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34 パーティのお誘い

 



「イオリ。君をうちのパーティの臨時メンバーに加えたいのだが、どうかな?」

「……へ?」

 オリアの突然の申し出に、イオリの箸から酢豚のお肉がポトリと落ちた。

 

 その日、イオリはスバルからパーティメンバーを紹介したいと言われて、彼らの食事会にお邪魔していた。

 どうしてお呼ばれしたのか分からなかったが、高級レストランでの奢りだと聞かされて、イオリはあっさりと疑問を忘れる。

 それと言うのも、この異世界『テス』では異世界人が色々文化を広げたために、大抵の物は揃っているが、大抵は高価な物だった。

 最初イオリはこの世界でお金を稼ぐために、所謂『知識チート』をやってみようかと考えていたのだが、今までに来ていた異世界人達によって、それらはほとんど試されているらしい、とハナコに聞かされる。

 高校生のイオリでも思い付きそうな、プリン、マヨネーズ、ケチャップ、とんかつ、ハンバーグ、ホワイトソース、カレー、ラーメン、自然酵母のパン、その他諸々、全て街の商店で買うことが出来た。

 カメラや魔石を使った冷蔵庫や扇風機などの魔道具も、すでにハナコのマスターであるシードの商品に含まれていた。

 この世界の住人も物語のように無能ではないので、イオリの知識で自信のない、植物紙や輪作農業などはすでに実用化されている。

 要するに異世界人がもたらすほとんどの文化はすでに実験済みの『知識チート終了』した世界なのであった。

 

 話は戻るが、それらは地球の流通と消費量、そして生産力があってこそ安価で手に入る物で、この世界では新鮮なミルクを街中で飲もうとすると、同量のワインよりも高価になる。

 イオリは食堂で働いているのでそれなりに食生活は充実しているが、ジャンキーな食べ物や新鮮な物はそれほど食べられない。

 新鮮な物が高価になるので、素材を重視した『和食』がこの世界で受けが悪いのも当然のことなのだろう。

 そう言う訳で、イオリは地球の食べ物に飢えていた。

 そこにスバルから、この世界でも受け入れられている『中華料理』の高級店に誘われたので、お菓子で誘拐される幼児のようにほいほい付いていったのである。

 高級店と言っても流通が限られているので、日本の百貨店に入っている客単価3000円程度の中華料理屋だったが、イオリにはそちらのほうが馴染みが深いのでありがたかった。

 

 少し広めの個室に通され、すでに集まっていたパーティメンバーと自己紹介をしてから、食事会が始まった。

 一度、イオリが違法奴隷組織から救出された時に顔を知っていたし、レンジャーの男性は偶に『鮮血の憩い亭』にも来てくれるお客さんだったので問題はなかったが、魔法使いの少女だけがスバルの隣に座るイオリをとんでもない目付きで睨んでいた。

 そんな中で世間話をしながら久しぶりの地球の味を愉しんでいたところ、冒頭の台詞を聞かされたのである。

 

「私は反対ですっ!」

 ダンッ、と、両手でテーブルを叩くように立ち上がってそう言ったのは、先ほどの睨んできた17~8歳の少女だった。

「……カティア、騒がしい」

 皿から料理が落ちそうになって不機嫌な顔になった女性が、魔法使いの少女…カティアを窘める。

 少し短めの銀の髪で、落ち着いた感じの二十代の女性だが、彼女の職業は戦士で、今は普段着を着ているが肩の部分が筋肉で盛り上がっていた。そして胸の部分もかなり山盛りだ。

「だってパオラっ、」

 カティアはその後に何かを言おうとして口籠もる。

 その理由を知っているパオラはリーダーのオリアに視線を移すと、一瞬だけイオリを見てから落ち着いた調子で彼に尋ねた。

「この子……かなり普通(・・)の子に見えるんだけど、私も理由が聞きたいな」

 

 イオリはイオリで、言われたことが上手く理解できずに唖然としていた。

 スバルが居るパーティーは、このキリシアール国でも12人しかいないゴールドランクの冒険者が率いる上位チームだ。

 イオリだって元は男の子だから冒険者に憧れはある。だが、数度の冒険で自分の実力は女の子であるエルマにもまったく及んでいないのを知っていたので、上位チームからのお誘いには困惑しか感じなかった。

「………」

 そんな固まっているイオリを見て、隣のスバルがイオリを持ち上げて自分の膝に乗せたが、反応したのはイオリではなくカティアだったりした。

 

「そうだな…」

 リーダーのオリアは、そう言われるだろうと分かっていたので、女性二人に軽く頷くと静かに話し始める。

「半年前まで俺達は6人パーティだった。今は5人だ。何故だ?」

「………それは、メンバー二人が他のパーティに引き抜かれたから」

 パオラはオリアの意図が分からなかったが、とりあえず事実を答える。

 スバルが入る前にあと二人……戦士と精霊使いが居たのだが、やはり人数が少ないと危険が多くなるので、誘われた他のゴールドランクのチームに移ってしまった。

 それが悪いとは言わない。人数が多いチームは分け前も少なくなるが、その二人は金よりも安全を選んだのだ。

 だが、人数が多くなることで強い魔物を討伐する機会が多くなるので、失った金銭に見合うほど安全かどうかは分からない。

「うちは少数精鋭だ。少ないからフットワークも軽く、馬車なども問題なく使える。それでも他のパーティと同じ戦力を整えようとすれば、強い個人が必要だ」

「……この子が強いの?」

 またパオラに視線を向けられて、イオリは思わず身を竦める。

「スバルのことだ。スバルは一人で、抜けた二人分を補ってあまりある戦力になってくれた」

「スバルが来てから、戦闘は楽になった。それと何の関係が…?」

「スバルの家族と呼べる者は、このイオリだけなんだ。それなら一緒に入れたほうが、スバルも安定すると思ってね」

「ああ、そう言うこと。ならいいよ」

「パルマっ!?」

 あっさり認めてしまったパルマに、カティアが批難めいた声を上げた。

「だってその子、…ハイエルフでしょ? 王都に置いていっても安全じゃないしね。それに精霊魔法使いなら居てもいい」

 しかもイオリがハイエルフだと、意図的ではないとしてもバラしてしまったのは、このパーティなのだと気付いて、カティアの勢いが少し落ちる。

「そりゃあ、魔法はもっと欲しいけど……、ねぇ、フーゴ、あなたは?」

「俺か? 俺がイオリちゃんに文句あるはずがないだろ?」

「…………」

 レンジャーのフーゴの言葉に、カティアは反対しているのが自分だけだと分かって唇を噛む。

「でも、その子が来ても足手まといじゃないのっ?」

「それで聞きたいことがあった。イオリ」

「は、はいっ」

 オリアに名前を呼ばれて、イオリが慌てて返事を返す。

「君は……特殊なスキルを持っているね?」

「………!?」

 

 内緒にしていたスキルのことを言われて、イオリの心臓が一瞬飛び上がる。

 ハナコからはイオリのスキルは特殊すぎる上に危険なので、出来るだけ人に話さないように注意されていた。

 どうしようかと悩むイオリに、オリアは優しく微笑んである提案をする。

 

「もちろん、他人のスキルを詮索するのは、パーティ内でも御法度だから聞いたりはしないけど、どうだろ? 一度お試しに一緒に出掛けてみない?」



 

 

次回、流されてスバルのパーティでのお出掛け……までいきたいです。

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