで4メートル以上もありそうな建物なら、この程度は狭い部類に入るだろう。
だが何も無い……。窓もなければ扉もないことに気づいて、イオリはゾッとする。
(……これ、いきなり詰んだんじゃないの?)
『………そこに、どなたか居られるのですか?』
「っ!?」
突然頭の中に響いたその声に、イオリは飛び上がるほど驚いた。
「だ…、げほっ」
誰!? と叫びたかったが、声が出せずに奇妙な声で咳き込んでしまうと、ほわん…と部屋の奥に明かりが灯り、台座に乗せられた水晶球が浮かび上がる。
『驚かせたのなら申し訳ございません。私はこのダンジョンを管理している、ダンジョンコアの【伊の壱号】と申します。あなたはマスターのお客様でしょうか?』
「!????」
水晶球が女性っぽい声で喋ったことも驚いたが、その名称に『日本語』が使われていたことにイオリは違和感を覚えた。
『はい、私の名称は、マスターが生まれた異界の言語だと聞いております。もしやあなたはマスターのご友人ですか?』
「…っ(え、何で!?)」
『声に出す必要はありません。私には発声器官がありませんので、この部屋に限りシステム魔法の思念通話で会話することが許されております』
「…(そ、そうなんだ? ここってダンジョンなの? それと君のマスターさんって、日本人?)」
『はい、マスターは『ニッポン』と言う異界から『勇者』として召喚されました。あなたは、マスターのお知り合いではなかったのですか?』
「…(うん……ごめんね。同郷だけど、知り合いじゃないと思う)」
少なくともイオリの知人で行方不明になった人は記憶にない。
『そうでございますか……。ご友人でないのでしたら、マスターより管理を任されているダンジョンコアとして、侵入者は排除しなければいけないのですが…』
「(ええええええええええええええええええっ!?)」
『ご安心下さい。マスターより同郷の方が友好的な方なら、お世話をするように申しつかっております』
「…(よ、良かった……。それでマスターさんはどちらに? お留守ですか?)」
『現在マスターは、123日前より外出しております。同郷の方にならマスターの状況をお話しする権限が与えられておりますが、お聞きになりますか?』
「(うん、ボク、この世界に来たばっかりで何も知らないんだ。聞かせてくれる?)」
『了承しました。マスターは2018日前、北の大国ゲンブル王宮にて異界より召喚されましたが、生憎と『勇者』としての素質が無かったらしく、その二日後に放逐されたと聞いております。ですが魔道具を製作する『スキル』を得ておりましたので、魔道具を売った金銭で、1752日前にこのダンジョンを購入し、制作した『私』をコアとして設置いたしました。その後、このダンジョンを研究所として魔道具を作製し、街で売りながら、希に現れる冒険者をからかって過ごしていたのですが、128日前に、西の大国ハッコーの『勇者一行』が現れ、すべての魔道具をその盗賊達に奪われたマスターはモチをヤケ食いして寝込んでいたのですが…』
「……(モチ…あるんだ)」
召喚された異世界人達は、モチどころか味噌や醤油も作らせている。
だがその独特に匂いが現地の人に受け入れられず、あまり人気はないようだ。庶民に浸透しなかったのは価格が高かったせいもある。
「(でも、ダンジョンだから、勇者や冒険者がくるのは仕方ないよねぇ…)」
『所有者のないダンジョンはそうですが、ここはマスターが買い取り、国に税金も納めております。知らないで来る冒険者も居ますが、撃退後、『強盗』として届け出ておりました』
「…………」
『今回もこのダンジョンがあるキリシアール国に被害の届け出を出したのですが、相手が大国の『勇者』なので、国際問題になりかねないので黙殺され、マスター自ら魔道具を奪い返す為に、勇者を追って出立いたしました』
「…(それ、勝てるの? ダンジョン内でも負けちゃったんでしょ?)」
『はい、そのためマスターは勇者達を毒殺する用意をなされていました。それでも簡単ではないので時間が掛かっているようです』
「(どっ、毒殺!? ……異世界だからあり…なのかなぁ。あ、マスターさんのお名前聞いてなかったね)」
『マスターの本名は存じません。こちらでは『シード』と名乗っておられました。あなたのお名前をお聞きしても宜しいでしょうか?』
「(あ、ごめん、ボクはイオリだよ。よろしくっ)」
『名称を確認……『イオリ』様をゲストとして登録させていただきます』
あらためて自己紹介をしたイオリは、新しい身体に慣れるまでの時間潰しに自分がこのダンジョンに来た経緯を話し、【伊の壱号】からこの世界のことを聞いた。
このダンジョンがあるのはキリシアールと言う小国で、他にも幾つか国はあるが、大国と呼ばれるのは四つらしい。
東の大国、セイル。
北の大国、ゲンブル。
西の大国、ハッコー。
南の大国、スザーク。
この大陸ではこの四つを知っていれば、大抵は何とかなる。
「……(なんか聞いたことあるような)」
『マスターもそう思われて文献を調べた結果、過去に召喚された勇者が、『四神』にちなんだ名前に変更され、それが訛った物だと聞いております』
「(四神……あああっ、なるほど)」
例えばセイルは、『青龍』が永い年月で訛ってしまった名称らしい。覚えやすいのか覚えにくいのか微妙なところだ。
『それにしても召喚魔法陣の事故ですか……。イオリ様、大変でしたね』
「……(ありがと……初めて同情して貰えた気がする)」
『イオリ様のお身体ですが、こちらの簡易【鑑定】と文献を検索した結果、あと数十分で通常機能が回復すると思われます』
「(そうなんだ、良かったぁ……鑑定っ!? 【鑑定スキル】を使えるの!?)」
『スキルではございません。マスターのお言葉ですが『異世界に来て自由に鑑定が使えないのはあり得ない』とおっしゃり、このコアルーム限定ですが、状況に応じて上位鑑定魔法を使用できる機能を作られました』
「(……するとやっぱり、個人では使えない?)」
『上位鑑定は勇者ほどの魔力があれば可能かと思いますが……。イオリ様、ご自身を鑑定なされてみますか?』
「(うんっ、やってやって、自分のステータスを見てみたいっ)」
『ご希望了承しました。それでは動かず30分ほどお待ち下さい』
「(…へ?)」
どうやら物語であるようにパパッと済むようなものではないらしい。
仮にも人の魂の情報を読むのだから、それなりに時間が掛かると言われれば、イオリも納得せざるを得ない、妙なところで現実的な世界だった。
ちなみのこの世界の単位は、異世界の勇者が広めた時間単位やメートル法を使っているので分かりやすかった。なのに『何ヶ月』と言う単位がないので面倒くさい。『年』と言う表記はあるのだが、すべて『日数』で言うのは【伊の壱号】の趣味だ。
ジッと待つこと30分。コアからCTスキャンのように光を当てられ、その間はコアも黙っているのでイオリはとても暇だったが、レントゲンを撮られているような気がして身動きが出来ない。
毎回こんな時間が掛かるのなら、こんなスキルを取らないで良かったと、イオリがしみじみと思い始めた頃、やっと鑑定が終わったようだ。
『それでは、鑑定結果を壁面に照射表示させていただきます』
「(うんっ)」
名称:イオリ 年齢:15歳 種族:ハイエルフ 性別:女性
HP:1 MP:120
筋力:3
防御:1
敏捷:10
器用:6
魔力:15
所持スキル
【自動復活】【物品創造(未設定)】【共用言語】【エルフ言語】
【一般教養レベル2】
「………なにこれぇえええええええええええええええええええっ!?」
やっと身体に慣れて出せるようになったイオリの声は、ものの見事に『少女』の可愛らしい声だった。
次回、イオリはどんな姿になったのでしょう? とりあえずはご飯とお風呂ですね。
まだ数話しかあげてないにもかかわらず、ランキングに載せていただきました。
これを期待値であろうと考え、頑張っていきます。
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