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27 墓場のピクニック

 



 さて本日はエルフの女騎士リリーナとピクニックである。

 それで最近本職がウエイトレスになりつつあるイオリが、雇い主の娘であるエルマに休むことを伝えると。

「あ、それなら私も行くわ。……不安だし」

「………はい」

 看板娘が二人とも居ない事で、代わりに注文を取るエルマの兄のカミルが客から文句を言われたが、それはどうでもいい話で、女の子三人は揃って出掛けることになった。

 ちなみにイオリ十五歳。エルマ十七歳。リリーナ三十四歳。

 誰がなんと言おうと女の子達である。

 

 話を聞けば男性陣も付いて来たがったであろうが、イオリはピクニックだと思っていたので特に話してはいない。

 話そうにも、ヴェルは自分のパーティで冒険に出掛けてるし、ディートリヒはさすがに城の仕事を押し付けられ、スバルが所属するパーティは現在近場のみの依頼に切り替えて、今は王都から近くの村に出掛けていた。

 後で知られたら心配したスバルに“お仕置き”されるかも知れないが、今のイオリにそんなことは頭になかった。

 

 目的地である墓地は、王都から出て徒歩二時間程度の所にある。

 近くにはお花が咲き乱れる場所もあり、王都の住人からすれば、お墓参りのついでにピクニックをするのが定番になっていた。

 そこにゾンビが現れるまでは。

 

「エルマさん、何処でお弁当にしようか?」

「え……、精霊魔法の確認に来たんでしょ?」

「そうですよ、イオリちゃん。精霊魔法を覚えるんですよ」

「うん……」

 何もイオリは素でボケている訳ではない。

 この墓場に来た時から【自動記録(オートセーブ)】が何度も発動しているのだ。

 基本的にイオリの命が危険な時は発動するのだが、HPが1しかないイオリだから、極端な話で言うと猫が側を通っただけでも発動する時があるので、何が危機なのか分からない。

 でも多分、今回は精霊の暴走だとイオリは考えて、やっと覚悟を決めた。

 

「それじゃ、何からする?」

「そうですねぇ。折角外に出たんですから土を試してみましょう」

 三人は現在、墓場近くのお花畑に居る。

 ピクニックと言ってもゾンビが居るかも…と聞いているので、三人とも私服ではなくフル装備であった。

 イオリはいつもの貫頭衣にマント姿で、ハナコに評判の悪いホットパンツではなく、お店の客にも評判の悪い長ズボンを穿いていた。

「えっと……土の精霊さん、ボクの声が聞こえたら出てきて下さい」

 イオリがそう精霊に呼びかけると、地面がもこっと盛り上がった。

 精霊が見えないエルマにはそう見えただけだが、エルフ二人には小人のようなおじさんが地面から顔を出したように見えた。

『…………』

「……えっと、」

『………チッ』

 土の精霊はイオリを上から下までジッと見て、舌打ちのようなモノをして土の中に帰ってしまう。

「……えっ!?」

「どうしたのイオリ、何があったの?」

「……おかしいですね」

 

 土の精霊はなかなか本気にはなってくれないが、精霊が見える者になら分け隔て無く力を貸してくれる。それが何故、イオリを見て戻ってしまったのか。

「リリーナさん……ボク、精霊に好かれてるって…」

「ええ、そうです。……そのはずなんですが」

 

 精霊に近いハイエルフであるイオリは、精霊に愛される傾向にある。

 特にこの近辺ではハイエルフの若い少女は数百年居らず、火や風や水の精霊は親戚の赤ちゃんを見たように撫で回しに来たのだった。

 だから頼めばお願いは聞いてくれる。

  ↓

 でも最初にイオリを愛でる為に抱きついてくる。

  ↓

 HPが1なのでその場で死亡。

 そんな流れになってしまっているようだ。

 

「もしかしたら、長年精霊使いが分からなかった、土精霊が本気にならない原因が分かるかも…」

「えええっ、ちょっと待って、それじゃボクは精霊魔法が使えないのっ!?」

「……今はたぶん」

「だったら光の精霊は?」

 沈んでいるエルフ二人に精霊魔法が使えないエルマが気楽な感じでそう言った。

「光の精霊って……」

「聖魔法の分野ですね。治癒魔法が使えますと便利ですよぉ」

「治癒魔法かぁ」

 いまいちイオリの反応が悪い。怪我をする=死亡のイオリにとっては、自分にまったく利点がないように思えたからだ。

「一応、やってみるよ。光の精霊さん、聞こえますか?」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………

 

「「「……え?」」」

 

 突然地鳴りのような音が聞こえると、イオリを中心に巨大な光が放たれた。

 

『……あ、イオリか。今、忙しいから後でね』

 

 イオリの耳に懐かしいあの『光の精霊』の声が聞こえた。

 でも仕事中に携帯を鳴らしたような感じであっさり通信が切れると、イオリのほとんどのMPを消費して、その意識は闇に包まれた。

 

   ***

 

「……イオリが居ない?」

 夕方の王都に戻ってきたスバルが『鮮血の憩い亭』に顔を出すと、宿屋の息子であるカミルがそう答える。

「ああ、うちのエルマや女騎士のリリーナさんと一緒にピクニックだってさ」

「ふぅ~ん」

 スバルは何でもなさそうに頷きながら、その額に青筋が一本浮かんでいた。

(あのバカッコは、何うろちょろしてんのよっ)

 心の中で思わず女言葉になりながら、スバルは足早に宿を出る。

 

 スバルがイオリに会いに来たのは、ただ顔を見に来たのもあるが、近くで事件が起きて緊急依頼が舞い込んできたからだ。

 もう夜になるが、スバルはすぐにも出掛けないといけない。

 何処に行ったのか分からないが、まだ戻ってきていないイオリを心配しながらも、スバルは自分を納得させる為に希望を口にする。

 

「……まさか、いくらイオリでも墓地にピクニックに行ったりしないよなぁ」

 

   ***

 

「……う…ん」

「あ、イオリ、目が覚めた?」

 イオリが目を覚ますと知らない小屋の中にいた。意識は消えたが【自動復活(オートリバース)】が発動したのではなくて、単にMPが切れて気絶していたようだ。

 軽い頭痛を感じながら身体を起こすと、眠っていたイオリを楽にしてくれたのか、マントとブーツとズボンを脱がされて貫頭衣だけの姿になっていたが、特に大きな不調は感じなかった。

 だいぶ女の子である事に慣れてきたのか、エルマやリリーナに服を脱がされたとしても何も感じていない。

「エルマさん、ここ……どこ?」

「ここは墓場にある休憩小屋よ。イオリ、何が起きたか覚えてる?」

「うん……光の精霊を呼んで…」

「リリーナが言うには、大精霊を呼んだのかも知れないって。でもMPを使い切る前に帰ってくれて良かったわ。完全に無くなったら数日は目覚めなかったからね」

「どのくらい寝てた?」

「数時間よ。暗くなったから朝まで待つつもりだけど、イオリが早めに起きてくれて良かった。さすがにイオリを担いで突破するのはきついから」

「……え?」

 

 会話が途切れると石造りの小屋の外から、壁を叩くような音が聞こえた。

 

 バタンっ! と外に通じる扉が開くとリリーナが慌てた様子で中に入り、扉の前にベンチを移動して扉を塞ぐ。

「リリーナ、どうだった?」

「ダメよ、エルマ。さすがにこう多いと……あ、イオリちゃん目覚めたのねっ」

「え…え? 何がどうなってるのっ?」

 イオリがそう尋ねるとエルマとリリーナが顔を見合わせて力なく笑う。

「えっとね……」

「ゾンビ百体くらいに囲まれちゃったっ」

「えええええええええええええええええええええええええええええっ!?」

 

 こうしてまたあっさりフラグを回収して、イオリはまたピンチに陥っていた。



 

 

 次回、この状況から脱出は出来るのか?


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― 新着の感想 ―
何故墓場の中に小屋が………? 墓守の家………なら誰かいるよなあ? いざという時の避難所、って、どんな時やねん!? っこんな時か!? こんなバイオなハザードを想定して建てられたのか!? 何故墓場の中の…
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