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怨情 2  作者: 勝目博
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1章(2)

 十一時きっかりに里美から連絡があった。時間に正確だった里美は、今でも同じだ。

待ち合わせの場所と時間を決めて、里美は電話を切った。それ以外の余計な話は一切しない。

話は会った時にすればいいのだ。里美は無駄なことはしない性格で、

その性格も変わりはなかった。

待ち合わせ場所は美子が決めた。里美曰く、『美子は初めての場所だと、迷うでしょう』だ。

どちらかと言えば、方向音痴なのである。それでも美子は早めに家を出た。

待ち合わせに遅れるのは、美子の得意技だったが、今はもう社会人だ。

少しはしっかりしたところを、里美に見せたかったのだ。

ところが、美子が早く着いたにも関わらず、

里美の前には既にコーヒーカップが置かれていた。

里美は直ぐに気がつき、美子に手を振った。その時数人の男が振り向いたが、

美子には理由が分からなかった。席に近づくと、里美は立ち上がり、美子を抱きしめた。

長身の体はすっかり大人の体になっていた。張りのあるバストはふっくらと上を向き、

くびれたウエストは腰に向けてなだらかな曲線を描いていた。

ヒップは程よく丸く、きゅっと持ち上がっていた。美子が見ても惚れ惚れするスタイルだ。

何人も男が振り向いた理由が分かった気がした。

皆、里美は男と待ち合わせと思っていたのだ。

「元気そうね」

と、席に着くと里美が微笑んだ。向き合った里美の顔は、一段と美しくなっていた。

しかし、嫌味な印象は少しも感じない。洗練されたキャリアウーマンそのものだった。

「里美も、随分大人びて・・・」

「美子も綺麗になったわ、でも、お肌の手入れを怠っては駄目よ」

里美の言葉はちっとも変わってはいなかった。やはりお姉さんだ。

美子は溢れる涙を抑えられなかった。

「泣き上戸は直ってないのね」

そう言う里美の言葉に美子は笑ったが、涙は止まらない。

可笑しな表情だっただろう。里美はそんな美子を、愛しそうに見つめるだけで、

決して責めようともしなかった。美子には、里美の目にも涙が見えた気がした。

その後は昔話に花が咲き、楽しそうに話す二人は、店の中でも一際注目を浴びていた。

もしもこれが夜だったら、声をかける男は、後を絶たなかったであろう。

昔話が弘子の話になったとき、初めて里美も悲しそうな目をした。

「昨日のニュースで思ったの、弘子はまだ復習しているのかなって」

里美はそんな言葉を呟いた美子をじっと見てから尋ねた。

「弘子は一途だったからね。でもそうだとしたら美子はどうしたいの?」

「分からない、でも、もし弘子が苦しんでいるのなら、なんとかしたい」

何が出来るか分かりはしないが、ほっとくわけにはいかない。美子はそう思っていた。

「実はね、私も昨日のニュースでそう思ったの。だから電話が来たとき、

直感で美子だと分かったのよ」

やはり二人、いや、弘子も入れて三人の絆は途切れてはいないと美子は改めて思った。

もしかしたら、弘子が離れた二人を引き合わせたのでは、とも思えた。

「とにかく、ちょっと調べてみましょう」

「どうやって?」

「雑誌の編集者は、警察にもコネがあるの」そう言って里美は片目を瞑った。

美術雑誌の編集者に警察のコネがあるとは思えなかったが、美子は里美に一任した。

その日の夜、事件の続報が流れた。それによって、猟奇事件から、怪奇事件へと発展し、

様々な憶測が飛び交っていた。報道局の調べでは、遺体は極度にミイラ化しており、

当初発表の死後一週間を、はるかに上回るものだった。

ところが、その被害者と、五日前に食事をした男性が現れたのだ。

警察の見解では、たった五日であのような遺体にはなるはずがないとの事で、

その男性も徹底的に調べられたのだ。

ところが結果はシロ。その男性には、覆せないアリバイがあった。

仕事でニューヨークに行っていたのだ。帰国してから事件を知り、警察に届け出たらしい。

そして怪奇事件へと発展した。美子が緊張した面持ちで画面を見ている時、

電話が鳴り出した。

美子は飛び上がった。本来は怖がりなのだ。電話は思ったとおり里美だった。

「見た?」

「今見ているの」

「私も、見ていて思い出したの。雄二も似たような発見状況じゃなかった?」

美子も思い出した。当時のニュースもかなり騒がれていたと。

雄二も骨と皮の状態で発見されたのだ。一緒に居た美奈子は気が狂い、病院で息を引き取り、

結局、理由も原因も分からずに、謎を残したまま処理されていたのだ。

その後、何も報道されないのは、捜査に進展がないからだと思っていた。

「やっぱり弘子と関係あるのかしら」

正直なところ、里美は半信半疑だったのだ。

しかし、美子との交友を取り戻すチャンスと思い、話に乗っただけだった。

警察は弘子との接点に気がついていない。

この被害者が、昔、弘子を落としいれようとしたことを知らない。

「私、雄二の事件を調べ直すわ。美子は生きていた頃の弘子のことを調べて。」

「えっ、何を調べるの?」

「そうね、弘子の持ち物とか、実家に聞いてみてもいいわね。

後、あのアパートがどうなったとか……。出来る?」

「分かった。やるわ」

美子は答えに熱がこもっていた。心の中では、弘子のためだと言い聞かせていたが、

退屈な日々に訪れた一大イベントだと思い、やる気になっていた。


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