表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怨情 2  作者: 勝目博
8/14

2章(4)

合同捜査本部は雄二事件の管轄署に設けられた。署も広く、大きな空き部屋があったからだ。

野口が捜査本部に着いた時には、既に三十人ほどが集まっていたが、

明らかに不満顔の刑事もいた。

今回の事件の管轄署の刑事達は、明らかに敵対心を持っているようだった。

野口が本庁からの応援と紹介されて、直ぐに一人の刑事が質問を浴びせた。

「何故、合同なのですか?」

「その説明も兼ねて私は来ました。そこの書類にもありますが、遺体に残された類似点。

これが非常に多いこと。そして共通の美大に通い、共通の人物に危害を加えたことです。

同一犯の可能性が高いと思われます」

「同一犯と仮定して、犯行理由はなんですか?」

「怨恨です」

そう言うと、野口はホワイトボードに向かった。そしてボードに丸く輪を書き、

A子と書き込んだ。

「今から四年近く前になりますが、同じ美大にこのA子がいました。

そして、このA子を落としいれ、後輩にレイプさせようとしたのが、今回の被害者です。

そして、この時、A子を助け、のちに付き合うようになったのが、三年前の事件の被害者、

雄二君です。ところが、このA子は、更にその半年前に殺害されています。

結果は自殺扱いになりましたが、当初、容疑者は、この雄二君でした。

しかし、彼は無実で釈放されました。アリバイが、立証されたのです。

そのアリバイを証言したのが、雄二君事件で、容疑者となった女性です。

その女性も雄二君発見の数時間後に亡くなっています。この、ことからもわかるように、

二つの事件、三人の被害者、ここではあえて被害者と言っておきますが、この三人は、

このA子と全て繋がっているのです」

「しかし、そのA子が既に亡くなっているのであれば、怨恨の線はないのでは?それに、

怨恨は今回の被害者だけに思えます」

「問題はそこです。このA子の自殺が、もし殺人だったら?もし雄二君だったら?

証言者が嘘の証言で雄二君を助けたとしたら?そうなれば一連の事件は、すべてA子のため。

ということになります。誰かが代わりに復習を行っていると考えるべきではないですか?」

野口はその場の皆を見回したが、帰ってくる眼差しは冷ややかだった。

「それでは、A子の事件が、他殺であったことを立証しなければ、

その推測自体に意味がないのでは?これが立証されれば貴方の意見を尊重しますよ」

皆もこの意見に賛成のようだった。大きく頷く者もおり、『そうだ』という者もいた。

ただ一人、榊だけは真剣に野口の話を聞いていた。

同じ警視庁でも、管轄の違いによる隔たりは大きかった。結局は合同とは言いながらも、

弘子の事件が雄二による犯行と断定されるまで、それぞれの事件に従事する事と決まった。

弘子事件は野口一人で立証しなければならなくなった。

会議が終了し、出席した刑事達はそれぞれ自分の管轄に戻っていったが、その集団を見送り、

野口は頭を抱えた。自殺との最終決定を、他殺に覆す。並大抵では出来ない。

弘子事件の担当刑事、担当検事の反発を買うのは容易に想像できた。

協力を拒まれても仕方ないことだった。それでも野口はやるしかないと思っていた。

そこに榊が現れ、自分も協力すると言ってくれたのだ。

心強い味方が現れたが、簡単に捜査が進むとは思わなかった。

案の定、翌日に訪れた弘子事件の検事は、自分の判決に不服があるのか、と言いたげに、

露骨にそっけない態度をとった。

「もう一度、調べたいと言うなら、止めはしませんがね、当時の容疑者も死んでいるなら、

立証は無理だと思うが……」

検事は面倒そうに答えた。

野口は日本の司法のあり方に、疑問を持たずにいられなかった。

担当署の刑事は、野口の予想を反して至極まともだった。

殺人と立証できず、雄二を起訴できなかったことに、不満を持つ刑事がいたのだ。

取調べのとき、逆に雄二から攻撃を受けた刑事だった。

「あいつの態度は普通の学生の態度ではなかった。普通、殺人の嫌疑がかけられただけでも、

怯えるのが当たり前です」

さも、口惜しそうに答え、出来ることは協力すると約束してくれた。

ところがその刑事の上司はいい顔をしなかった。

『ただでさえ忙しいのに、またぶり返すのか?人員を割くことは出来ない』

その答えに野口は動揺しなかった。上司の反応は野口の予想通りだったからだ。

しかし、どうにか二人の協力者を得て、野口の捜査は始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ