33 【閑話】 女騎士リリーナ・スカシテル
キリシアール国、第二騎士団副団長リリーナはエルフである。
この国どころではなく大陸全般でエルフは引き籠もっているので、この国でエルフの数は少なく、エルフの騎士となると彼女だけだった。
まずこのキリシアール国には4つの騎士団がある。
第一騎士団はこの国の主戦力であり、騎士としての顔でもあるので、上級の装備を支給され、日々厳しい戦闘訓練に明け暮れていた。
そして第二騎士団はその第一騎士団の予備である。第一騎士団が戦場に立つ場合は、その隙間を埋め、バックアップをすることも求められていた。
第三騎士団は、地方の外周を護る騎士団で、地方の領主に仕える騎士は自動的に第三騎士団に配属され、普段は領主の命令で動き、外敵が攻めてきた時は王都にいる第三騎士団団長の指揮下に入る。
第四騎士団は、都市の兵士達と連携し警察のような仕事をしている。戦火が都市部にまで迫れば騎士として戦うが、それ以外は街の住人を護ることが一番の任務だ。
説明文を読んでいただければ分かるかも知れないが、一番忙しいのが第四騎士団で、一番危険なのが第三騎士団で、花形のエリートが第一騎士団である。
そして第二王太子が病死して王都の騎士達が忙しく動いている中でも、比較的暇なのが第二騎士団なのであった。
そんな第二騎士団とは言え、エルフであるリリーナが騎士になったのは訳がある。
リリーナが生まれたのは小さくも大きくもない、ごく普通のエルフの集落だった。
人間から見たエルフは、寿命が長く、見た目も良い種族で、そのせいか気位が高いように思われることもあるが、実際はそんなことはない。
長い寿命を持つせいか、のんびりとしていると言うか、はっきり言ってしまえば怠惰であり、『大丈夫、明日から本気出すから』とダラダラ生きている者も多い。
一般的な『気位が高い』と言う印象は、だらけた生活のしすぎで対人コミュニケーションが苦手となった為に勘違いされるのだ。
そんなエルフ達でも熱狂的になることがある。
それはエルフ種の原種と言われる『ハイエルフ』の事で、種族的なハイエルフはほとんど見なくなってしまったが、エルフ同士の交配により、先祖返りで希に生まれてくるハイエルフは、エルフやダークエルフにとって芸能人のような存在だった。
そんな中で生まれ育ったリリーナも立派なハイエルフマニアとして成長した。
エルフとハイエルフの見た目の違いは、成長速度や耳の長さ、肌質の違いなどがあげられるが、リリーナは幼い頃より父や親族が集めたハイエルフの文献を読みあさり、ハイエルフを見分けることにかけては集落で一番だと自負していた。
だが、そんなリリーナでも勝てないことがある。
集落には一人のハイエルフも居らず、大人達はリリーナが生まれる前に立ち寄ったハイエルフに出会ったことを事ある毎に自慢してくるのだ。
そこでリリーナはこう考えた。
「そうだ。ハイエルフに会いに行こう」
リリーナ十五歳の春のことである。
突発的に集落を飛び出てきたリリーナが目指したのは、一番近い人間の国であるキリシアールの王都だった。
人間の成人は十五歳だが、エルフの成人は三十歳である。基本的にそれまでは集落から出るエルフは稀なために、十五歳のリリーナは当然のように違法奴隷商人に捕まって売られそうになったが、運良くキリシアール国の騎士団が捕縛のために動いており、傷物になる前に救い出された。
リリーナは騎士達と共に王都へ向かう途中、衝撃の事実を知らされる。
なんと、王都の王宮にいる宮廷魔術師のエルフの女性が、ハイエルフではないのかと噂があるらしい。
リリーナの夢はハイエルフのお嫁さんであった。それはエルフ全体がそう望んでいると言ってもいい。
幸いなことに長い寿命を持つエルフは性的に大らかだったので、同性婚も認められていたから、嫁に貰うのでも良かった。
仕事から帰ってくると、可愛らしいハイエルフの『嫁』が裸エプロンで出迎えてくれるリリーナの夢を誰が笑えるのだろうか。
それほどまでにハイエルフを愛しているリリーナは、騎士にその宮廷魔術師と会わせて貰えるようにお願いしてみるが、一般人には無理だとあっさり却下される。
だがリリーナは諦めなかった。
どこから出てくるのだと思えるほどの無駄な行動力を発揮したリリーナは、そのまま騎士に頼み込んで城の仕事が貰えないか頼み込んだ。
ここでも普通なら却下される場面だが、運はリリーナに味方する。
中身はともかく外見は良いリリーナなので、若い騎士はリリーナを自分の近くに置いて、いづれはそう言う関係になることを考えていたからだ。
特にエルフは見た目がずっと若いので、人間の少女しか愛せないある種の性癖の男性からは人気があった。
だが若い騎士はリリーナに、王宮で働いても宮廷魔術師と会える場所まで行けるのは貴族出身の侍女だけなので、女性騎士として立場をあげるしかないと伝える。
キリシアール国でもそうだが、王族や貴族の女性を護衛する場合があり、女性騎士はある程度必要になる。
それにエルフと言えばレイピアを持って精霊魔法で戦う『呪われた島の永遠の乙女』と言う異世界の勇者が広めた伝説があったので、若い騎士達はそれを信じている者もいたのだ。
そうしてリリーナは騎士見習いとして養成所に通い、数年後ようやく騎士の資格を得たが、その配属先は王都ではなく、国の外周を護る第三騎士団であった。
リリーナは頑張りすぎたのだ。
少ないエルフの体力をカバーするために精霊魔法を鍛えたため、その実力を認められて、一番魔物が出る場所に配属されてしまった。
それでもそこは一番手柄を立てやすい場所でもある。
リリーナはハイエルフに会うためにさらに頑張って仕事をした。
まだ十代のエルフ少女であるリリーナは騎士からモテモテだったが、彼女の気持ちは常にハイエルフに向いており、まだ見ぬ宮廷魔術師の女性への想いに溢れていたので、全ての誘いを断った。
さらに数年が経ち、リリーナは数人の部下を従える隊長にまで出世したが、王城へ出向いても上級エリアの立ち入りは出来なかった。
どうやら王都にある騎士団に配属され、そこで成り上がり上級騎士にならないと上級エリアへ入ることが許されないらしい。
そこでリリーナは第一騎士団に転属願いを出したが、そこは貴族の子息やエリートばかりで、女性でエルフであるリリーナは審査もなく却下される。
だがリリーナは根性で抜け道を見つけた。
花形とは程遠く、一般団員も上級騎士ではないが、同じ王都にある人気のない第二騎士団ならリリーナでも入る事が出来て、そこで副団長以上に出世すれば上級騎士として扱われるらしい。
さらにまた数年後、10年の歳月をかけてようやく副団長になることが出来た。
周りの騎士達があまりやる気がなかったことが幸いし、たった10年でその地位まで昇れたのだ。
並大抵の苦労ではなかったが、恋も青春も遊びも全て切り捨ててやってこれたのは、ひとえにハイエルフへの愛故だった。
だが、ようやく遠目からでも、あの王宮魔術師の女性エルフを見る機会に恵まれたリリーナはその場で硬直する。
「……ただのロリバ○ァじゃないのっ!」
そう……ハイエルフと噂があったその女性エルフは、発育不全の若作りエルフだったのだ。
リリーナは大荒れに荒れたが、過ぎ去った時は戻らない。
その時のリリーナの年齢は三十一歳。エルフの集落なら成人して間もないまだ小娘のような年齢であり、リリーナは諦めか自棄になったのか、人間の男性を伴侶にして生きることにした。
だが、そこでも運命はリリーナを翻弄する。
見た目は二十歳そこそこのリリーナであるが、人間の若い男性騎士達はそのリアルな年齢に引いてしまい、恋に発展することがなかったのだ。
あの二百歳を超えているロリバ○ァには憧れの視線を向けるくせに、三十一歳のリリーナが見向きもされないとは思わなかった。
「ちくしょう……男なんて」
そう呟いて酒を飲むリリーナの姿が見られるようになったのは、その頃からである。
それから三年……王都にあるほとんどの酒場でそんな醜態を晒していたので、さらに男から遠ざかっていたリリーナは、久々に立ち寄った『鮮血の憩い亭』である人物と出会うことになる。
黒髪のエルフの少女……イオリ。
まだ幼いとも言える外見の少女を見た瞬間、彼女がハイエルフだと一瞬で見抜いた。
憧れのハイエルフ。年甲斐もなくドキドキして上手く話しかけることも出来なかったが、リリーナは仕事をサボってでもイオリが働いている時間に通う常連となった。
イオリはまだエルフとして幼いせいか、まるで少年のような言葉遣いと行動で、リリーナを魅了していった。
ただサボりすぎて、団長に仕事を押し付けられている間にイオリの誘拐騒ぎなどもあったが、その後、彼女と何とか仲良くなることが出来た。
後はイオリを『嫁』にするだけなのだが、そこで問題が発生する。
イオリと兄妹同然に育った『竜人』……スバルの強さとその女性のような美青年ぶりに心を揺らされてしまったのだ。
そして今日も、イオリとスバルのどちらを『嫁』にするか悩みながら、またリリーナの『鮮血の憩い亭』通いが始まる。
次回から、ようやく本来の目的を思い出します。




