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11 火気厳禁でお願いします

10話にちょっとだけ追加しました。



 突然吐いて青い顔で蹲って、危ない人のように体育座りでブツブツ言っていたイオリが突然顔を上げたことで、それまで黙って見ていたハナコが声を掛ける。

『……イオリ様、もしかして【自動復活(オートリバース)】が……いえ、何度目かの『復活』を成されましたか?』

「……え? ハナちゃん、記憶が…」

『記憶はございません。ですが記憶領域の中に消去されたようなデータの残滓が残っており、データの復旧をしておりました。データは壊れておりましたが、時間軸が違う物がありましたので、そう推測しました』

「凄いね……ハナちゃん」

 イオリは感心しながらこれまでのことを説明する。

『では、【物品創造スキル】で創る物を決められたのですか?』

「うん……これならいける。…と思う」

『ではお早めに。イオリ様のお話通りであれば、あと数分でオーク戦士がやってくるはずです』

「う、うんっ」

 すでに扉を叩くゴブリン達の音がかなり大きくなっている。

 焦って創るよりは次回にしたほうが良さそうにも思えるが、死の感触のダメージは身体的も精神的にも強烈で、すでにトラウマになり掛かっていたイオリは、かなり焦りながらもイメージを作り始める。

 

 だが、その極度に追い詰められた精神は、驚くほどの集中力をイオリに与えた。

 それをもう一度やれと言われても不可能だろう。

 曖昧だった記憶をピンポイントで正確に思い出し、材質や材料はスキルの補正力に任せて重要な部分のみを設定していく。

 光の精霊からもヒントを貰っていた。それを元に設定が終わった時、イオリの目の前に横40センチ縦70センチの光る板が浮かんでいた。

 

『……イオリ様、それは何でしょう?』

「自動販売機の表面部分…かな」

 光る板にはボタンが幾つか付いており、それにはすべて違う金額が供用語で記されていた。

 下は小銅貨1枚から上は金貨1枚まで、硬貨の種類ぶんだけ並んでいる。だが記してあるのは値段だけで、何のアイテムか絵も文字も書かれていなかった。

 それを見てイオリの額に汗が流れる。

 イオリも極限まで集中しすぎて、どれほどの種類を創ったのか、ほとんど覚えていなかった。

 でも創りたかった物は覚えている。

「……ごめん、ハナちゃん、お金使うね」

『それは構いません。イオリ様に差し上げた物です』

「でも返せるなら返すから」

 そう言ってイオリは、銀貨1枚をコイン投入口に入れる。

 日本円にして一万円。入れると同時に下にある小銅貨から順に銀貨までボタンに明かりが灯った。

 そしてイオリが銀貨のボタンを押すと、出てきたのは黒い塊が二つ。

 

『イオリ様、その果物のような形状の物は何でしょうか?』

「……手榴弾(パイナツプル)

 

 イオリが【物品創造スキル】に設定した物は『爆弾』であった。

 火薬も原材料さえ知っていれば作り方を知らなくてもスキルが勝手に生成し、部品もある程度の原理を知っていれば細かい寸法が分からなくても問題なく生成された。

 これは持ち運びで暴発する危険を無視したからこそ出来た物で、現実でこんな物を作ろうとしたら制作途中で爆発していただろう。

 それに爆弾ならイオリが下手でも当てることが出来る。そして何より、単純な爆弾は拳銃や刀に比べてかなり安い。

 イオリも実際何が出てくるか不安だったが、銀貨1枚で手榴弾2個ならかなり使い勝手は良いはずだ。

「…………」

 爆弾。……切羽詰まっていたとは言え、その恐ろしい兵器を創ってしまったことを、イオリは少しだけ後悔する。…が、それでもやっぱり、オークに嬲られ続けるループは果てしなく御免だ。

 イオリはささっと壁際に寄り、その向こうから微かにオークの鳴き声が聞こえていることを確認して、安全ピンを引き抜いた手榴弾を大部屋に放り投げた。

 

『ブヒィ♪』

 こん…っ。

 そして丁度良く通路にやってきたオーク戦士の頭に当たり、手榴弾がイオリの足下まで戻ってくる。

「あ」

『あ』

 チュドンッ!

 

 ブン…… 【Record reading.】

 

「うぷぷっ、」

『イオリ様?』

 やり直しである。色々と台無しだ。

 ケロケロした後でハナコに説明したイオリは、青い顔でがっくりと床に手を突き膝をつく。

『イオリ様、もう一度頑張りましょう』

「……うん」

 ハナコもデータの残滓にすぐに気づいて、事情を察して慰めてくれた。

 それでもあの精神状態で設定したスキルをもう一度創れるとは思えない。せめて簡単な物でも創れないかとイオリが考えていると。

「……あれ?」

 発動するとすぐに自動販売機の盤面が宙に出現した。

『これがイオリ様が設定した『自動販売機』ですか。おそらくスキルは世界の理の外にあるのでしょう』

「そうなんだ……。助かったけど。とにかくこれで…」

 そう言いながらお財布のお金を確認して、イオリの表情が凍り付く。

 所持金、銀貨1枚、小銀貨17枚、銅貨5枚。

「……銀貨が減ってる」

『……おそらくですが、スキルで使用した金銭も、世界の理の外にあると思われます』

「えええっ!?」

 要するにイオリの自動販売機に投入されたお金は、死んで時間が戻っても減ったままだと言うことだ。

「……どうしよぉ」

 もう死にたくないのは山々だが、心の余裕度がまったく違う。今あるお金が尽きてしまったら、本格的に詰んでしまうからだ。

 イオリは最後の銀貨を指で摘み……へたれて小銀貨を5枚ほど『爆弾販売機』に投入する。小銀貨の部分までランプは付くが、もちろん銀貨のボタンに明かりは灯らない。

 銀が一枚で手榴弾2個なら、小銀貨5枚で1個出てくるはず。そう考えて悩みながらも小銀貨のボタンを押すと、幅広の缶詰のような物が何個か落ちてきた。

「なにこれ…」

 薄闇の中でそう呟いてイオリが手を伸ばした時、

 

『ブモォ♪』

 今までなかった早さでオーク戦士がイオリの居る通路にやってきた。

「えっ、なんで!?」

『私と同じように記憶の残滓が少しずつ残っているかも知れません』

 イオリが死に戻りをすれば、イオリ以外の記憶はなくなる。

 だが何度も繰り返すうちにハナコにデータの残滓が残ったように、オーク戦士にもこの通路に何かが居ると、何かしら残ったのかも知れない。

 現実的になってきた『詰み』への恐怖にイオリの顔から血の気が引く。

『ブモォオオオオオオオオオッ』

 そして繰り出されたオーク戦士の手がイオリに伸ばされた時、あまりの現実に貧血を起こしたようにイオリがふらついたせいで、重心の高いオーク戦士は空振りしてそのまま床に、ドスンっと尻餅をついた。

「あわわっ」

 その隙間を前転するようにコロコロ転がってイオリは危機を脱する。

 数メートル転がったが、イオリは肌がひりひりした程度で、死ぬようなダメージが受けなかった。

 だが事態はまったく好転していない。折角創った爆弾も拾い損ね、そもそも小銀貨5枚程度で何個か出てくるような爆弾に凄い効果があるとは思えなかった。

「でもっ」

 イオリは自動販売機を呼び出し、距離を取りながらお財布に手を伸ばす。

 今、オーク戦士は尻餅をついてすぐに立ち上がれない。その前に手榴弾を創って投げることが出来たら倒せるかも知れない。

 

 オーク戦士は、慌てて何かを取り出そうとしている生き物が、柔らかそうな肉の♀だとわかって、腰布の下のモノを大きくする。

『ブヒヒヒィ♪』

 そして柔らかな獲物を愉しもうと、腰を上げて。

 

 ズガガガガンっ!!

 

「ひぅっ!?」

 突然襲ってきた爆音と爆風に、イオリは身を竦ませてしゃがみ込む。

 音は大きかったが衝撃に髪が乱れた程度でイオリが死ぬほどではなかった。ギュッと目を瞑ったイオリがそ~っと目を開けると。

「………うわぁ」

 そこには下半身……特に股間の部分を真っ赤に染めたオーク戦士が、事切れていて、その様子にイオリも思わず蒼白になって両手で股を押さえる。

『どうやら床面で爆発したようです。腰を浮かした瞬間に爆発したようなので、衝撃のほとんどがオーク戦士の下半身で吸収されたようです』

 唖然としているイオリにハナコが状況を説明してくれた。

 その状況とその威力に、イオリはそれを思い出した。

「……対人地雷……」

 

 地雷は驚くほどに安い。安いからこそ悪魔の兵器と言われる訳だが、オーク戦士が腰を浮かした瞬間に爆発したと言うことは、イオリの適当な知識で創ったそれは安全装置(・・・・)も付いていなかったと言うことだ。

 これでは本来の使い方は出来ないだろう。地面に埋めて使おうとすれば多数の事故が起こり味方に多数の被害が出る。

 その事実に何となくホッとして、そしてようやく『詰み』状態から脱出したイオリはへろへろとその場に腰を抜かした。

 

「もう……安心?」

『そうですね。早く外に出ましょうか。本日は天気も良くて気温も高めですので、近くの川で水浴び(・・・)するのも良いと思います』

「…水浴び? そうだねぇ、気持ちよさそうだなぁ」

 

 ハナコの少し奇妙な言葉にイオリは笑顔で答える。

 イオリはようやく、この世界でなんとか生きることが出来そうだと、改めて深く息を吐いた。

 

 そしてハナコは、わずかに残っていたデータの残滓を何とか掻き集め、1枚だけ修復できた画像の荒い『オークに襲われているイオリ』の静止画を大事そうに隠しフォルダの奥に収納した。

 



 ようやくダンジョンから脱出です。


次回、閑話が一話入ります。新規登場人物です。

気づいていますか? いまだに登場人物が、人2 生物外2 その他魔物の皆さんだけなんですよ……。

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― 新着の感想 ―
修復した画像がR18なのか、それともR15なのかが気になるところ。 「もう………安心?」とか言っている間もゴブ達がバンバンバシバシと? でも爆発音で逃げたかな?
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