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37/62

37 今回は本当に少女だけのパーティです

 まだ若干真面目です。

 



 ブン……

 

 むにゅ……。どこかに落ちたらしいとは理解していたが、イオリが最初に感じたのは顔面を包み込む柔らかな感触だった。

「きゃぁああああああああああああっ! 何すんのよっ!?」

 バチンっ!

 

 ブン…… 【Record reading.】

 

「うぷぅ」

「きゃぁああああああああああああっ!? 何すんのよっ!?」

 どんっ。

「けふっ」

 いきなり胸元で吐きそうになっているイオリに驚いて、カティアは思わず突き飛ばしていた。

 どうやら最初に落ちた時、カティアの上に落ちて彼女の膨らみがクッションになってくれたらしい。そうでなければHPが1しかないイオリは落ちた時点で死亡し、落ちる前に戻って警告出来たはずなのだが、ギリギリ助かった時点でまた【自動記録(オートセーブ)】が発動してしまったようだ。

 その直後にカティアの平手打ち一発で【自動復活(オートリバース)】のお世話になったが、今回は突き飛ばされただけなので助かった。

 

「あ、あんた、なんでっ」

 真っ赤な顔で混乱したように胸元を押さえていたカティアは、尻餅をついているイオリを睨み付けて片手を振り上げる。

「ひっ」

 バシッ!

 また平手打ちかと女性から暴力を受けることに慣れていないイオリが思わず目を瞑ると、音は聞こえたが痛みはやってこなかった。

「あんたが何やってんのっ!?」

 そっと目を開けると、振り上げた手を掴んだエルマがカティアと睨み合っている。

「放しなさいよっ、私はこいつに胸を、」

「はぁ? イオリは女の子でしょ!? 自分で何を言ってるのか分からないの!?」

「……え、あ、……そ、そうね」

 カティアは自分が何で怒っていたのか分からなくなり、下を向く。

 スバルと仲が良いイオリに苛立ちを覚えていたのは確かだが、カティアだってこの状況がイオリのせいだと思ってはいない。

 それがどうしてイオリを叩こうとしたのか? 胸に感じたイオリの反応や微かな仕草に、まるでイオリが『男の子』のように感じてしまったのだ。

「……分かったわよ、放しなさい」

 乱暴にエルマの手を振りほどくが、今度はエルマも素直に手を放した。

 エルマもこのままカティアがイオリに難癖を付けるようなら、この原因を作ったカティアを責め立てようと思っていたが、何もしないならそれ以上言うつもりはない。

 この状況では仲違いするのは得策ではないと、エルマは冷静に判断していた。

 

「まず、ここがどこか(・・・)ってことよね?」

「う、うん」

「……そうね」

 

 周りは石造りの小部屋のようで、それがさっきまで自分達が居た廃坑ではないと教えてくれる。

「まさか……ダンジョン?」

「は? 何でいきなりダンジョンなのよっ? 私達は廃坑にいたのよ!?」

「さぁ? 廃坑と繋がっていたんじゃない?」

「そんな……でも、私達は落ちたじゃないっ」

 彼女達は地面が崩れて落ちたはずなのに、天井には穴が開いていなかった。

 そんな訳の分からない状況でもエルマは落ち着いていて、カティアはそんなエルマの態度に苛立ちをぶつける。

「ねぇっ、これ見てっ」

 そこに空気を読まないイオリから声が掛かる。

「何か見つかった?」

「ちょ、」

 あっさりカティアの相手を止めてイオリの所へ向かうエルマに、カティアは言葉に詰まりながらその後を追いかけた。

 

「うん、これたぶん、魔法陣だと思う」

「魔法陣? 何か分かるの?」

「ちょっとどきなさいっ、私が見てあげるわっ」

 イオリを押しのけるようにカティアが前に出て、軽く突き飛ばされたイオリを片手で受け止めたエルマはカティアを睨むが、やっと汚名返上の機会を得たカティアはそれに気付かない。

 イオリはカティアよりも、エルマが静かに怒っていることに怯えて、身振り手振りで懸命にエルマを宥めていた。

 イオリは気付いていなかったが、地球に居た頃のイオリは周りの男子よりも小柄で幼く見えていた為に、同級生や下級生も含めて女性に可愛がられていたので、周りの女性達はイオリの前で争ったりすることもなく平和だった。

「(何なのこれぇ……)」

『イオリ様は悪くありませんから大丈夫ですよ』

 初めて見る女性同士の争いにおたおたするイオリに、ハナコも当たり障りのないことしか言えない。

 

「何これ……こんなの見たことない」

 魔術師である自分の見せ所だと自信満々に魔法陣を覗き込んだカティアだったが、それはカティアの知識には無いものだった。

「領域変換……ううん、そうじゃなくて、力場が…」

 

 ブツブツ言っているカティアの声を聴いていたハナコは、自分の本体にアクセス出来ないダンジョン内で推測を立てる。

『もしかして移動系と言うことでしょうか?』

「(移動……)あっ!」

 

「イオリ?」

 突然声を上げたイオリにエルマが振り返ると、イオリは思い付いたことを何も考えずに口にする。

「もしかして転移系の魔法陣なんじゃない?」

「……ああ、なるほど」

「……何であんたが、そんなこと分かるのよ」

 足場が崩れた先に、偶然、転移の魔法陣があってここに飛ばされた。

 エルマは魔法の知識がないので、辻褄が合うイオリの言葉に素直に頷いたが、その推測に辿り着けなかった魔術師のカティアは不機嫌そうにイオリを睨む。

「え、えっと……昔、そんな物語を読んで…」

 イオリも何も無い状態で思い付いた訳ではない。

 地球に居た頃、スバルから借りた本で、確か無職の男性が転生する物語でそんなダンジョンがあったのを思い出しただけだ。

「そんなので当てになるのぉ?」

「………わかんないけど」

 カティアも言われてその可能性があることを理解したが、つい感情的になってイオリに辛く当たってしまう。

 

 パンパン。

「はい、それじゃ、転移系だと仮定してどうするか考えましょう」

 手を叩いて注目を集めたエルマが、不毛な争いを止める。

「ちょっと、何であんたが仕切ってるのよっ」

 そして計算通りにカティアの憤りを自分に向けさせると、エルマは表情すら変えずに淡々とものを言う。

「ここでグダグダしてても仕方ないでしょ? 早めにオリアさん達と合流しないといけないんだから」

「それはっ、……そうなんだけど、何であんたが仕切ってるのかって言ってるのよっ。あんたはブロンズでしょ。私はシルバーランクなのよっ」

 

 しかもカティアは18歳。エルマは17歳で、イオリは16になるまで後数ヶ月はかかる。この三人では実力的にも一番上だと思っているカティアは、エルマの指揮下に入るのを許容出来なかった。

 だが、

 

「そうね、じゃあカティア、どうするの?」

「え、……その」

 

 あっさり指揮権を渡されて、カティアは自分が何も考えていないことを自覚した。

 カティアは冒険者としては中堅以上であるシルバーとは言っても、成人直後からオリアに才能を認められて、オリアの言う通りに動いていただけだったので、単独で行動することなど一度もなかった。

 決められた行動内……パーティの魔法使いとしてなら、いくらでも自分のやることを決められたが、そこから一歩でも離れると何をして良いのか分からなくなる。

 

「とりあえず行動指針だけでも相談させてくれない?」

「……わ、わかったわ」

「………(ほっ)」

 何とか纏まったのを見てイオリが横でホッとしたように息を吐く。

 元男の子としては情けない限りだが、さすがにこの状況で自分が口を挟むとややこしくなるだけだと、おバカでも分かった。

 

「それじゃ、カティア。あの魔法陣が転移系だと仮定して、あれを使えば元の場所に戻れると思う?」

「……正直言って分からないわ。あれが罠だとしたら、戻れない可能性が高いと思う」

「単純にダンジョン移動用と言う可能性は?」

「それだったら、戻れると思うけど……それなら、重要な施設に飛ぶと思う」

 少なくともこの小部屋にそう言う物はない。

「なるほど。ねぇイオリ。その物語ではどうだったの?」

「へっ!?」

 自分に振られると思わず暢気にしていたイオリが素っ頓狂な声を上げると、思いっきりカティアに睨まれた。

「えっと……確か、ランダムだったような……」

「それは完全に罠ね。これが罠でランダムだとすると、待っていてもその魔法陣から助けが来るとは限らない。移動用ならこの近くに重要な施設がある。だったら、まずはこの近辺の探索をしてみない?」

「………」

「………」

 

 カティアはエルマのあまりに冷静な状況判断を聞いて、ポカンと口を開けていた。

 イオリはエルマの言葉と姿に、キラキラした瞳を向けている。

「(エルマさん、格好いい…)」

『……なんと言いますか、ずいぶんと『男前(・・)』な方ですね』

 エルマは意図していないが、もしかすると、スバルやその他のイオリを狙っている人達の、一番のライバルはエルマかも知れない。

 強いお姉様に憧れる、年下の少女(男の娘)……。これはこれで有りだ。

 

 カティアからも文句はなく、三人の行動指針はそれで決まった。

 先頭は唯一の前衛で、レンジャー系のエルマ。真ん中には魔術師であるカティアを置くため、エルマも不安だったが最後尾はイオリと言うことになった。

 小部屋もそうだったが通路に出てもほんのりと明るく、ランタンが必要なほどではない。その為、イオリを明かり持ちにする必要が無くて良いように思えるが、それはつまり、このダンジョンを管理する者が居ると言うことだ。

 

「ダンジョンマスターがいるかもね」

「い、いるとどうなるの?」

「友好的かどうかで変わるわ。私もダンジョンマスターは会ったこと無いけど」

「……私もないわ」

 

 ダンジョンに必ずマスターが居るとは限らない。

 この世界ではハナコが居たシードのような国家に届け出をしているほうが少数派で、居ないダンジョンのほうがずっと多いのだ。

 居たとしてもそれが人間だとは限らず、知恵のある魔物……特に吸血鬼とかならほぼ間違いなく男性経験のない三人の少女を襲ってくるだろう。

 下世話な話になるが、魔物などが生け贄を求める時、乙女(・・)を求めるのには訳がある。

 現実の話に例えると、食肉で一番美味しいのは、産まれたばかりの子供か、子供を産んでない若い雌の個体だと言われており、それをファンタジーで言うと生々しいので、乙女としているだけだった。

 

「前方、20メートル。スライムよ」

「………うん」

「あのスライムは、やっぱり、このダンジョンから流れていたのかしら」

 

 逆に廃坑からこちらに流れた可能性もあるが、現実的に言えば廃坑にスライムが無限湧きするよりも、そう考えるほうが妥当だ。

 そうなると、この探索は依頼された調査にも繋がる。

 

「イオリ、弓で先制して。核を回収なんて考えずに砕いて良いから」

「う、うんっ」

「私の魔法で焼いたほうが良いんじゃないの? その子の弓じゃ当たるかどうか…」

「そうね、イオリの弓は命中補正があるけど、たぶん命中率は低いと思う」

「だったら…」

「この先、何体居るか分からないから、MPは温存したいのよ。カティアだって結構魔法使ったでしょ? イオリが外したら初級の火魔法で焼いて。そうしたら、私が突っ込んで核を砕くから」

「……わかったわ」

「それじゃ、弓を撃つね」

 

 何となく纏まってきた簡易パーティにウキウキしながらイオリが弓を引き絞る。

 くそエイムと定評のあるイオリでも、芋砂をやらせればそれなりに当たる。

 しかも持っているのはシードが作った命中補正のある魔力弓なので……

「ねらい撃つっ」

「……なにそれ」

 ひゅんっ、と若干山なりに飛んでいった矢は、命中補正の影響でものの見事に小さな核に命中した。

「当たったっ」

「まだ動くっ、カティアっ」

「ファイアボルトッ」

 子供の練習用の弓なので、一撃で核を砕けなかった。

 その後にカティアの放ったファイアボルトが、スライムを焼くと言うより、突き刺さった矢に衝撃を与えてスライムの核を砕いた。

 

「「やったっ」」

 でろでろと広がって動きを停めるスライムに思わず…と言った形で、イオリとカティアが笑顔を互いに向けて……

「……ふ、ふん」

 カティアは少し気まずそうな顔でイオリから顔を逸らした。

「「………」」

 その様子にイオリはどうしようかとエルマを見て、エルマはわずかに苦笑する。

「それじゃ、もう少し先に進むわよ」

「うんっ」

「………うん」



 

 思ったより長くなって途中切り。


 次回、三人娘の冒険の続き。

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― 新着の感想 ―
感情的すぎるし抑えも効かない パーティーリーダーが甘やかしすぎた結果がこれ
すぐキレるカティア………。 冷静さのない魔法使いとか、恐いわ~。前回の様子を見るとフレンドリーファイア上等!とかいってそうだ。
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