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15 初めての冒険者ギルド

 他作品で忙しかったりしますが、こちらもちゃんと更新します。

 

 

「イオリ、これを着なさいって」

「や、やだよっ」

 ここは王都キリシルの数多くある古着屋さん。……の中でもそれなりに新しく仕立ての良い商品が揃えてある、働く若い人向けのお店だった。

 エルマの服も外出着はここで買っている。値段は一般的な古着に比べて多少高いが、肉を卸してくれる商会から倉庫の大ネズミ駆除の仕事を受けたので、今のエルマの懐は少しだけ温かかった。

「これ、可愛いからイオリに似合うわよ?」

「可愛いから嫌なんだってっ」

 二人が騒いでいた原因は服装の趣味の違いである。

 スポンサーである自分は選ぶ権利がある、とエルマがイオリの為に選んだのは、裾にフリルが付いた花柄の刺繍がしてある可愛いワンピースだった。

 そしてもちろんスカートであり、イオリの男の子の部分が『スカートだけは嫌だ』と最後の抵抗を試みていたのだ。

「今のイオリより露出は少ないわよ…?」

「……うっ、」

 

 さすがのイオリもマント無しで街を歩いて、ジロジロ見られている事にようやく気づいた。おそらく裾が短いから見られるのだろうと、イオリは歩いている途中で裾を手で押さえて下に引っ張ったりもした。

 そして横を歩いていたエルマは、そんな“恥じらい”の仕草が初々しくて、貫頭衣を引っ張ったので脇の部分をチラ見させているイオリを見て、その世間ズレしていない天然ぶりを知っていても、わざとやっているのかと疑いそうになった。

 イオリの『女の子』としての仕草が初々しいのには訳がある。

 もちろん元が男の子だと言うものあるが、下手に脚を広げたり胡座をかいたりしないようにハナコが注意をした結果、『女の子がする仕草』をすればいいとイオリは考え、男が理想とする(・・・・・・・)女の子(・・・)の仕草をするようになってしまい、尚更初心(うぶ)な男性の視線を集めていた。

 明日からはさらに『鮮血の憩い亭』に男性客が増えるだろう。

 おバカはとても罪深い。

 

「ボク、ズボンが欲しいんだけど……」

「え~……」

 イオリも買ってくれるのに悪いと思っているのか小さな声で希望を言うと、エルマは思いっきり不満そうな顔をする。

 エルマだって若い女の子で、可愛いイオリをお人形のように可愛く着飾って、色々着せ替えしようと思っていたのだ。

 それに冒険者として働く時はズボンを穿くエルマでも、街の中では膝丈のスカートを穿いている。それがこの世界の一般で、生脚を晒しながら歩くような女性はいない。

「……ダメ?」

「……仕方ないわねぇ。短いズボンならそんなに変じゃないかも。それと上は普通のを買いなさいよ」

「はーい」

 これが人間とエルフでなければ、完全に姉妹である。

 エルマが短くてもズボンで妥協したのは、12歳までの子供なら男女関係なく作業着として半ズボンを穿く場合もあるからだ。

 さすがにイオリの見た目はもう少し上だが、言動が子供っぽいのでそんなに違和感もないはずだとエルマは考えた。

 

 近くにいた店員が彼女達の希望を聞いてニコニコとお勧めの服を持ってくる。

 更衣室でイオリは着替え始めたがハナコはそれを撮影しなかった。なぜなら下着姿の映像はもう20時間分も溜まっているので、勝負はお風呂の時だとハナコは考えていたからだ。何の勝負かは不明だ。

 

「エルマさん、着替えたよーっ」

「おお~……ぉお?」

 着替え終わったイオリを見たエルマの感嘆の声が途中で疑問符に変わる。

 パッと見てとても可愛く見えた。でも何かがおかしい……。

 イオリは着替える為にブーツを脱いで素足だった。問題はズボンの裾が短すぎてホットパンツのようになっている事だが、それが見えていない事がさらに問題だった。

 古着屋の服にはサイズがあまりなく、ほとんどがフリーサイズでありイオリには少々大きかった。しかもイオリは普通(・・)に男性物を選んでいる。

 要するにダボダボの男物のシャツを着た、小柄な女の子状態だったのだ。

 あまりにもあざとい。だが、その“あざとさ”を知る文化(・・)はこの世界にない。

「……まぁ可愛いからいいか」

 深く考えるのを放棄して、短パンとシャツだけで小銀貨3枚と、安く済んだと考えたエルマは、ついでにイオリのサンダルも買い、思いっきり見た目が『裸シャツ』状態のイオリを連れて、むさい男達がいる冒険者ギルドに向かうことになった。

 

   ***

 

 一般人が専業職としない危険な採取や突発的な魔物などに対応し、身体を張って対価を得る者の総称が、冒険者である。

 え、それ冒険なの? とか思ってはいけない。世の中はそんなものだと割り切らないと大人にはなれない。

 冒険者ギルドとは、要するに仲介屋だ。

 冒険者も何処から仕事を得て良いか分からない。依頼主も誰に頼むのが最適なのか分からない。

 そこでギルドは依頼主から仲介料を貰って適切な冒険者を紹介し、冒険者は自分に見合った仕事を得る代わりに、その依頼で得た素材などを商人ではなくギルドに売ることを義務づけられていた。

 特に需要のある『魔石』は冒険者のランクに直結しているので、どうしてもギルドに収めなければならない。

 結構ぼろい商売である。

 

 冒険者のランクは四種類に別けられる。

○最下級のブロンズ。

 一般的に一番人数が多く、王都でも数千人が登録していた。

 それには理由もあり、エルマのような、専業冒険者でなく本業を持ちながら、アルバイトのように狼などを狩って素材を売る窓口として登録する者が多いからだ。

○中堅処のシルバー。

 ここまで来るとほぼ全員が専業冒険者である。三~四年の経験を積み、納品した魔石の数と質によりシルバーのランクに上がる。

 特典はギルド食堂の日替わり定食一割引きと、魔石買い取り3%上乗せだが、これが意外と馬鹿に出来ない。

○ベテランのゴールド。

 この王都にも12人しか登録していない上級の冒険者で、このランクになると必ず戦闘系のスキルと、特殊スキルを保持している。

 だがある程度稼ぐと商売を始める者もいるので、戦闘狂と中二病患者以外は専業冒険者とは言い難い。

○最上級のカムイ。

 英雄級の力を持つ者に与えられる称号で、カムイの名を付けたのは異世界人らしく、その意味は伝わっていない。

 

「うわぁ……大きい」

 初めて冒険者ギルドを見たイオリが、その建物の豪華さに目を見張る。

 冒険者を支援すると言う名目のギルドに、どうしてこんな立派な建物が必要なのか分からないが、一部の慈善団体の建物が妙に立派なのと同じ理由かも知れない。

 そんな危険な話題はさておき、『裸シャツ』にしか見えないイオリはかなり注目を集めていたので、その発言に妙な想像をしてしまい視線を逸らす者もいた。

「ほらっ、早く入るわよっ」

「う、うんっ」

 エルマも何となく微妙な顔つきでイオリを急かした。

 

 イオリが冒険者ギルドにやってきたのは、見学と登録する為である。

 シードの情報が集まったら、そちらに向かう為に身分証明のような物が必要になる。冒険者ギルドでしか集まらない情報もあるので、登録しておく必要があった。

 入会金無料、年会費小銀貨1枚。かなりリーズナブルだ。

 

 ブン……

 

「……っ」

 入り口から入った瞬間に、【自動記録(オートセーブ)】が発動した。

 入ってすぐに身を竦ませたイオリの姿に、ギルドのカフェを兼ねたロビーにいた十数人の視線が向けられる。

『イオリ様、難癖を付けられる恐れがありますので、お気を付け下さい』

「(わ、わかった)」

 ハナコの忠告にイオリはギュッと握っていた小銀貨を、その部分だけを具現化させた自動販売機の投入口に入れる。

 イオリの特殊スキル【物品創造】で設定した『爆弾販売機』は、お金を入れてもボタンを押さない限りアイテムは出ず、15分もすると勝手にお金が戻ってくる。

 咄嗟の場合に備えてハナコと実験を繰り返して分かった機能だったが、その流れで部分具現化も習得していたイオリは、手元にランプが付いたボタンを具現化した。

 用意はしても絡まれた程度では使わない。

 だが難癖を付けられ、エルマにも危険が及びそうになったら、この力で彼女を守るんだ、とイオリは男の子として決意する。

 

「おおっ、こんなところに女子供がっ………」

 近くにいた身体の大きな冒険者が、定番(テンプレ)の台詞を吐いて立ち上がると、イオリを見てギョッと目を見開いた。

「……お、…おまえぇええええええええええええええええええええええっ!」

「ひぃいっ!?」

 ポチ。

 カランカラン……と、小さな起爆装置だけが付いたTNTが転がる。

「…あ、」

 

 ギュドンッ!!

 

 冒険者ギルドは、みんなとっても仲良死(なかよし)です。


 

 ブン…… 【Record reading.】


 

「うぷっ、けほ」

『『『えええ~~っ!?』』』

 中に入ってきた早々蹲ってケロケロするイオリに、ギルド内から声が響いた。

「……気にしないで。この子、偶にこうなるから」

 エルマはイオリの背中をさすりながら残念そうに溜息を吐いた。

 



 爆発オチ


次回、やっぱり冒険者が絡んできます。さっきは何を言いかけたんでしょうね。

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― 新着の感想 ―
そんなの当然「おまえぇええええええええええええええええええええええっ! 理想の人です。結婚して下さい!」 でしょ?
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