2章(2)
「それでね、実家に電話したけど、使われてないの。それで、実家のある役所に電話したの。
そしたらビックリよ」
「どうしたの?」
「何でも、弘子の死んだ後に、弘子のお父さんも後を追うように亡くなったらしいの。
弘子は一人娘だったでしょ?だから継ぐ人がいなくて、お父さんの遺言どおりに、
全て寄付したそうなの。だから今では家はないのよ」
「じゃあ、弘子の持ち物もないわね」
「ないと思うわ。里美はどうだったの?」
里美は美子に今日の出来事を話した。
「やっぱり弘子かしら。説明つかないわ」
と、美子は里美に言った。
「野口刑事は誰かが、弘子の代わりに恨みを晴らしていると言っていたわ」
「そうとも、言えるけど、話を聞くと、とても人間技とは思えない」
たった三日で人間をミイラにする。美子には理解出来なかった。里美も美子の考えを、
否定するだけの言葉も知識も持っていなかった。黙り込む二人は、必死に次の言葉を探した。
「今度は、弘子のアパートを見てみるわ」
口を開いたのは、美子のほうが早かった。
「うん、気をつけてね」
里美はなぜそんなことを言ったか分からなかった。
「大丈夫。じゃあ、また連絡するね」
美子はそう言って受話器を置いた。里美の言葉はなんとなく理解できた。
里美も弘子の存在をうすうす感じているのだろう。美子にはそう思えた。
何故ならば、美子には弘子の仕業としか思えなかったからだ。
しかも、実家がなくなった以上、弘子が留まるとしたならば、あの、アパートしかないのだ。
美子は怖がりなくせ、幽霊話とかが好きだった。死後の世界を信じていたのだ。
肉体が滅んでも、魂は生き続けると思っていたのだ。ただ、美子には特別な霊感などはない。
しかし、恐怖は少しも感じなかった。相手は弘子だ。
たとえ幽霊になっていても、相手は弘子なのだ。自分に危害を加えることは、
絶対無いと思っていた。そう思いたかったのかも知れない。




