39 祖母でした
「急げっ! 奥から3体」
「こっちは任せろっ」
「『ЛЙ』ッ!」
スバルの竜魔法であるファイヤブレスで三体のスライムは数秒で燃え尽きた。
すでに全員がスライムの核である魔石を回収しようとは思わず、時間最優先での駆逐を繰り返している。
イオリ、エルマ、カティアの三人が、廃坑から続くダンジョンに消えてから、すでに四時間が過ぎていた。
廃坑が先にあったのか、ダンジョンが先にあったのか分からないが、隣接したダンジョンに落ちていった彼女達の後を追ってみると、そこには消えそうになっていた魔法陣のみが残されていた。
慌ててそれに触れるようなことはせず、オリアが調べてみた結果、魔術師であるカティアが居ないので細かいことは分からなかったが、転移の魔法陣ではないかと思い当たった。それが罠であるのなら、同じ魔法陣に飛び込んでも、彼女達と同じ場所に転移する可能性は低い。
オリア達は多少の焦りを感じつつも話し合う。これが他のメンバーならば多少は余裕があるのだが、今回は罠に掛かった面子が悪すぎた。
カティアはオリアがスカウトしてきた魔術師で、成人したてだった為に他のパーティに参加したことが無く、柔軟性に欠けていたが、魔術に関しては才能に溢れており、今ではパーティに欠かせない人材だ。
エルマはイオリの『お守り』として依頼したブロンズクラスの外部要員だったが、オリアは彼女の冷静さや機転が利く応用力の高さを、以前から注目していた。
イオリはスバルを引き止める為の『餌』だと他の面子は考えていたが、オリアはイオリに特殊なスキルがあると見抜いており、いざという時の切り札に使えるのではないかと考えている。
将来的に鍛えたいと思ってはいるが、だが現時点では不安要素しか見あたらない。
特にカティアがイオリのことを乙女心的に良く思っていないことは、スバル以外の全員が気付いていた。
スバルからすると、カティアは歳の近い『同性』の友人と言う認識しかなく、カティアのアタックも女子校的なスキンシップの一種だと思っていた。
女子校のお姉様的なアレな展開もそれはそれで有りなのだが、問題はスバルはお姉様系ではなく王子様系だったので、前世の女の子時代のスキンシップも、かなりマジな娘もいたので慣れきっていたのだ。
話は逸れたが、要するに、あの三人娘ではダンジョンから脱出出来る可能性は低い。その結論に達した時、彼らは青い顔で急遽ダンジョン攻略に乗り出した。
転移の魔法陣は幾つか見つけたが、それらは使わずに正攻法だけで進んでいった。
スライムは面倒な相手だが、魔石を砕くことに躊躇しなければ、スバル達はさくさく進むことは出来る。
普通のパーティならともかく、あの三人では数時間だけでも全滅の危険があったので早めに合流する必要があった。
だがそれでも奥に進むには数時間掛かった。
「……イオリ」
スバルは心の中で(あの子はもぉっ、バカなんだからっ)と弟を心配する姉のように愚痴を言いながらも、か弱い女の子であるイオリを心配する男の心境も同時に感じてしまい、かなり混乱していた。
竜人であるスバルが自重もせずに進んだせいで、数時間後にはダンジョンの奥に到着する。
「待てスバルっ、一度態勢を整えてっ」
休憩無しの強行軍で、オリアやスバルはともかく、女戦士のパオラとレンジャーのフーゴは肩で息をしている。
「みんなは待ってて。先に行く」
「スバルっ!」
オリアの制止を振り切り、スバルは奥の扉を開けて単独で突入していった。
稼働しているダンジョンならマスターが居る可能性がある。マスターが居るのならボスクラスのモンスターも居るかも知れない。
そうなると魔術師が居ない現状では危険だとオリアは判断したが、スバルは止まらなかった。
「イオリっ!」
そこには、………ダイニングテーブルで食事をしていた三人娘が、飛び込んできたスバルに驚いた顔で振り返り、その向かい側にいた老婆が声を上げる。
「おや、スバルかいっ」
「え……お祖母ちゃんっ!?」
***
「どういうこと!?」
スバルは簡単な説明を聞いても理解できず、死んだはずの祖母に詰め寄る。
すっかり動転して口調が戻ってしまっているが、言葉遣いが荒れていたので、ギリギリ女言葉にならずに済んでいる。
「スバル……落ち着け」
すぐ後から突入してきたオリアも、少々頭痛がしたように溜息を吐きながら、出されて食事を戴いていた。
「失礼、シードさん。あなたがここのダンジョンマスターではないのですね?」
「ええ、オリアさん。私のダンジョンはずっと向こうですよ。孫達が大変お世話になりました」
「それが良いんですが……」
「本当にお祖母ちゃん?」
「……みたいだよ」
唖然とするスバルに、隣に座ったイオリも困った顔で頷いた。
二人の祖母であるタネは、両親から五年前に死んだと聞かされていたが、実際は行方不明で、さらには異世界に『勇者』として召喚されていたらしい。
色々スキルは手に入れて強くなったが、勇者でないタネは城を飛び出し、魔導具職人シードとして気ままな生活を送っていた。
それからハナコ達と愉しく生きていたのだが、そこをハッコーの勇者に襲撃されてアイテムを奪われたタネは、怒り心頭でダンジョンを出て勇者を追いかけて今に至る。
その途中でこのダンジョンに来たのは、ダンジョンマスター組合で話題になっていた珍味を食しに来たらしい。
「……美味しいな」
「……うん」
スバルやイオリ達は、クラゲの中華風サラダのような物をご馳走になっている。
珍味とはここのスライムで、お湯で煮ると縮んで、クラゲそっくりの食感になると言う話だった。
「……ここのスライムは止まるのですか?」
「問題ありませんよ。前に来た誰かがスイッチ切り忘れていったみたいだねぇ。一昨日止めたからあと数日で消えるはずですよ」
タネが優しい顔で頷くと、全員から力が抜けるような溜息が聞こえた。
このダンジョンは太古の昔から存在している、食スライム工場だった。
何の為にそんな物を作ったのか分からないが、マスターは存在せず、言葉の話せない単純な性能のコアがずっと管理している。
転移の魔法陣も、元々は各国に『出荷』用の機能だった。
ここはダンジョンマスター組合が管理している秘密の場所なので、出来れば壊さないで欲しいと言うタネの言葉にオリアも渋々了承する。
本当は良くないのだが、ダンジョンマスター組合は人間社会とは関係なく、伝説級の魔物も組合員として登録しているので、敵に回すとやっかいなのだ。
「でも、よく私達だって分かったよね……」
「ホントだよね……」
地球に居た頃とはすっかり変わった二人なのだが、タネはすぐに自分の孫だとわかったらしい。
「あんた達のばあちゃんだから、分かって当たり前だよっ。二人ともちょっとこっちに来ておくれ」
「「………」」
昔から色々とやらかしてきた祖母に呼ばれて、二人は軽く顔を見合わせてから後を着いていくと、隣の部屋で振り返ったタネは唐突にこう言った。
「あんた達、今は冒険者だね? じゃあ、勇者抹殺の依頼なんてどうだい?」
慌てて書いたので、後日修正するかも。
現在忙しくて、次回は週末になりそうです……




