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26 エルフの女騎士

 



「そう言えば自己紹介がまだでしたねっ。私は第二騎士団所属のリリーナです」

「よ、よろしくお願いします」

 

 イオリは女騎士のリリーナに、半ば拉致されるように自宅に招かれた。

 彼女の住居は王城の近くにある高級集合住宅……地球で言う都心のマンションの一室のような部屋で、この世界に疎いイオリにも、やけに高級な家具も置いてあって一介の騎士に買えるような物ではないと分かる。

「えっと……リリーナさんはお城の騎士なんですか?」

「そうですよ~。これでも第二騎士団の副団長なんですからっ。あ、ごめんなさい、先に着替えますね」

「は、はい」

 イオリは自分以外でエルフの女性を見たのは彼女だけで、今は同性とは言え、見た目は二十歳前後の見目麗しい女性の部屋にドキドキしてしまう。

 しかも相手は、ある意味憧れでもある『エルフの女騎士』なのだ。

 ちなみにもう一つ、『呪われた島の永遠の乙女』が憧れなのらしいが、イオリには世代的に理解できなかった。

 着替えたと言うより、ただ鎧を脱いだだけのリリーナが戻ってくると、イオリが座るソファの前にワインとグラスを置いた。

 イオリを酔わせて何をする気なのだろうか。そして騎士団の仕事は良いのか。

 

「それでイオリちゃんは、エルフ(・・・)のことが知りたいんですよねっ」

「え……いや、精霊魔法のことを…」

「あ、そうですか…」

 少々がっかりしたようにリリーナが項垂れた。

 エルフの長い耳を少し短い金髪から見せる彼女は、自分の家に着いてから鎧を脱ぎ、ほぼ下着のような薄着になっているのでイオリも目のやり場に困る。

「イオリちゃんは精霊魔法を使えないんですね。どこの出身なの?」

「……え、その……」

 さすがに異世界からの転生者とは言いにくい。

 地球から召喚された人間が『異世界の勇者』として認知されている世界だが、転生の事を説明すると長くなるし、男の子から女の子になった理由も上手く説明できない。

「あ、いいのよっ、人には事情があるしねっ」

「……ごめんなさい」

 何か勘違いしてくれたリリーナが聞くのを止めてくれた。

 若干心苦しくてシュン…と項垂れるイオリの長い耳を、リリーナはウットリとした顔で見つめる。

「イオリちゃんの耳は長くて綺麗ですねぇ……お肌もすべすべだし、これが十代の若さなのかしら……」

「…え? リリーナさんだって若いでしょ? いくつなんで……あ、」

 

 そこでイオリは女性に歳の話を尋ねるのは同性でもタブーだったと気付く。     しかも相手は500年も寿命があるエルフである。歳を取っても三十代後半程度にしかならない彼女達のことだから、百歳とか二百歳と言われても不思議ではない。

 

「……三十四」

「……え?」

「三十四歳なんですよっ。若いでしょっ? すっごく若いよね!? 三十四歳なんて、エルフの中ではまだまだ小娘ですよっ!?」

「え、あ、はい」

 やけに生々しい(・・・・)年齢に一瞬唖然としたが、両肩を掴まれガクンガクンと揺らされて、イオリもようやく正気に戻る。

「それなのに騎士団の若い連中ったら、私の年齢を知ると年増を見るような目で見るのよっ。偶に城に来る二百歳のおばさんエルフにはデレデレするくせに、おかしいと思いませんかっ? これだから男なんてっ」

「……はぁ」

 

 何かの発作なのか、しばらく興奮していたリリーナは、熱が冷めて少し恥ずかしそうにコホンと取り繕うような仕草をした。

 

「私の事はともかく、イオリちゃんも気をつけてくださいね。特にあなたはハイエルフ(・・・・・)で若い期間が長いんだから」

「………え?」

 イオリがハイエルフだと言うことは、ギルドの一部とイオリを救出に来てくれた面子しか知らないはずで、その全員きちんと口止めされていた。

 イオリはその面子の中で城に関係する人間が居たことを思い出す。

「もしかして……ディートリヒさんから聞きました?」

「ディートリヒ……?」

「……へ? ディートリヒさんって王子様じゃなかったのっ?」

「あああっ! 殿下かっ!」

 どうやら彼は城の騎士にさえ、名前を覚えられていないらしい。

 第二王太子が亡くなって王位継承権が上がっても、あの残念王子の立場はあまり向上していなかった。

「へぇ、イオリちゃん、殿下とお知り合いなんだ? それはいいんだけど」

「いいのっ!?」

「どうして、イオリちゃんの事をハイエルフだと分かったのか、って理由ですねっ?」

「そうそうっ」

「それは愛ですっ!」

「はぁ?」

「私達エルフ種にとって、ハイエルフは愛すべき存在なので一目見れば分かりますっ。イオリちゃんは普通のエルフより一割ほど耳が長いですからっ」

 

 以前ハナコが言っていたエルフの『マニア』とは『ハイエルフマニア』の事で、そのほとんどがエルフやダークエルフであった。

 エルフの原種であり、もっとも精霊に近い存在で、最近ではすっかり数も少なくなったハイエルフは、エルフにとって地球で言う芸能人のような存在だった。

 しかもそれがイオリのような若い少女だとしたら、エルフにとっては『街でアイドルに出会った』状態になっても仕方がない。

 そしてエルフ種にとって他のエルフに一番自慢できることは、ハイエルフの配偶者を持つことだと言われている。

 もちろん、イオリとリリーナは同性であるが……。

 

「それでイオリちゃんは精霊魔法のことが知りたいのですね?」

「…う、うん」

 リリーナが同じソファで話をしながら、ピッタリと薄着の身体をくっつけてくる。

 その身体はエルフ種らしくスレンダーな体型だが、とても良い香りがして、イオリの男の子の心をクラクラさせた。

 もし健全(・・)な男子高校生のままだったら、色々と大変な状態になっていたかも知れないが、最近貞操に危機が多くて、女の子の身体に精神が影響受ける機会が多かったイオリは、この距離感に気まずいものも感じていた。

 

「でもおかしいですね……。ハイエルフは精霊に愛されていますから、精霊魔法は自然に習得するはずですが…」

「そういうものなのですか?」

「はい、私の集めた文献や、最近異世界からきた人間から広まった『薄い本』ではそうなっていますね」

「……薄い本…」

 余談だが、現地の人間が描いているので地球ほどぶっ飛んだ内容ではない。

「そう言えば、セイル国がまた勇者を召喚したみたいですよ。聞きました? なんでも“黄金の聖女様”を召喚したとか。また何か新しい文化でも入ると良いですね」

「へぇ…」

「それはさておき……イオリちゃん。聞きたい事って、精霊が呼びかけに応じない、とかですか?」

「ううん。試したのは風だけなんだけど……」

 イオリは体験したことをリリーナに話してみる。それを聞いたリリーナは少し怪訝な顔をしながら席を立つ。

「もしかしたら……少し待って下さい」

 彼女は台所に向かうと、すぐに火種が入った小さな火口箱を持ってくる。

 

 ブン……

 

 そしてもちろん、空気を読んだ【自動記録(オートセーブ)】も発動する。

「…………」

「イオリちゃん、こっちに来て、そこを動かないで下さいね」

「は、はい」

 緊張した面持ちのイオリに、リリーナは火口箱の蓋を開けて火種に語りかけた。

 

「呼びかけに応じて、火の精霊よ、姿を見せなさい」

 

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

「ひぃっ」

 突然燃えさかる炎が広がり、イオリに迫る直前で火種に水を掛けられて消滅する。

「…………」

 ギリギリで助かったが、イオリはその場で尻餅をついてしまった。

「イオリちゃん大丈夫ですか?」

「うんっ」

 男の子の精神が恥ずかしさを覚えて、すぐに立ち上がろうとしたが、とある理由ですぐに立てず、結局リリーナに立ち上がらせて貰う。

「それじゃソファで説明を、」

「ううんっ、ここでいいよ」

「そうですか? では、イオリちゃんが精霊を上手く使えない理由が分かりました」

「わかったの!?」

「はい、どうやらイオリちゃんは、精霊から愛されすぎているみたいです」

「………へ?」

 

 リリーナの説明によると、イオリが居る事で、どの精霊も興奮状態にあるらしい。

 風の精霊も先ほどの炎も、どれもがイオリに抱きつこうとした結果だ。

 普通の人間やエルフなら多少は問題なく、メリットの方が多いのだが、イオリの場合は、その『多少』が『ほんの少々』でも充分な致命傷になる。

 

「……ボク、精霊魔法は使えないのかな……」

「下級精霊は子供みたいな感じですからね……。中級以上なら落ち着きも出てくるのですが」

 落ち込んでしまったイオリに、リリーナも何とか宥めようとする。

 だが、中級以上の精霊は、相性が良くてもそれなりの魔力がないと呼び出せない。

 下級精霊を使役して【精霊魔法スキル】のレベルを上げないと、素人のイオリではどうしようもないのだ。

 

「あ、そうだっ、イオリちゃん、ピクニックに行きませんか?」

「……ピクニック?」

 突然の申し出にイオリが首を傾げると、その耳がぴょこんと上を向いたのを見て悶えながらリリーナは言葉を続ける。

「室内では何ですから、お外で色々試してみましょう。街の外にある墓地にゾンビも出るらしいので鍛錬にもなりますよっ」

「墓地っ? ゾンビっ!?」

 そんな場所でピクニックと聞いて、イオリの顔も青くなった。

「大丈夫ですっ、私がいますからゾンビなんて平気ですっ。それにあの墓地には大きなお花畑もありますから、ピクニックに最適ですよ」

「そ、そうなんだ……」

 

 リリーナとしてはイオリを励まそうとした訳だが、そこまで言われるとイオリもなんだか愉しそうな気になってニッコリ笑う。

 この世界も愉しいが、ネットもテレビもない世界では娯楽も少なく、少しだけ愉しいことに飢えていたのだ。

 こうして、イオリはリリーナのお休みの日に合わせて出掛けることになった。

「………」

 そして帰るまでずっと立ったままだったイオリは、あの炎で少しだけ下着を濡らしてしまったのをどうにか誤魔化せてホッと息をついた。



 

 

 次回、エルフの女騎士とピクニック?


 次から月曜と木曜更新になると思います。

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― 新着の感想 ―
ハナコのマル秘ファイルに新たな数枚~数十枚の写真&動画が加わってしまった、と。 イオリ粗相ファイルはまたウメコによりハナコの与り知らぬ間に金貨100枚程で販売されるんだな。
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