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怨情 2  作者: 勝目博
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1章(3)

 里美は実は警察とのコネを持っていたのだ。コネというよりも、恋人がいたのだ。

もちろん美子には知らせていない。相手はごつい体に怖い顔。

二人が並べば美女と野獣そのもので、警視庁の殺人課に席を構える中堅の刑事だった。

里美が大学に入学して間もない頃に、二人は出会っていた。

美人で大人びた里美は、大学の帰りに暴漢に襲われたことがあった。

その時助けたのが、その刑事で、当時はまだ交番勤務のパトロール警官だった。

肉体的被害はなかったものの、上京したての里美には、ショックが大きかった。

その時親身になってくれたのがきっかけで、今では堂々と付き合っていた。

美大時代には、里美の独りよがりに過ぎなかったが、卒業後二人は急速に接近したのだ。

怒ると怖いが、里美に怒ったためしはなく、とにかく里美には優しかった。

里美は美子との電話を切った後、早速連絡を入れた。

「野口刑事をお願いします」

里美のことは署内でも知られていた。

「ちょっと待ってね」

なれた声が聞こえた。電話の後ろでは、皆がはやし立てる声が聞こえていた。

『野口、姫様からだぞ』

『結婚の相談か』

『うるさい、黙れ』 はははは・・。いつもこんな具合だ。

「はい、野口であります」

電話の出かたもいつもと同じだ。

「いつ暇取れる?頼みがあるの」

「明日は非番であります」

「じゃあ、明日自宅に行くわ」

「分かりました」

野口は電話が嫌いだった。顔が見えないから緊張するのである。

それが里美だともっと緊張するのだ。元来照れ屋なのだ。里美もそのことを知っていた。

だから二人の電話はいつも直ぐに終わるのだ。非番といっても緊急時には呼び出される。

所在を明らかにしておくか、ポケットベルを持ち歩く規則になっていた。

しかも勤務は朝七時まで、交代の署員が来て、初めて休みとなるのだ。

どんなに早く帰っても八時で、寝るのは九時過ぎる。

しかし、里美はしっかりとわきまえていた。来るのはいつも夕方だった。

野口は安心して高いびきで寝ていた。

ところが、里美は昼には玄関をノックした。眠い目をこすり里美を迎え入れたが、

その表情からただ事ではないと読み取った。

「何かあったみたいだね」

「あなた方警察にも関係することよ」

部屋に上がるなり里美は今までの状況を細かく説明した。

「すると、里美さんの親友だった弘子さんと、皆、関係あるわけだね」

野口は決して呼び捨てにはしなかった。

「死んだ弘子が手を下しているとは思えないけど、関係があるのは確かよ。

発見状態も似ているし、同一犯の可能性はあるでしょ?」

「確かに言えるね。ただ、僕は雄二さんの事件を知らない。

調べてみないと何ともいえないね」

「それが私の頼みなの。雄二の事件を調べてほしいの」

二人は軽い食事を済ませ、休日返上で調べることにした。

もしも里美の言うとおりで、繋がりが出てきたら、上司に報告するつもりだった。

雄二の事件は三年以上前の事件だ。

しかし事件は都内で起こり、警視庁の管轄には違いなかった。

雄二事件の管轄署でも昨日のニュースと結びつける刑事がいた。

当時、雄二の事件を担当していて、今回の事件が似ているように思っていたのだ。

しかし、接点が見つからずに困っていた。

同じ美大に通ってはいたが、それだけでは、捜査は進展しない。

そこに、野口と里美が訪れたのだ。

里美の話を聞くと興味を示し、快く協力を申し出てくれた。

この榊という刑事は、現場の酷似点に注目していた。

雄二の調査書類を持ち込み、今回の事件の報告書を、至急送るように連絡を取った。

報告書は、十分足らずでファックスされてきた。類似点は多く見られた。

どちらも体に残された水分量が似ているのだ。早く言えば、ミイラの状態が似ているのだ。

そして、報道はされていないが、どちらも性交渉の痕跡が残っていること。

しかも、一度ではなく、なんども交渉があった事。

雄二の場合は、布団と恋人との身体から残された精液の量から、

最低でも十回の性交渉はがあったと報告書には書かれていた。

今回の事件でも、かなり大量の女性特有の分泌液が布団に残されていたようだ。

また、ミイラ化に近い状態だったにも関わらず、雄二は三日前に仕事をしていたのだ。

その就業時の雄二の状態は、普段と変わらなかったらしい。

それがたった三日でミイラ化したのだ。

報告書の内容に野口も驚きを隠せなかった。


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