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20 奴隷屋敷の番犬

 

 ※保護者の皆様、この作品は“健全”でございます。

 


 

 部屋から大変な苦労をして脱出したイオリは、まず電撃首輪を外す鍵か、電撃が発生する基準点となるアイテムを捜す事にした。

 タイムリミットは明日の朝まで。出来れば暗いうちに逃げ出したい。

 屋敷の中はイオリの売買が済んで気が緩んだのか、見張りも多くなく酒を飲んでいる者も居た。

 ここはあの豚殿下の別荘かと思っていたが、元からあった物をあの冒険者くずれが買って、豚殿下のような貴族の顧客用に整えた物のようだ。

「……儲かっているのかな」

『イオリ様のような高価なハイエルフを即金で買えるような客が居れば、儲かっていると推測します』

「ボクの身体なのに、ボクにはお金が入らないんだね……」

『女性の身売りは推奨いたしません』

「しないよっ!?」

 ビックリして思わず声を上げる。

 

「誰だっ!?」

 そんな事をすれば当然見つかる。

「うわ、ま、」

「あのエルフじゃねーかっ、どっから出やがった」

 ヒゲ面の男は一瞬怒気を顔に浮かべたが、怯えたイオリの脚に目を向けるとイヤらしい笑みに顔を変えた。

「殿下の商品だから手は出せねぇが……、ちょっぴり味見するくらいはいいよな?」

 男は、いったい誰に確認を取っているのか? それはもちろんイオリではない。

「や、やだっ」

「へへへ、こっちに来い。こら、暴れんなっ」

 あっさり捕まえたイオリの脚を撫でながら、暴れるイオリの腕を捻りあげる。

 グキ…ッ。

 

 ブン…… 【Record reading.】

 

「うぷぅ、けほっ」

『イオリ様?』

 ひ弱な身体はあっさりと肩が外れて【自動復活(オートリバース)】が発動した。

 事が始まる前で良かったじゃないかと思いたいところだが、相変わらず『死の感触』の悪寒が酷く、あの男に触られた脚の感触も思い出して、イオリは涙目でしゃがみ込みブルブル身体を震わせた。

 特に今日は、お昼のおにぎりしか食べていなかったので、胃液しかケロケロ出来ずに余計に辛い。

 

『落ち着きましたか?』

「……うん」

 不幸中の幸いな事に、【自動記録(オートセーブ)】が小まめに発動していたせいか部屋を出たところからリスタートできた。

『慎重に行きましょう。お声は小さめでお願います』

「(そ、そうだね)」

 そして第一関門。先ほどのヒゲ男が居る部屋の前に差し掛かる。

 音を立てずにイオリはそぉ~~と中を覗き込むと、そこは見張りの為の休憩室のようで、テーブルと椅子があり、あのヒゲ男がテーブルに両足を乗せ、ふんぞり返りながら酒を飲んで、こっち(・・・)を向いていた。

「「…あ、」」

 

 ブン…… 【Record reading.】

 

「うぷぅ、けふっ」

『イオリ様?』

 また涙目でしゃがみ込み、泣き出しそうな顔で「見られたぁ……」と呟くイオリに、ハナコは『どこを?』と尋ねそうになるのをギリギリで自重する。

 迷宮の時は相手がモンスターだったので感覚が薄かったが、今回は人間の男性に触られたので、『女の子』の身体がイオリの精神に強く影響を与えているらしい。

 

 そして再度チャレンジ。

 今度はビクビクしながら休憩室に近づくイオリに、ハナコから声が掛かる。

『イオリ様、ご提案いたします。見張りが脚をテーブルに乗せて座っているのなら、身を屈めれば、見つからないのではないかと推測します』

「(……そっか、ハナちゃん頭良いっ)」

 比較する人物選定が間違っていないだろうか。

『ではイオリ様、“四つん這い”で進みましょう』

「(………え?)」

 

 ここで学術的にもう一度お復習いしておきましょう。

 現在のイオリの格好は、革の首輪と股下5センチの薄手の貫頭衣のみで、軽く屈んだだけで色々“丸見え”状態です。

 下着もないイオリが、ここで四つん這いになると言うことは、深く考えるまでもないでしょう。

 

『イオリ様、ご安心ください。ここに()の目はありません』

「(……そ、そうだよね)」

 イオリは覚悟を決めて、無駄とは分かっていながらもお尻の方へ裾を引っ張ると、扉のない休憩室の直前で顔を真っ赤にしながら四つん這いになった。

 

 ピッ……【●REC】

 

『大丈夫です。イオリ様は、個人的にまだ処理(・・)手入れ(・・・)はまったく必要ありませんので、さほど羞恥を感じる必要はありません』

「(何の話っ!?)」

 

 こうしてイオリは第一関門のヒゲ男を攻略し、羞恥心以外は無事に突破できた。

 続いて第二関門だが、こちらはさほど難しくなかった。

 階段を下りて階下に向かうのだが、下からは何人かの酒を呑んでいるらしい男達の下品な話題が聞こえているので、このまま降りれば普通に見つかってしまう。

 ちなみに話題は、自分達だったらどのようにイオリを調教するかと言う話題だ。

 そこでハナコの提案により、踊り場の途中から背の高い家具に飛び移って移動する案が出たので、それで事なきを得た。

 ただまた四つん這いだったので、イオリの羞恥心がまた削られただけだ。

 そして第三関門は。

 

「……犬だね」

『番犬として使えるように飼育用として調整され失敗(・・)したヘルハウンドです』

 

 野生のモンスターであるヘルハウンドを飼育できるようにトップブリーダー達が改良したらしいが、野生の本能が生殖本能(・・・・)しか残らなかったそうだ。

 そんな個体をどうして飼っているのかと言えば、楽しい『見せ物』の為である。

 目の前には小さな中庭があり、窓からそこに出て壁を伝い、違う窓から入れば他の見張りに見つからず屋敷の中心部へと向かうことが出来る。…が、その中庭に犬が居て、イオリを見て盛大に尻尾を振っていた。

「……友好的?」

『試してみますか?』

「………」

 どうやら間違いなく♂のようで、イオリを見て尻尾と一緒に♂の証を揺らしていた。

 壁の装飾に指と足を掛けたイオリは、2メートル程を高さを壁にへばりついて、少しずつ移動を始める。

 そしてもちろん【自動記録(オートセーブ)】が発動する。

 生命の危機で発動するのだから仕方ないが、安全圏で発動しないことに何となく神様の悪意を感じた。

『がうっ』

「ひぃっ」

 突進してきた犬が、2メートルの高さまで飛び上がり、思わず足を引っ込めたイオリの腰元で、ガチンと牙を鳴らした。

「……あ、」

 非力なイオリが指で体重を支えられる訳もなく、あっけなく落ちる。

『がうかうっ』

「ひゃぁああああああああああああああっ」

 あっと言う間に自分より大きい犬にのし掛かられたイオリは、がぶりとお尻を甘噛みされて暗闇に包まれた。

 

 ブン…… 【Record reading.】

 

「うぷっ、」

『イオリ様っ!』

 そして壁にへばりついた状態で復活したイオリは、また落ちだ。

『がうがう』

 

 ブン…… 【Record reading.】

 

「うぷぅ……」

『イオリ様、大丈夫ですか?』

 最短記録で復活したイオリは、今度は我慢して壁にへばりつく。その真下では犬っころが嬉しそうにぴょんぴょん跳びはねていた。

『お辛いでしょうが移動しましょう』

「……うん」

『がうっ』

「ひっ、」

 ガツン…ッと牙が鳴るが、犬は常にイオリの腰元を狙い、剥き出しの脚を狙ってはこなかった。

 

『……イオリ様、そちらの柱に飛び移れますか?』

「柱…?」

 イオリが振り返ると、そこには太さ50センチ程の石の円柱が立っていた。切れた鎖が垂れ下がっているのを見るに、この中庭で犬を繋いでいた柱なのだろう。

「………」

 上は平らで高さは同じ2メートル。飛び移れない事はないが、その近くに壁はなく、一旦移ってしまえば、もう出っ張りの小さい元の壁に戻るのは不可能だろう。

『私の計画を聞いて、それからご判断…』

「えいっ」

 ハナコの言葉途中でイオリは柱にジャンプする。上手く落ちることなく飛び移って、イオリはホッと息を吐く。

『イオリ様……私はまだ説明を、』

「大丈夫っ、ハナちゃん信じてるから」

『………』

 ニカッ、と疑いもなく笑顔を浮かべるイオリに、感情のない人工知性であるハナコが思わず黙り込む。

 思考放棄と信頼行動は、似ているようで根本が違う。

『……了承しました。説明を省き、次の行動を指示いたします。そちらの柱に移動してください』

「……え?」

 その柱はさらに遠く、しかも高さは3メートル以上あった。

 

 ブン……

 

 そしてまた空気を読む【自動記録(オートセーブ)】が発動して、イオリの退路を塞ぐ。

「だ、大丈夫っ」

 一度信じた以上、イオリに出来る事はこれしかなかった。

 

『がうがう』

「ひぃあああああああああああああああああああああっ」

 

『がうがう』

「ちょ、そんなの、」

 

『がうがう』

「それいやあああああああああああっ」

 

『がうがう』

「いだだだ、あ」

 

『がうがう』

「………」

 

 そして……

『お疲れ様でした、イオリ様』

「……う、うん…」

 何度も柱から落ちて、噛まれて舐められて嬲られて、ようやく柱にしがみついて、上に乗ることが出来た。

 ここまで高いとさすがに大きな犬でも飛びつけないが、イオリはすでに先ほどまでの苦行で半分泣きべそかいている。

『イオリ様、落ち着いたら立ち上がっていただけますか』

「…うん」

 イオリが立ち上がると、それまで尻尾を振っていた犬が目を輝かせて柱にすがりついてきた。その視線にイヤらしさを感じてイオリは思わず裾を手で押さえる。

『では、イオリ様、そのまま裾を上に捲ってください』

「………は?」

 

 生殖本能しか残らなかった犬はアレにしか興味がなかった。つまりはアレな存在であるオークよりも節操が無いアレだったので、失敗作となったのだ。

 

『イオリ様、私を信じてください』

「……うんっ」

 イオリは耳まで真っ赤して目をギュッと瞑ると、震える手で短い裾を捲る。

『がうがうっ!』

『今です、一歩前に』

「う、うんっ」

 すか……。

 直径50センチ程の柱なので、一歩踏み出せば当然落ちる。

「ひぁあっ」

 そしてアレばかりに気を取られていた犬のお目々に、イオリの踵がめり込んだ。

『ぎゃいんっ』

『イオリ様、走ってください』

「うひぃ」

 

 犬の悲鳴と踵に感じた感触とハナコの指示に混乱しながらも、イオリは目的の窓に、無事に辿り着くことが出来ました。

 



 この内容で何故か朝に更新しています。

 

 次回、脱出の為にとった必要な手段とは。

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― 新着の感想 ―
手入れが必要ない………つまりつるつるすべすべだ、と。 で、全部RECだと。 しかも復旧したデータと違って画質が良い、と。
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